月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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新たなる住処

第178話 ダイスの誤算

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月の魔女とよばれるまで

第178話 ダイスの誤算

ダイスの剣の動きに、ミリアの目と身体が慣れるまでの時間はほんの数分だった。最初に相対した相手が月女神の眷属と言う普通ならば、生き残れない相手とつばぜり合いをした経験は相当に大きい。

そして、想像だがミスリルよりも堅いだろう紫の大剣と数合だが斬り合わせたことで、ミスリルならば白の直刀が折れると言うことは無いとミリアが踏んだことも思い切りの良さに繋がっていた。

確かに、ミスリルは高価で鍛えれば良い武器になる。それ以上に今ミリアが持つ白の直刀の方が、武器としてのポテンシャルは上だった。紫の大剣とやり合って破損しない時点で、ミスリルよりも堅い金属かそれに準じる何かだと考えるべきで、それを行わなかったダイスが軽挙だと言うしかない。

ダイスの呼吸に合わせるように、ミリアも動く。上段からの攻撃に下段からの切り上げで対応し、中段からの払いにはこちらも払いで合わせ、下段からの攻撃には剣の軌道を読み、すれすれで避けた。

(ミリアの身体能力が格段に引き上げられているだと!?ここまで来れば、分かる。同ランクの剣士とやり合うのと大差が無い。まさか、これほどとは…。だが、これはこれで面白い)

ダイス自身、元々バトルジャンキー気味であった。それが、ミリアとのつばぜり合いで大分その感覚が出てしまっていて、この模擬戦を非常に楽しんでいた。

実際、ギルドマスターとなって数年。満足に剣を振ることもなかなか出来ない中、ミリアはダイスの求める力量に達していた。いつもは出来ない動きも軽々と対応してくることで、久しぶりに動く中楽しくなってきていた。

そういう点はやはり脳筋と言える。剣に集中することが出来ると言う場がどうしてもダイスには必要だった。ある意味、ミリアが育ったことでそう言う息抜きを提供できるようになったと言えなくも無い。

実際、ミリアがどう思っているかは別としてダイスとしてそう思っていたのだ。

だが、ダイスにとってさび落としであったかも知れない。でも、ミリアにとっては、今まで身についた動きをAランク冒険者の動きで実践出来る場であり、爆発的な成長を見せることになってしまったのは皮肉と言える。

そこが、成長が落ち着いたダイスと伸び盛りのミリアの差となってしまった。それと剣技と剣術、似た物ではあるが似て非なる物だったと言うべきかもしれない。

沙更の生まれである異世界での刀は、どうしても非常なほどの切れ味を誇る。白の直刀も例外ではなく、だからこそゴブリンロードの首ですらあっさり切り裂いてしまっていた。

ダイスの動きに慣れたミリアは、そこまで合わせるのが難しくないことに気付く。確かに死ぬ危険はあるが、それでも紫の大剣と対峙した時に比べればそこまでの威圧感は無かった。

そして、剣技と剣術の最大の差は速度。ミリアの鞘走りからの抜き打ちは、ダイスの反応を僅かながらに超えていたのだ。

その組み合わせが、ダイスの誤算であった。
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