月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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新たなる住処

閑話11 正騎士ゼオン

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月の魔女とよばれるまで

閑話11 正騎士ゼオン

時は戻って、リエットや沙更たちと別れた翌日、クルシスの衛兵達とゼオンは大森林の古びた砦に向かっていた。いつもなら、この時点で盗賊たちと遭遇戦をしているはずが今日に限って出てこない。

沙更たちの言っていたことが当たっているのなら、既に盗賊たちは駆逐されていると言う事になる。遭遇しないことがその答えになっていることをゼオンは悟った。

(まさか、彼らがリエット様達を救ったと言うことか。彼女が支援していたとなれば、盗賊退治ごとき軽かっただろうと思う。それにしても、リエット様はそういうところで引きが強い)

ゼオンとしては、助け出した相手が沙更と言うことにリエットの運の強さを見ていた。盗賊の頭とやりあったこともあるが、手下たちとは一線を画す悪党ながらも一本筋を通した相手だったからだ。

衛兵達も流石にここまで盗賊たちと出くわさないことに驚きを隠せない。ここまでの間にいつもなら何回かの遭遇戦をする格好で、相手の方に地の利がある為かなりの苦戦を強いられる事が多かった。

だが、盗賊の一人も出てこないこの事態に衛兵達も驚くしかなかったのだ。

「ゼオン様、そろそろ砦に到着します」

「ここまで盗賊の一人も出てこなかったな。彼女達の情報は嘘では無かったと言う事だろう。砦の中も捜索するぞ。もし、盗賊の遺骸でもあれば盗賊討伐はなったと言う事で広くこの情報を広めることになる。街道の安全度も格段に上がることになるが、再度盗賊の跋扈を許さぬよう。我々も心しなければならない」

ゼオンの言葉に、衛兵達は頷く。

クルシスの町が好きで衛兵になった者が多い為、ゼオンの稽古にも付いてきていた。それが故に、辺境伯の領地で一番何処の兵が精強かと言われればクルシスと言うしか無い。ウエストエンドよりも少数ではあるが精鋭であったからだ。

そのまま、古びた砦の中に入っていく。中に入ったところで、血の臭いが漂うことにゼオンが気付いた。

(この匂いと言う事は、まさにここでやり合ったと言う事か)

独特な匂いはゼオンの感を鋭くさせる。やはり、彼女達の情報が正しいと言う事をこの匂いが証明していたからだ。

奥へ進むとそこには、半身を割られて斃れた盗賊の頭の骸があった。他にも数名の盗賊がそこで死んでいたのだ。

「ゼオン様、これで盗賊退治はなったと広報出来ますな」

「ああ、だが我らがこれを成し遂げなければならなかった。彼らが通りがかった時に仕掛けたのがこいつらの運の尽きだったのだろうが、今回のことを良かったと思ってはならぬ。我らがなさねばならぬ事を彼らに押しつける結果になったのだからな」

ゼオンとしては、そこを譲る気は無かった。どうしても、自らリエットを助けに行きたかったのだと力のなさを痛感する形になったからだ。

(リエット様、今度こそは貴女の力になれるよう鍛錬を積んでおきましょう。この剣は貴女のために使うとあの時決めたのだから)
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