月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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新たなる住処

第199話 孤児院の重病人8

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月の魔女とよばれるまで

第199話 孤児院の重病人8

目を覚ました彼女が顔を上げると沙更が姿を見せる。

「あれ、様子を見に来たの?」

「久しぶりだと思うけど、シチュー食べるかなと思って持ってきたよ」

沙更の手にある湯気を上げているシチューを見て、少女のお腹が鳴った。考えてみれば、しばらくご飯らしいご飯を食べられていなかったからだ。

隔離部屋に来たら死を待つのみ。元々の孤児院なら病人でもある程度のご飯を与えることが出来ていたが、今の孤児院にそこまでの余裕がない。だから、少女に食事を与えられなかったのだ。

とは言え、今は沙更が居るのでそう言うこともないのだが。

「葉野菜と干し肉のシチューは食べられそうですか?」

沙更の問いに少女は頷く。孤児院で、そこまで凝った料理が出てくるのはかなりまれでなかなか無いことだった。
それだけに、久しぶりの食事としてはかなり豪華だなと少女は思う。

「えっと、良いの?あたしが食べても」

「食べて貰うために、持ってきた物だから食べて欲しい」

沙更がそう言ってシチューが入った皿とスプーンを差し出すと少女はそれを受け取って、一口食べる。温かいシチューがご飯を食べられていなかったお腹に優しく溜まっていく。

塩をあまり使っていない事。そして、牛乳の甘みと煮込んだことで干し肉と葉野菜の栄養が溶け込んだおいしさを感じて、驚いてしまう。

「ご飯も久しぶり。でも、このシチューは美味しいね。誰が作ったんだろう?」

少女の問いに、沙更は自分を指さす。

「美味しいって言ってくれて嬉しいかな。作ったのは私だから、生の声が聞けるって嬉しいよね」

その言葉に、少女は驚いた。五歳の女の子がこれ程の料理を作るなんて想像もしていなかったのだから。少なくても元気だったとしても自分が同じことが出来るとは思えなかったのが大きい。

食材があってもそれを生かせるかは、料理人の腕次第。沙更としてはなるだけ美味しく食べてほしいと思って作ったからほっとしたのだった。

人によっては口に合わないこともあるから、そこも考えるとなかなか難しい。

「口に合って良かった。食べ慣れない味だから、美味しくないこともあるし、ちょっと心配だったから」

「孤児院でこれだけのご飯が出てくることなんて滅多にないよ。それに、十分おいしいから安心して」

少女はそこまで言うとゆっくりゆっくりシチューに口を付けていく。沙更はそれをただ見守っていた。何も言葉を発しなくても別に気にならない。何というか、患者と医者という関係ではなくなっていた。

少女がシチューを食べ終わる頃には流石に冷めてしまっていたが、それでも久しぶりの食事は孤児院で出る食事としてはかなり豪華だったことで、笑顔を浮かべてくれた。

「久しぶりのご飯がこれで凄く嬉しかった。治癒士さんは、ここに居てくれるの?」

「私?私は、ミリアお姉さんに連れられてここに来たからしばらくはここに居るよ。でも、どうしてそのことを聞いたの?」

沙更として、その問いに首をかしげる。少女がどうしてその事を聞いたのか分からなかったからだ。
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