月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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フィリエス家の内情と戦

第240話 猪の鼻亭での料理対決3

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月の魔女とよばれるまで

第240話 猪の鼻亭での料理対決3

ジークに盗賊たちのアジトて手に入れた財宝を渡して、孤児院から外に出る。そろそろ猪の鼻亭に行く時間になっていたからだ。昼の鐘が鳴ってからかなりの時間が過ぎていた。

流石に、お腹も空いてきた荒野の狼の面々。リエットも孤児院に遠慮して、お腹に物を入れていなかった為に大分お腹が空いていた。

そろそろマッグスから言われた時間でもある。そろそろ猪の鼻亭に向かっても問題ないだろうと思って動くことにした。


その頃、猪の鼻亭でのお昼の営業を終えたマッグスは、沙更の到着を心待ちにしていた。

ウエストエンドには食堂は数店しかない。今の辺境伯は商業に力を入れていないこともあり、店を出すのも王都が一番であると理由もあって、ここで店を開こうと言う人間はそんなにいなかった。

本当ならば、王国第三番目の都市なのでかなり賑わっていてもおかしくは無いのだ。それが出来ていないのは、辺境伯の重税に他ならない。実際、他の都市に猛追されていて王国第三番目から転落しかかっていると噂が流れるほど人が減ってきていた。

今あるお店も昔から営業しているところが大半で、新規の出店はほぼ無いと言って良い。町自体の活力が失われつつあるのを見ていたがそれは辛い物であった。

お店のやりくりも大分苦しくなり、昔なら豚の塩漬け肉を使わなかったが今では料金を維持するために質を落とさざるを得ない。

そんな決断をしながらもお店を営業してきていたが、料理人として諦めが出てしまっていたことにも気付いていた。それだけに、沙更の言葉にやはりこのままではいけないのだと気付かされる格好だったのだ。

(あんな幼い子に背を押して貰ったなんて言えねえな)

このところの精神的疲労で、かなり弱気になっていたことを独りごちる。娘も妻もそんなマッグスに気付いていなかった。妻はお店のやりくりで奔走しているし、娘には店を手伝って貰っている。そんな二人に弱音は吐けなかった。

ある意味男の意地が、マッグスを追い詰めて行っていたと言うから笑えない。


沙更やミリア達荒野の狼とリエットが猪の鼻亭に付いたのは孤児院を出てからすぐのこと。マッグスも流石にリエットが混ざっている事に驚きを隠せない。

「貴族のお嬢さんがうちの店に来るとはな」

「リエット様の事は気にしないでください。護衛をしなければならない関係上、離れて貰っては困るので一緒に来て貰っただけですから」

沙更の言葉に、マッグスは首をかしげる。アンナの友達のミリアが冒険者なのは知っていたが、貴族の護衛が出来るほど凄腕と言う事は聞いていなかったからだ。

「あんた達、毎回毎回うちの飯を食べに来てくれてるが何者なんだ?」

素朴な疑問がマッグスの口から出る。その言葉に返したのはミリアだった。

「この間、この町の最高ランクであるBランクに上がった冒険者パーティー荒野の狼はあたしたちのことだよ」

「えっ!?じゃあ、森の異変を騎士団より早く鎮圧した冒険者ってあんたたちのことだったのか!!」

知らなかったとは言え、この町を救ってくれた冒険者とはマッグスは思っていなかった。荒野の狼がそう言う大それたクエストを受注できるようになったのも沙更のおかげと知らないから。

「とりあえず、豚の塩漬け肉とキャベツで何が作れる?」

「いろいろと試そうと思います。水はどのくらい使っていますか?」

沙更の質問にマッグスは大体大きめの木桶一杯分程度と答える。それならば、やりようがあると沙更は思った。
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