月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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フィリエス家の内情と戦

第245話 孤児院に迫る闇

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月の魔女とよばれるまで

第245話 孤児院に迫る闇

沙更たちが料理対決を終えて孤児院に戻った頃、辺境伯の入り婿であるリエットの父親はウエストエンドの外れに位置する暗殺者を統括する闇ギルドに顔を出していた。

確実にリエットを抹殺する為に兵士や騎士を使ってはその分事が露見しやすい。さらに、己との関係性すらすぐにばれてしまうことと確実に抹殺するためには情を持たない暗殺者が一番だと踏んだのだ。

闇ギルドとしても、辺境伯の入り婿がどういう人物なのかは知っていたがそれはそれ。今はただお客として扱っている。

「こんな所へようこそ」

「私の用件は伝わっていると思うが出来るか?」

リエットの父親の問いに闇ギルドの受付の青年は顔色を変えずに頷く。そもそも、ここに来る人間は自分の欲望に忠実か嫉妬故かそれとも憎悪の果てか、いちいち詮索していたら時間が足りない。

「用件は聞いておりますが、どれほどの人間を雇うおつもりで?」

「最低でも中級暗殺者以上の人間を10名だ。金ならこれで大丈夫だろう」

リエットの父親は受付の男に、大金貨15枚を出す。中級の暗殺者10名ならばこのお金で事足りる。上級ならば後5枚は足さなければならなかった。

「お金の方は確認しました。人員はこちらで選定いたします」

「分かった、くれぐれも頼むぞ」

リエットの父親は、受付の男にそれだけを言うとその場を後にした。その姿を見送った青年は一人呟く。

(まったく、貴族はよくわからねえよ。自分の娘を殺そうなんざ人間じゃねんだろう)

受付の青年がやりとりを記した紙を裏に回す。すると裏で、暗殺者を斡旋している男が呆れた顔をした。実の父親が娘を殺そうと考えること自体が呆れるに相応しいと思ったからだ。

「貴族のしがらみは俺らじゃわからねえがわかりてぇとも思わねえな」

「お頭、今回の一件はどうします?」

「このところ、ウエストエンドも住みづらくなっちまった。さっき来たあのアホ男がのさばるようになったからだ。ったく、ぼやきが過ぎるか」

「かと言って、受けないわけにもいかないでしょう?」

「だから面倒だと言っている。そろそろここを引き払うべきだと思っていた。頃合いだろうよ」

闇ギルドの長は、リエットの父親の振るまいにぼやくしか無い。依頼は依頼故受けるが、成功させるとは誰も確約していないのだから。

「中級暗殺者がメインだったな。あの娘も入れておけ。相手があの荒野の狼なら、救ってくれるだろうさ」

「良いのですか?半分精神が死んでいるような物ですが?」

「荒野の狼に新しく入った娘は、相当凄腕の治癒士なんだとよ。もしかしたらもしかするだろうが」

「はあ、他のメンツはどうします?」

「そもそも、あの荒野の狼と事を構えるのに中級暗殺者で足りると思ってるのか?」

闇ギルドの長は、受付の青年にそう言う。既にある程度情報を掴んでいるようだった。沙更が荒野の狼に加わってまだ一週間ほどだったが、それでもある程度噂が流れていた。凄腕の魔法士であり、治癒士だと言う噂が流れていたのだ。

「後のメンツは雑に選んでおけ。どちらにしろ、相手がミリアなら勝てねえよ」

闇ギルドの長は、ミリアの実力を知っているどころかその技の師匠であった。

実際で言うとミリアの親戚であるのだが、こんな仕事をしている故に引き取る事も出来ずにその技を教えるに留めていたのだ。更に言うなら、ミリアはその技を覚えつつも他にもいろいろと覚えたことで優秀な探査役になっていた。

その事も覚醒したことも知っているだけに、下手な暗殺者で対応できるわけがないことも知っていたのだった。
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