月の魔女と呼ばれるまで

フィリエス家の内情と戦

閑話１５ 現辺境伯

月の魔女とよばれるまで

閑話１５　現辺境伯

現辺境伯であるリエットの母親、カタリーナ・フィリエスは床に伏していた。病気に罹って、既に二年。病状は少し回復しては悪化しを繰り返して、徐々に弱ってきていた。

その間に、夫が好き勝手やっていることもジークから報告を受けていたが今の状態では何も出来ない。末娘のリエットを盗賊に売ったと報告を受けた時点でどれだけとち狂ったことをしたのと聞いた時には呆れるしかなかった。

リエットだけが実子の為に、この辺境伯家を継ぐことが出来る。それを鑑みて厳しくしていたのだが、あまりにも会話をしていないことで、リエットに誤解されていると言う事も知ってはいたけれど行動に移せなかった。

そこに来て、夫のその行動である。心配にならないわけがなかった。厳しくしていてもそこは腐っても母親ということだろう。

その後、冒険者に救って貰ったと聞いてはいたが病気を移す可能性もあったため、会うことはせずにいたのだがそれが間違っていたと気付くまでそんなに時間は掛からなかった。

「まさか、暗殺者まで向かわせるなんて」

「奥様、あまり興奮しないでください。身体に触ります」

「ジーク、貴方がなにもしていないとは思わないけれど大丈夫なの？あの子を失ったら、この家は」

「リエット様を助け出してくれたこの町一番の冒険者たちに護衛の依頼を出して受けてもらっています。街道の盗賊を退治した実力ある者たちです。心配はいりません」

カタリーナの心配はリエットよりも先に家のことになってしまう。貴族として当然ではあるが、親としては失格と言うしかない。

元々、采配である夫とは政略結婚であったから、夫婦仲は冷めきっていた。それだからこそ、夫は別の女に子供を作らせていたし、カタリーナもそれを止める気もなかった。

義務で、リエットを産んだものの愛情を注げなかったのは自身の心の弱さから。本当なら、もう一人産まなければならなかったがカタリーナ以上に夫のほうがその気にならずに、今に至っていた。

「リエットに悪いことばかりしているわ。重荷ばかりで、優しくしてあげたこともないのよ。母親としては失格ね」

「奥様、今からでも遅くはありません。お嬢様に、そう接して上げてはいかがですか」

ジークとして、思っていても行動に移せないところはカタリーナの悪い癖として見ていた。夫との生活に疲れ、病気になり心が弱った状態のまま。

王都の高名な治癒士にも見てもらったが、それでも病気を快癒させることは出来ずに、今に至っていた。

「ジーク、あの子のことを頼むわ」

「奥様、言われなくてもお嬢様の安全はお守り致します。盗賊に売られた際に、助けられなかったのが一生の不覚でしたからな」

「あの子を買っているのね。娘の才覚すら見抜くことも出来ずに、床に付している時点で何も出来ないのよ。笑うしかないわ」

カタリーナは、そう言うと疲れたのかそのまま眠ってしまう。その様子を見て、ジークは沙更のことを頭に浮かべていた。

（奥様をあの娘に見てもらおう。快癒の可能性があるとすれば、それしか方法はあるまい）

眠ったカタリーナを見つつ、行動に移すことにした。