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フィリエス家の内情と戦
第263話 元辺境伯との邂逅1
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月の魔女とよばれるまで
第263話 元辺境伯との邂逅1
ジークと共に屋敷に入ると三十代半ばのメイドがジークに近寄ってきた。どうやら、この屋敷のメイド長のようだ。
「ジークさん、宰相様から顔を出すようにと事付けを受けています」
「ここで、呼び出しされるとは」
ジークとしては、王都から動かれることはないと思っていただけに衝撃であった。流石に、王国の宰相からの言付けに行かないわけにはいかない。
「お嬢様と幼い治癒士様と冒険者の皆様は、お嬢様の私室にてお待ちください。宰相様との話をしてから、奥様の所へと案内いたします故」
リエットが不安そうにする中、沙更は状況がいきなり動き出していることに貴族ならではなのだろうと当たりを付けていた。貴族が貴族を処罰するには綿密な証拠が必要となる。余程わかりやすい罪を犯さない限り、その地位を追い落とすのはかなり難しい。
策略を練り、敵を追い落としつつ、自分たちの派閥の勢力を増やすなどを使って王宮内で暗闘するのが貴族の戦い方であるからにして、今回はリエットの父親がやり過ぎたと言う事だろうと推測を付ける。
辺境伯は、貴族としても上から数えた方が早い程上級の貴族だ。だが、それでも更に上を目指そうとしたリエットの父親は権力にとりつかれていると言って良い。
侯爵に上がりたいと言うことを言っていたことは、リエットの口から知っている。だが、辺境伯は独自に軍隊を持てる唯一の貴族だったりする。私兵を持つ事は裕福な貴族なら普通だが、公的な兵隊を持てるのは王族と辺境伯のみとシルバール王国の法に定められていた。
ジークは先に、宰相である元辺境伯の所へ向かう。応接室で優雅にお茶を飲んでいる老齢の貴族。それが宰相、元辺境伯であった。ガッチリとした身体に185cmを超える長身、腰にミスリルのロングソードを持っている当たりが武官の面影があった。とても老齢とは思えない程に研ぎ澄まされた圧をジークは感じていた。
「ジークか」
「お久しぶりでございます、恩師」
宰相の言葉に、ジークはそう返す。30年ほど前、冒険者として慣らしたジークだったが古代遺跡探索時に辺境伯だった頃の宰相に命を救われた過去を持つ。当時、辺境伯だった宰相は貴族として古代遺跡探索の第一人者であり、その身を戦いの場に置き続けた猛者であった。
「カタリーナには悪いことをした。あいつでなければ、もっと穏やかに生きていられただろう。あいつを推したわしの責任だ。しかし、あいつの行動はお前のおかげで裏が取れた。礼を言う」
「いえ、恩師に礼を言われるほどではありませぬ。このジーク、奥様を病から守れませんでした」
「あいつが仕組んだのは知っている。だが、治療となると我が国の治療士ではほぼ不可能だろう。呪いの解呪は、今の教会でも厳しい」
宰相はそう言うとジークに向けて口を開いた。
「あいつを処罰する前に、姪にその事を告げねばならぬ。あの子のことだ。自分の事のように謝るだろうが、もはやかばい立てできる状況では無い」
「カタリーナ様には辛いでしょうな」
「亡き妹の遺児であるあの子に苦労をして欲しくなかった。それ故に、あいつを推したが誤ってしもうた。そこはあの子に謝る他あるまい」
宰相として、妹の娘であるカタリーナを思っての政略結婚だったがぶちこわしたのはリエットの父親である。それだけに、もっと相手を見定めるべきだったと後悔していた。
「わしもあの子の見舞いをしよう。そう言えば、ジーク。連れが居たようだが?」
「お嬢様とお嬢様のお知り合いと一緒にこの屋敷に来ました」
「虐げられていたあの子の娘か、わしも会っても良いか?」
宰相の言葉に、ジークは頷くことで返す。そもそも、断ると言う選択肢はジークには存在していない。それに、リエットに宰相を引き合わせることは悪いことではなかった。
第263話 元辺境伯との邂逅1
ジークと共に屋敷に入ると三十代半ばのメイドがジークに近寄ってきた。どうやら、この屋敷のメイド長のようだ。
「ジークさん、宰相様から顔を出すようにと事付けを受けています」
「ここで、呼び出しされるとは」
ジークとしては、王都から動かれることはないと思っていただけに衝撃であった。流石に、王国の宰相からの言付けに行かないわけにはいかない。
「お嬢様と幼い治癒士様と冒険者の皆様は、お嬢様の私室にてお待ちください。宰相様との話をしてから、奥様の所へと案内いたします故」
リエットが不安そうにする中、沙更は状況がいきなり動き出していることに貴族ならではなのだろうと当たりを付けていた。貴族が貴族を処罰するには綿密な証拠が必要となる。余程わかりやすい罪を犯さない限り、その地位を追い落とすのはかなり難しい。
策略を練り、敵を追い落としつつ、自分たちの派閥の勢力を増やすなどを使って王宮内で暗闘するのが貴族の戦い方であるからにして、今回はリエットの父親がやり過ぎたと言う事だろうと推測を付ける。
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侯爵に上がりたいと言うことを言っていたことは、リエットの口から知っている。だが、辺境伯は独自に軍隊を持てる唯一の貴族だったりする。私兵を持つ事は裕福な貴族なら普通だが、公的な兵隊を持てるのは王族と辺境伯のみとシルバール王国の法に定められていた。
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「ジークか」
「お久しぶりでございます、恩師」
宰相の言葉に、ジークはそう返す。30年ほど前、冒険者として慣らしたジークだったが古代遺跡探索時に辺境伯だった頃の宰相に命を救われた過去を持つ。当時、辺境伯だった宰相は貴族として古代遺跡探索の第一人者であり、その身を戦いの場に置き続けた猛者であった。
「カタリーナには悪いことをした。あいつでなければ、もっと穏やかに生きていられただろう。あいつを推したわしの責任だ。しかし、あいつの行動はお前のおかげで裏が取れた。礼を言う」
「いえ、恩師に礼を言われるほどではありませぬ。このジーク、奥様を病から守れませんでした」
「あいつが仕組んだのは知っている。だが、治療となると我が国の治療士ではほぼ不可能だろう。呪いの解呪は、今の教会でも厳しい」
宰相はそう言うとジークに向けて口を開いた。
「あいつを処罰する前に、姪にその事を告げねばならぬ。あの子のことだ。自分の事のように謝るだろうが、もはやかばい立てできる状況では無い」
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「亡き妹の遺児であるあの子に苦労をして欲しくなかった。それ故に、あいつを推したが誤ってしもうた。そこはあの子に謝る他あるまい」
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「わしもあの子の見舞いをしよう。そう言えば、ジーク。連れが居たようだが?」
「お嬢様とお嬢様のお知り合いと一緒にこの屋敷に来ました」
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