月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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フィリエス家の内情と戦

閑話17 ガーゼルベルト動く

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月の魔女とよばれるまで

閑話17 ガーゼルベルト動く

カタリーナの病が沙更により治癒した事を喜んで、王都に戻ったガーゼルベルトだが子爵領でリエットの父親が暗躍していることを突き止めていた。完全なる領地の簒奪であり、王国に対する挑戦状であった。

「あやつめ、子爵領を我が物としたか…」

「はい、子爵様はあの方の手で処刑されたそうでございます。直系の子息の一人が子爵領から他の領地に逃げ込めたそうです」

「その子息は、こちらで保護しておけ。そして、あやつのことだ。直接カタリーナを殺しに行くだろう。となれば、わしが黙っているわけにはいかん」

「旦那様、カタリーナ様に付く兵力は子爵領を手にしたあの方の3分の1と聞いています。旦那様はそれでも行かれると?」

部下の言葉に、ガーゼルベルトは不敵な笑みを浮かべた。

「はっ、あいつが束ねた騎士は実戦経験も薄く、鍛錬に対する気も入っていないひよっこ。対するカタリーナの側の騎士たちはあの騎士ゼオンを含めたわしの元子飼い。どれだけの練度の差があると思っている。それに、わしがそのまま黙っているとでも!?」

一気にガーゼルベルトから怒りのオーラが吹き荒れる。ここまでオーラを使いこなす武人はガーゼルベルト以外では近衛騎士団長がギリギリ及第点に乗るかどうかだ。それだけに、ガーゼルベルトがどれだけ突出しているか分かろうと言う物。

武器や防具は、確かにリエットの父親の側が質量共に上である。が、軍とは武器と防具で勝敗が決まる物では無い。戦い方で、その武器や防具の質や量をも覆せるとガーゼルベルトは知っていた。

「一糸乱れぬ行軍をやってのけるほどの練度もあやつの軍には無い。確かに数は多いだろうが、戦場での経験もないような連中にわしの元部下達がやられるとでも思うたか?確かに、カタリーナが伏せっている間に練度は落ちたかもしれん。だが、それだとしても覆せぬほどの差がそこにはあるのだ」

本当ならば、王国騎士団が動かなければならない事態である。が、それを拒んだのはガーゼルベルトだった。子爵領と辺境伯領だけの問題ならば、国が出張っては遺恨が残る。だからこそ、あの土地を知っているガーゼルベルトが出ると決めた。

既に、前日に国王の許可は得ていた。下手に王国騎士団を動かして、王都の守りを薄くするわけにも行かない。カタリーナの見舞いに行く前から、元子飼いの部下にカタリーナに翻意がなければそのまま参戦してくれるように書状を送っていた。そういう点では、姪を守ると言う信念を貫き通していたのだ。

だからこそ、元からガーゼルベルトに付き従っていた騎士達はそのままカタリーナに付いてくれている。確かに数は少ないが、それだからと容易く敗れるかと言えば否であった。

「カタリーナは亡き妹の忘れ形見。わしがこの命を張るに相応しい相手よ。老いたとは言え、そんじょそこらの騎士どもに引けを取るつもりは無いわ」

だからこそ、ガーゼルベルトはこの戦にカタリーナ側として参戦を決めていたし、すぐさま王都を離れることにした。優秀な部下がいるだけに、他の貴族達もこの戦に関しては日和見を決めてくれている。下手に辺境伯領のことで、手を出そう物ならガーゼルベルトの怒りを買う。

そうなったら、下手すれば自分たちの命運すら危うくすると分かっているだけに手出ししようとはしない。利益にならないどころか、下手すれば睨まれる。最悪は直接対決に持ち込まれる可能性すらあった。

戦を知り尽くした男に、半端な気持ちで刃を向けては待つのは破滅のみ。だからこそ、大貴族達も手を出せない。だからこその日和見なのだ。

「こちらの手は既に打った。あやつに荷担する貴族は出まいよ」

「旦那様に睨まれては、下手な大貴族でも命取りでしょう。ならば、後方は安全と見ても?」

部下の言葉に、ガーゼルベルトは頷く。その後、部下とのやりとりを終えたと同時に戦支度を済ませ、宰相として赴任した時に付いてきた騎士100人を連れて、辺境伯領を目指し行軍を開始した。
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