月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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最終章 目覚める神

第324話 月の慈悲

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月の魔女とよばれるまで

第324話 月の慈悲

 元眷属に一撃を譲ってから、月女神は左手にセレスティアルソードを握っていた。完全復活した月女神の魔力を浴びて、セレスティアルソードもまた淡く輝く。その光は淡く神々しいと言うに相応しい煌めきを放っていて見る者を引きつけていく。

 元眷属は、完全なるセレスティアルソードの輝きに逆に恐怖を覚えたようだ。

「その光は、瘴気を浄化する月の光!!」

 瘴気を持つ生物に取っては、恐怖を覚えるしかない。一太刀浴びれば、体内にある瘴気を粗方浄化されてしまう。異世界の邪神もその力には抗えず、元の世界に送還されてしまっているのだから。神が抗えないのなら、半神が抗えるわけもない。

 それだとしても、今の元眷属の場合は送還ではなく消滅になってしまう。それだけに、紫の大剣を使って一気に攻める事にしたようだ。月女神はそうすると分かっていて、そうするように仕向けたのだが元眷属にそれは伝わっていない。

 上段から来る切り下ろしをセレスティアルソードであっさりと合わせて、威力をそぎ落として流す。流石に、月女神の剣技は神が使うものだけに、洗練されすぎていた。

 それでも、今のミリアには月女神の剣が見えていて、その様子に気付いた月女神が念話をミリアに送る。

『ミリアさんと言いましたね。今の剣の動きが見えたのなら、その動きを見て覚えなさい。沙更の力になるのでしょう?直接、貴女に何かを渡す事は出来ませんがそれでもこのくらいの事は良いと思うのです』

 月女神は、元眷属の攻撃をあっさりと再度弾くとミリアの方を一瞬だけ見た。剣の動きを追う事に集中していたミリアだが、その視線には気付いて頷く。

 その間にも元眷属は中段からの胴凪ぎに、下段からの切り上げと手を変え品を変えて攻撃するが、月女神は表情も変えずに、ハエを叩く感じでその動きに対応し弾いていく。

 最初の上段が力強い一撃だったのに対して、中段と下段の攻撃は元眷属の焦りが見えていた。数千年の間に、人間達を虐殺するだけに使っていた剣と神々との戦いで振るっていた剣では、難易度が全然違う。それ故に、元眷属の心に焦りが生まれてしまったのも無理は無かった。

『くっ、流石御方か……。数千年の間に汚れた我の剣が一切通じぬとは…』

 ここまで来ると、流石に悟るしかない。剣で、月女神には届かないのだと。すれば、瘴気を使うしかない。だが、それは自分の存在を削ることになる諸刃の剣であった。

 元眷属の決意の目に、月女神はその決意に乗せられるように一回セレスティアルソードを鞘に収めた。意外な行動に沙更たちも驚くが、もっと驚いたのは元眷属であった。

「なっ、鞘にいれるとは我を甘く見たか!?」

「そう思うのなら、それで良いでしょう。私も次で終わらせる気になりましたから」

 月女神の行動に、ピンと来たのは沙更とミリアの二人だけ。刀ではないが、セレスティアルソードにも同じ事が出来るのだと気付いた。もしくはまた別の何かかもしれないが、一回鞘に収める必要があったのだと察した。

 元眷属が次に繰り出したのは瘴気も使って一気に加速しての先ほどの速攻の上段切り落とし。瘴気を使っての一撃は、先ほどとは比べものにならないほどの威力を持っているのが見える。が、それより早かったのは月女神。

 元眷属の上段切り落としを切り下ろす前に、横一文字の光の斬撃を決める。鞘からの抜き打ち一閃。相手よりも遅く動いたにもかかわらず、光の速さにて踏み込んでの一撃は人に見えるものではなかった。

 切られた事に気付かずに、切り落としを決める元眷属だったが決めてから数秒で一気に瘴気が消えていく事に気付いた。

「なっ!?」

「貴方の負け。瘴気は全て浄化するのが私なのは知っているはずでしょう?」

 月女神は、あっさりとそう言って目を伏せる。もう、相手が消えるのが分かっているからの行動だった。切られた元眷属は正気を失い。既に身体を維持出来なくなっていた。

「瘴気が消えていく。浄化されたと言うのか…。御方…」

 元眷属はそれだけを告げるとこの世から消えた。それを見届けた月女神は、息を吐く。

「異世界の邪神にそそのかされた馬鹿な子。だけれど、それで人に災厄を運んでいたのだから相応の罰は必要になるわ。だから、瘴気は晴らして魂も浄化しておいたわ。次生まれるのはいつか分からないけれど、次はそそのかされないで欲しい」

 それだけを元眷属が消えた場に告げたのだった。
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