月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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最終章 目覚める神

第333話 ギルド支部長の末路

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月の魔女とよばれるまで

第333話 ギルド支部長の末路

 翌日、ゼオンの屋敷で休ませて貰った五人はゼオンと一緒に朝食を頂いていた。昨日の内に、ゼオンはエンシェントゲートのギルド支部長を監視することにし、衛兵達が側にいる事で逃走を妨害していたのだ。

 ギルド支部長を足止めしている間に、ウエストエンド冒険者ギルドマスターダイスがクルシスに到着していた。

「クルシスに着いたが、あいつはどこにいる!?」

 門の衛兵達に聞いたところ、ゼオンが知っているとの事で案内されているがそこに沙更達がいるとは思ってもみなかった。でも、沙更の事を知っているだけに追い抜かれていったのだと理解は出来たが。

「お前達、先に来ていたのか!?」

「ダイスさん、私の補助魔法は使いすぎて桁が外れているのを忘れていましたか?」

「ああ、そういうわけじゃないんだが流石に馬車より速いとは思ってなかったんだ」

 ダイスが正直に感想を言うと出迎えたゼオンが苦笑を浮かべた。

「彼女は私たちの尺度で測れない人ですよ。古代魔法を使いこなしている時点で、普通の魔法士の尺度が使えないのが分かりきっていますからね」

「確かにそりゃそうだな。それにしても、ゼオン殿があいつを確保しておいてくれているとは思ってもみなかった」

「エンシェントゲートを放棄して、民を惑わせたとなればその罪は重い。カタリーナ様の命なくして、騎士爵である私が動けるわけがないのだが、あの者にはそれが理解出来ないらしい」

 ゼオンからしてみれば、エンシェントゲートのギルド支部長は小物過ぎると言うのが正直な感想のようだ。その辺は冒険者と騎士の違いと言って良いかもしれない。

「どちらにしろ、あいつを確保しておいてくれて助かった」

「足止めしておいたのは彼女たちの進言のおかげと言って良い。こちらも困っていてね」

「クルシスの兵を勝手に動かすわけにはいかねえもんな。そのくらいの事情を分かってねえで、ほいほい兵を出せたら苦労しねえよなあ」

 ダイスとしては、流石にカタリーナとのパイプもある上に前の戦にも嚙んでいたからこそ理解出来ていたが、それでも安易すぎたと言うしか無い。領主の兵は早々簡単に出征出来るものではない。だからこそ、腰が重いと揶揄されるのだが今回はそれで良かったと言えた。

 今回の件、冒険者ギルド側としても不本意であったし、ゼオンの側としても許せる振る舞いではなかった。カタリーナの思惑を冒険者ギルドの支部長が勝手に壊すなどとあってはならないことだったからだ。

 ゼオンとダイスは、エンシェントゲートのギルド支部長が足止めされている場に向かう。牢屋とまではいかないが、勾留所として罪人を留め置く場所に入れられていた。

「何故、私がこのようなところに入れられなければならないのだ!!」

「それが分かってねえ時点で、てめえは支部長止まりなんだよ!!」

 勾留所でギルド支部長の言葉に、ダイスの怒りが炸裂した。直接は手を出さないが、元Aランクであったことを理解させるには十分な殺気がそこにはあったからだ。

「はあ、てめえなめてんのか!?ウエストエンドに連絡はよこさねえ、独断でエンシェントゲートを放棄する。挙げ句の果てには、ゼオン殿に迷惑をかけるわ。カタリーナ様の思惑すら砕きやがって、冒険者ギルドがこれからどれだけ手を焼く事になるか分かってやったか!?ああ!!!」

 独断で動く事が組織にとって致命傷になる事もあり得る。しかも部下が勝手にそう言うことをしたとなれば、冒険者ギルドの信用に傷が付くのは必然であった。しかも領主とギルドマスターに相談なしなれば、かばう事すら不可能。自分のした事を自分で責任を負う羽目になるとは、予想していなかったのだろう。

 余りの殺気に、ギルド支部長は真っ白な顔に変化していた。衛兵達はまだ青い顔くらいだったが、それでもあと少しでも強めれば腰を抜かしてしまいそうなくらい濃密な殺気であった。伊達にAランクまでは上り詰めてはいないと言う証である。

「しかも、エンシェントゲートの冒険者で護衛が出来ないと分かっていて決断しやがったな。うちの荒野の狼がそっちに行ったので、おとりに使ったんだろうがそれが許されるとでも思ったのなら冒険者ギルドにいるんじゃねえよ。しかも、全てあいつらに任せやがって。あの子がいたから、全て片付けてきやがったが普通のBランクにそんなことをしたら潰れちまうんだよ。分かってんのか!!?」

 ダイスの怒りは、収まる気配が一切無い。それもそのはず、大失態どころのレベルではない。領主との連携にヒビどころか解消されても文句を言えない不祥事であった。ルーカが居たとしても激怒されていたに違いない。しかも、ダイスの抑えであるルーカは今ウエストエンドのため、ここに来る事が出来るわけがなかった。

 ウエストエンドでも久しぶりのBランクに昇格した冒険者パーティーを1支部長の思惑で潰されては、昇格させた側としても非常に悲しいし、憤りが出て当然の話だった。いろいろと総合してもダイスが切れないわけがなかったのだ。

「ダイス殿が怒る理由も分かる。どちらにしろ、この人間は罪人になると言う事でよろしいか?」

「私が罪人だと!?」

「お前はカタリーナ様の戦略を根底から崩した大馬鹿野郎なんだよ。その時点で咎人なんだが分かってるか?」

 ダイスの言葉に、最善を尽くしたはずのギルド支部長の表情が青ざめていく。ようやく自分のやった事が理解出来たらしい。その表情を見て、ゼオンがとどめを刺す。

「どちらにしろ、ウエストエンドに移送の上でカタリーナ様からの裁きがあろう。重罪人であることには変わりがないがな」

 その事実だけは変わらず、後日カタリーナの裁きを受けたギルド支部長はその職務を解かれ、50年間の鉱山労働が決まった。事実上の死刑であり、くつがえることはないことに気付いた彼がその時何を思ったのかは沙更たちに伝わる事は無かった。
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