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第82話 波紋
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「校長先生と、どんな話をしたの?」
父さんはしばらく答えなかった。しばらく時間をおいて、父さんは話し始めた。
「レベル80で人を殺せる魔法が使えるようになるんだってな。しかも、その魔法を使わないとレベル100までは上がらないと」
「うん」
魔法のレベルというのは、その時使える一番強力な魔法を使わないと上がっていかないものなのだ。
レベル80で人を殺せるようになることは、できれば父さんにも母さんにも知られたくなかったから、今まで言っていなかった。知られたら心配かけそうだから。
僕が「即死魔法」のレベルを上げていくと、何ができるようになるのか。その点を父さんも母さんも気にしていたのだ。
「つまり、レベル80になると、誰か殺さないといけないわけだ。『蘇生魔法』が使える子に生き返してもらえば実質誰も殺さなくてもすむらしいけど」
「うん」
蘇生魔道士の存在も校長先生は話したのか。校長先生、どこまで僕のこと話したんだろう。
「だけど、殺す相手は誰でもいい上、その相手を別に生き返すことを選ばなくても問題はないと。殺人罪にも問わない、とな」
「うん」
「なんで殺人罪に問わないかも聞いたよ。今までの『即死魔道士』たちの行動から見て、下手に拘束するより、自由にさせた方が、惨事が起きにくかったからだと。それに、本当に殺されたら困る人間は、『蘇生魔道士』に生き返せるから問題はないと」
「うん」
父さんの釣り竿に魚がかかったようだ。父さんが釣り竿を引き上げると小さな魚がかかっていた。
「キルル、一度、『即死魔法』を見せてくれ。この魚、殺してみろ」
父さんは、今釣り上げた魚を僕の前に差し出す。
「え……」
父さんや母さんに即死魔法を見せるのは、正直抵抗があった。だけど、父さんの目には逆らえず、即死魔法を使うことにした。僕が呪文を唱えると、父さんが手に持っていた魚は、じたばたした動きを止め、父さんの指先に垂れ下がった。
「……ほんの数文字の呪文を唱えただけで、殺せるわけか。これは恐ろしいな」
父さんは、死んだ魚を見つめて言った。
「本来、人を殺すとなると、体力がものすごく必要になる。他の魔法でもこんな簡単にはいかないし、毒薬を使うにしてもそれなりに準備がいる。しかし、『即死魔法』はとんでもなく手早い」
父さんは、一拍置いたあと、話を続けた。
「キルル、お前は優しくていい子だよ。それは父さんも母さんもよく知ってる。だけど、こんなに簡単に人を殺せるとなると、流石に心配だ」
「うん」
「キルル、大きい力を使う場合は、その先にどんなことが起きるか、よく考えないといけないよ」
「うん」
「そして、よく考え、それでも行動した場合は、力を使ったあと起きた波紋を静かに受け入れること」
父さんは地面に落ちていた石を拾って、池に投げた。水面に波紋が拡がる。
「殺人罪にはならなくても、人を殺したりしたら、恐れられたり、恨まれたり、それ以外にも予想外なことが起こるだろう。キルル、お前はそれを黙って受け止められるかい?」
僕は、何も答えられなかった。レベル80になったらいじめっ子達を殺す。そう決めていたけど、その先のことなんて、何も考えていなかった。
「母さんも、お前のこと、いつも心配してるよ。お前は、人一倍魔法に憧れていたからね。『即死魔法』という恐ろしい魔法でも、嬉々として使ってしまうんじゃないかって」
「母さん……」
母さんのことを考えると、涙が溢れてきた。強い魔道士になれば母さんに心配かけずに済むと、子供の頃は思っていたのに。
「そして母さんは、心配すると同時に、お前がいい子だと信じている。お前も、わかるだろう?」
「うん」
「昨日校長先生に聞いたことは、母さんには言わない。人を殺さないとレベルが上げられないだとか、人を殺す魔法を使って失敗した場合は死ぬとかなんて、そんな話、母さんの心配が増えるだけだからね。キルルも、母さんを悲しませないでやってくれ。父さんが言えることは、それだけだよ」
「うん、ありがとう」
僕は涙を拭った。
「帰ろうか」
父さんは、釣り道具を片付けだした。釣りより、僕と話すことが目的だったようだ。
「そういえば、もうすぐお前の誕生日だな。もう17歳か。何か欲しいものはあるか?」
「うーん、そんなに……」
「せっかく王都に来てるんだ。いつもより買える物の種類は多いんだから遠慮しなくてもいいぞ。まあ考えておきなさい」
数日後、僕は17歳の誕生日を迎えた。
「キルル、誕生日おめでとう」
両親が王都の高級な料理店で祝ってくれた。
今まで食べたことがないような豪華な料理が目の前に並んでいる。
「ありがとう。いいの? こんなすごい料理」
「いいのよ。キルルってば、欲しいものがあまりないって言うんだもの。食べ物でお祝いするしかないわ」
母さんが言った。僕が今欲しいものなんて、「枯らしてもいい広大なバラ園」とか「皆殺してもいい動物園」とかなので、結局欲しいものをねだれなかったのだ。
「お前の学校が学費無償のおかげで、最近はお金に多少余裕があるからね。このぐらいの贅沢しても大丈夫さ。好きなものを食べなさい」
「うん」
父さんの言葉に甘えて、僕は好物をたくさん食べた。
「一年後は18歳で、もう大人だからな。子供でいられるのもあと一年だ。勉強もいいけど、せっかく今の学校にはお友達もいるんだ。いろいろ遊んでおきなさい」
「うん」
翌日、両親は故郷の町に帰っていった。両親が王都にいる間は宿屋で過ごしていたが、僕も学校の寮に戻った。
父さんはしばらく答えなかった。しばらく時間をおいて、父さんは話し始めた。
「レベル80で人を殺せる魔法が使えるようになるんだってな。しかも、その魔法を使わないとレベル100までは上がらないと」
「うん」
魔法のレベルというのは、その時使える一番強力な魔法を使わないと上がっていかないものなのだ。
レベル80で人を殺せるようになることは、できれば父さんにも母さんにも知られたくなかったから、今まで言っていなかった。知られたら心配かけそうだから。
僕が「即死魔法」のレベルを上げていくと、何ができるようになるのか。その点を父さんも母さんも気にしていたのだ。
「つまり、レベル80になると、誰か殺さないといけないわけだ。『蘇生魔法』が使える子に生き返してもらえば実質誰も殺さなくてもすむらしいけど」
「うん」
蘇生魔道士の存在も校長先生は話したのか。校長先生、どこまで僕のこと話したんだろう。
「だけど、殺す相手は誰でもいい上、その相手を別に生き返すことを選ばなくても問題はないと。殺人罪にも問わない、とな」
「うん」
「なんで殺人罪に問わないかも聞いたよ。今までの『即死魔道士』たちの行動から見て、下手に拘束するより、自由にさせた方が、惨事が起きにくかったからだと。それに、本当に殺されたら困る人間は、『蘇生魔道士』に生き返せるから問題はないと」
「うん」
父さんの釣り竿に魚がかかったようだ。父さんが釣り竿を引き上げると小さな魚がかかっていた。
「キルル、一度、『即死魔法』を見せてくれ。この魚、殺してみろ」
父さんは、今釣り上げた魚を僕の前に差し出す。
「え……」
父さんや母さんに即死魔法を見せるのは、正直抵抗があった。だけど、父さんの目には逆らえず、即死魔法を使うことにした。僕が呪文を唱えると、父さんが手に持っていた魚は、じたばたした動きを止め、父さんの指先に垂れ下がった。
「……ほんの数文字の呪文を唱えただけで、殺せるわけか。これは恐ろしいな」
父さんは、死んだ魚を見つめて言った。
「本来、人を殺すとなると、体力がものすごく必要になる。他の魔法でもこんな簡単にはいかないし、毒薬を使うにしてもそれなりに準備がいる。しかし、『即死魔法』はとんでもなく手早い」
父さんは、一拍置いたあと、話を続けた。
「キルル、お前は優しくていい子だよ。それは父さんも母さんもよく知ってる。だけど、こんなに簡単に人を殺せるとなると、流石に心配だ」
「うん」
「キルル、大きい力を使う場合は、その先にどんなことが起きるか、よく考えないといけないよ」
「うん」
「そして、よく考え、それでも行動した場合は、力を使ったあと起きた波紋を静かに受け入れること」
父さんは地面に落ちていた石を拾って、池に投げた。水面に波紋が拡がる。
「殺人罪にはならなくても、人を殺したりしたら、恐れられたり、恨まれたり、それ以外にも予想外なことが起こるだろう。キルル、お前はそれを黙って受け止められるかい?」
僕は、何も答えられなかった。レベル80になったらいじめっ子達を殺す。そう決めていたけど、その先のことなんて、何も考えていなかった。
「母さんも、お前のこと、いつも心配してるよ。お前は、人一倍魔法に憧れていたからね。『即死魔法』という恐ろしい魔法でも、嬉々として使ってしまうんじゃないかって」
「母さん……」
母さんのことを考えると、涙が溢れてきた。強い魔道士になれば母さんに心配かけずに済むと、子供の頃は思っていたのに。
「そして母さんは、心配すると同時に、お前がいい子だと信じている。お前も、わかるだろう?」
「うん」
「昨日校長先生に聞いたことは、母さんには言わない。人を殺さないとレベルが上げられないだとか、人を殺す魔法を使って失敗した場合は死ぬとかなんて、そんな話、母さんの心配が増えるだけだからね。キルルも、母さんを悲しませないでやってくれ。父さんが言えることは、それだけだよ」
「うん、ありがとう」
僕は涙を拭った。
「帰ろうか」
父さんは、釣り道具を片付けだした。釣りより、僕と話すことが目的だったようだ。
「そういえば、もうすぐお前の誕生日だな。もう17歳か。何か欲しいものはあるか?」
「うーん、そんなに……」
「せっかく王都に来てるんだ。いつもより買える物の種類は多いんだから遠慮しなくてもいいぞ。まあ考えておきなさい」
数日後、僕は17歳の誕生日を迎えた。
「キルル、誕生日おめでとう」
両親が王都の高級な料理店で祝ってくれた。
今まで食べたことがないような豪華な料理が目の前に並んでいる。
「ありがとう。いいの? こんなすごい料理」
「いいのよ。キルルってば、欲しいものがあまりないって言うんだもの。食べ物でお祝いするしかないわ」
母さんが言った。僕が今欲しいものなんて、「枯らしてもいい広大なバラ園」とか「皆殺してもいい動物園」とかなので、結局欲しいものをねだれなかったのだ。
「お前の学校が学費無償のおかげで、最近はお金に多少余裕があるからね。このぐらいの贅沢しても大丈夫さ。好きなものを食べなさい」
「うん」
父さんの言葉に甘えて、僕は好物をたくさん食べた。
「一年後は18歳で、もう大人だからな。子供でいられるのもあと一年だ。勉強もいいけど、せっかく今の学校にはお友達もいるんだ。いろいろ遊んでおきなさい」
「うん」
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