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第8話 メイド
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広い屋敷に一人で住んでいると、大変なのが掃除である。一人で暮らしているので、他の人の目があるわけでもないから、ぼちぼち行っているが、先日の雨で窓が汚れてしまったことと、屋敷の周りに雑草が多く生えてしまったのはやはり気にかかる。私は翻訳の仕事の合間を縫って窓拭きをし、雑草をひいていた。
結婚しているときは、気苦労はあったものの、メイドがいたので、家事はそこまで大変ではなかった。一人で生活するのは気楽だが、何もかも一人というのはやはり大変だ。どんな暮らしも一長一短である。
ある日の昼間、呼び鈴が鳴った。なんだろう。カイルが配達に来るのは朝だし、昼に訪問してくる人なんて珍しいと思いながら扉を開けた。
扉の向こうにいたのは、「ミアのふりをしたカイル」だった。しかし、いつもと格好が違う。
紺のロングスカートにフリルのエプロン、頭にはフリルのついた頭巾を被っており、手にほうきを持っていた。一言で言うとメイドのような格好だ。過去最高に不細工で、なかなかの衝撃を受けた。
「な、何用かしら、ミア」
なんのつもりでこの格好で現れたのかわからず、少し怖くなりながら尋ねた。
「今朝ライラ様の様子を見ていて思ったんですけど、屋敷の掃除大変そうですね。うち、メイドの派遣もやっているんですよ。いかがですか?」
カイルは上ずった声で淡々と営業文句を言ってきた。そういえば、今朝カイルが配達に来たとき、私は窓を拭いていたっけ。
「メイドですって?」
お前の職場農場だろメイド派遣なんて絶対やってないだろとうとう屋敷に上がりこむ口実を見つけてきたなと思った。
「農場なのにメイド派遣? そんなもの本当にやってるの?」
「やっております!」
力強く断言するあまり、カイルの声は地声の低い声になってしまっていた。低い声と過去最高に不細工なカイルを前にして、私は思わず笑ってしまった。カイルは羞恥心というものがないのかしら?
「しょうがないわね。屋敷の外の草むしりと窓の外側を拭くぐらいならさせてやってもいいわよ。家の中は私の手で間に合っているからいいわ。よろしく、ミア」
「ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
カイルは再び上ずった声に戻っていた。
「それにしてもミア。そのメイド服、とても似合っているじゃない。掃除に来るときを楽しみにしているわ」
「はい。よろしくお願いします」
せっかくなので、カイルにはこのまま最高に不細工でいてもらおう。その方が面白い。その上、庭と窓が綺麗になるなら最高じゃないか。そう思った。
結婚しているときは、気苦労はあったものの、メイドがいたので、家事はそこまで大変ではなかった。一人で生活するのは気楽だが、何もかも一人というのはやはり大変だ。どんな暮らしも一長一短である。
ある日の昼間、呼び鈴が鳴った。なんだろう。カイルが配達に来るのは朝だし、昼に訪問してくる人なんて珍しいと思いながら扉を開けた。
扉の向こうにいたのは、「ミアのふりをしたカイル」だった。しかし、いつもと格好が違う。
紺のロングスカートにフリルのエプロン、頭にはフリルのついた頭巾を被っており、手にほうきを持っていた。一言で言うとメイドのような格好だ。過去最高に不細工で、なかなかの衝撃を受けた。
「な、何用かしら、ミア」
なんのつもりでこの格好で現れたのかわからず、少し怖くなりながら尋ねた。
「今朝ライラ様の様子を見ていて思ったんですけど、屋敷の掃除大変そうですね。うち、メイドの派遣もやっているんですよ。いかがですか?」
カイルは上ずった声で淡々と営業文句を言ってきた。そういえば、今朝カイルが配達に来たとき、私は窓を拭いていたっけ。
「メイドですって?」
お前の職場農場だろメイド派遣なんて絶対やってないだろとうとう屋敷に上がりこむ口実を見つけてきたなと思った。
「農場なのにメイド派遣? そんなもの本当にやってるの?」
「やっております!」
力強く断言するあまり、カイルの声は地声の低い声になってしまっていた。低い声と過去最高に不細工なカイルを前にして、私は思わず笑ってしまった。カイルは羞恥心というものがないのかしら?
「しょうがないわね。屋敷の外の草むしりと窓の外側を拭くぐらいならさせてやってもいいわよ。家の中は私の手で間に合っているからいいわ。よろしく、ミア」
「ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
カイルは再び上ずった声に戻っていた。
「それにしてもミア。そのメイド服、とても似合っているじゃない。掃除に来るときを楽しみにしているわ」
「はい。よろしくお願いします」
せっかくなので、カイルにはこのまま最高に不細工でいてもらおう。その方が面白い。その上、庭と窓が綺麗になるなら最高じゃないか。そう思った。
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