すべては貴女のために そしてたまには僕のために

コサキサク

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第9話 過去

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 カイルは翌日から早速メイドとして参上した。元々農場で働いているだけあって、雑草をむしるのは得意なようで、私が一人でやるよりよっぽど早く行っている。窓拭きも手際よくやっており、メイドとしてはなかなか優秀だった。不細工だけど。

 カイルは一日窓拭きと草むしりに明け暮れ、日はすっかり落ちていた。
「ミア、どうもありがとう。今日はもうこれぐらいでいいわ。当分は、草むしりも窓拭きもしなくていいぐらい綺麗になったわ」
 私は、まだ屋敷の周りで草むしりを続けているカイルに声をかけた。一応ミアということで来ているので、相変わらずミアと呼んでいる。 
 ミアのふりをしたカイルは、私の声に反応して立ち上がった。カイルが着ているメイド服はすっかり土がつき、汚れてしまっていた。
「はい、かしこまりました。では私はこれで……」
「待って、これ」
 私は帰ろうとするカイルを呼び止め、少しお金を渡そうとした。
「すでにお給金は前払いでもらっていますが……」
「よくやってくれたから、少しだけ多めに払っておくわ。ありがとう」
 カイルは普段は図々しいのに、少し戸惑った顔をした。
「いえ、そんな、いいですよ」
「いいから、もらっておきなさい」
 私はやや強引にカイルの手を取り、銅貨を何枚か手渡した。お給金の5分の1程度の小銭だ。本当なら屋敷に上がって紅茶とお菓子でもいかがと言いたいところだが、相手がカイルなので、お金で済ませることにした。 
 カイルの手は、丸々としていて、赤子の手をそのまま大きくしたようだった。

「あ、ありがとうございます」
 カイルは、少し照れたような感じで嬉しそうな顔をして、ポケットに銅貨をしまった。
「あの、ライラ様」
「なあに」
「ライラ様はどうして、こんなお屋敷に一人でお住まいなのですか」
「え……」
「すみません、それなりにわけあってのこととは想像つくのですが、やはり気になってしまって。話したくなかったらいいです」
 今日のカイルはいつもより控えめな気がした。
「いろいろあって、離婚したのよ。だからもう誰かと生きるのはもうこりごりなの」
 さすがに子供ができなくて離婚を言い渡されたことは伏せた。
「そうですか。ライラ様ほどの美人で聡明な方でもままならないことはあるのですね」
「ええ。どうにもならないことってあるわ」
 子供とかね。
「辛いこと思い出させてしまって、すみません」
 カイルは気の毒そうな顔で私を見つめた。さっき話したとき思わず涙声になってしまったことに気がついているようだ。
「いいのよ。気にしないで。暗くなる前にお帰り」
「はい」
 カイルは、農場へと帰って行った。私は、メイド服の後ろ姿をぼんやり見つめていた。
 
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