世界を救った勇者は溺愛嫁とのスローライフをお望みです。

春紗

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第十一話

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勇者といえば
『この世界を救った者』『救世主』『女神に選ばれし者』
などと語り継がれている。相手が魔王でなくとも、悪者を倒し平和を訪れさせた者はみな
『英雄』
として崇められ歴史に名を刻むことができる。最も、長い間名を刻むことができるのは『英雄と王族の結婚』によるもの。一度王族としての籍をつけてしまえば永くに残る。だからこそ、誰もが王族との結婚を望む。そう、どんな物語でも最後はお姫様と英雄は結ばれ仲睦まじく過ごしました。で終わるはずだ。
(だからこそ、この結末は認められない)
英雄はお姫様と結婚せず、地位も求めず『何も無かったかのように終わらせるなんて』
「ありえない…」
私は選ばれ、求められる者だ。なのに何も無かったかのように…無価値に終わるなんておかしい
(なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…なんで…)
「迎えに行かなくては…私だけの救世主を」
そう呟くお方は白を強調したドレスを翻して扉へと進む。
その考えを止める者はこの場にはいなかった。その方は絶対的な高い地位におり、『お姫様』として過ごすものだったから。
出ていった部屋にある『英雄と姫様』の絵本はくたびれていた。

その頃別の場所では…
「やはり会いに行きましょう」
「別にいいだろう」
「よくない!!」
「まぁまぁ、一旦落ち着こう」
(戻ってこないかな…)
などと三人で揉めながら過ごしていた。その側には魔法の杖と剣、魔法書があった。

所々で企みが行われている中それらに関係のある勇者は、
「俺が先に終わらせました!!」
『僕も終わらせたよ~』
「いや俺!!」
『ぼく~!!』
と二人で野菜の収穫量を競っていた。
「手伝ってくれてありがとう」
二人が手伝ってくれたおかげで早く農作業が終わった。この野菜で何を作ろうかしらなどと考え平和だった。
「まじでお前帰れぇぇぇ」
『ムリぃぃぃぃ』
(……………うるさい)
その代わり騒がしい日々だった。そういえば、
「ルカ今日はギルドの方に行くはずじゃなかった?」
魔王のほっぺをちぎれる勢いで引っ張っていたが
「そうでした…」
ルカは明らかにしょぼくれた。周りの空気も真っ黒に見える。いや、全体的黒くなっている。
(行きたくないオーラが目に見える…)
『安心しなよ。キキョウは僕と一緒にいるから』
「それが一番安心できねぇんだよ」
『まぁ~まぁ~』
「邪魔だ!!」
俺が僕がとまた始まった。その光景はまるで、子どもの喧嘩だった。
(ふっ…)
キキョウはため息をつきながらその光景を眺めた。ルカと二人きりの生活も好きだが、こんな風にルカが本音でぶつかり合える存在がいるという事に微笑んでしまう。
「ルカ大丈夫だから行ってきて」
『ほらほら行ってきなよぉ』
「クソが、」
「ルカ…」
ルカはキキョウの元に行き肩に頭を乗せた。ぐりぐりぐりぐりと顔を沈める勢いでいる。
「ルカいってらっしゃい」
キキョウはルカの頭を優しく撫でた。その頭は、とても触り心地が良い。雪のようにしなやかで、毛皮みたいにふわっとしている。一度撫でると手が止まらなくなってしまう。
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで
「キ、キキョウ///」
ルカは上目遣いでこちらを見ている。
(可愛い…)
「はやく帰ってきてね」
「うん///」
ギュッ…
空いていた手でキキョウを抱きしめた。強くそれでいて壊れないように優しく。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
チラッ
「いってらっしゃい」
チラッ
「いってらっしゃい」
チラッ
「いってらっしゃい」
『はやく行きなよ笑笑』
ルカは一歩進むごとに名残惜しそうに振り向いてくる。
『ほぉらッッ』
魔王は小さな尻尾で飛ばすようにぶっ叩いた。
「痛ッ何すんだよ」
『しつこいんだよ』
「うるせぇよ!!」
「……………ルカ」
キキョウが一声かけると
「………はぃ」
渋々とした顔で頷きギルドへと向かった。今度は振り向かず。
『ほんとうにキキョウの発言はでかいね~』
ルカが居なくなった瞬間、近距離で話し始めた。その距離拳一つ分。
『キキョウかわいいね』
『手伝うよ~』
『キキョウが言うならアイツ何でもするんだろうね』
などと返事が無かろうが話し続けている。
「…無駄口叩かないで手伝うなら手伝って」
『はぁい』
返事をすると魔王はキビキビというか蛇のようにスッと進み終わらせ始めた。
『アイツ、すぐに戻って来るといいなぁ』
「心配なの?」
『キキョウは心配じゃない?』
「別に…」
『ふぅん~まぁ!!』
魔王はボソッと言った。
どうやるかな。
魔王はキキョウに抱きつくように尻尾を腕に絡ませてきた。そのまま、服についた土埃を羽で吹き飛ばす。
「……………やめて」
『すいません』
絡みつく行動でもキキョウに詰め寄られたらすんなりと謝って離れていった。その行動は旦那であるルカと似た行動だった。
そっくりな夫婦なことで、、
はやく、戻ってくるといいな。
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