学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで

野谷 海

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第3章 芽吹く恋、燃える恋

第35話 三姫会議(白雪姫視点)

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「コホン……では只今より、第1回園芸部恋愛協議会を開始します」

 ただでさえ薄暗い園芸部部室で電気も点けず、風間さんは机に両肘をつき両手の甲に顎を乗せながら、何やら神妙な面持ちでよく分からない会議の進行を始めた。

「風間さん、他にも聞きたいことは山ほどあるけれど、まずそのメガネはなに?」
 
 そして何故か彼女はこの日、いつもの赤いフレームの眼鏡ではなく、男性用とも見える渋めのサングラス姿だった。それはまるで小さな子供が親のサングラスを羨ましがってかけた時のような、絶妙な愛らしさとミスマッチ感が同居していた。

「雰囲気を出す為にお父さんから借りてきました。似合ってませんか?」

「ええ。とても似合っていないわ。笑いを堪えるのが大変だから、出来れば外して欲しいのだけど」

「そんなにどストレートに言わなくても……じゃ、じゃあいつも通りに戻します……」

 彼女は手早く眼鏡を取り替えた。

「それで、私と飛鳥さんを呼び出して今日はまた何を始めようというの?」

「よく聞いてくれました冬月先輩。ここにいるあたしたち3人にはとある共通点がありますよね。飛鳥先輩、それが何か分かりますか?」

 いきなり名指しされた飛鳥さんは、体をビクつかせながら答える。
「え、えーと……園芸部の女子部員ってことかしら……?」

「それもそうですが、ズバリ、ここにいる全員が春人先輩を好きだということです。これは下手をすれば園芸部存続の危機とも言える状況なんです。まさに修羅場です!」

「そういうことなら、私には関係なさそうね。帰らせてもらうわ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ冬月せんぱーい!」

 立ち上がって部室を出ようとする私の手を掴む風間さん。やっぱりこの子、見かけによらず力があるわね。

「もう……分かったわよ。話だけなら聞いてあげる。でも、これ以上の面倒ごとは御免よ?」


 私が再び席に着くと、風間さんは本題を切り出した。

「あたし、春人先輩のこと好きですけど、皆さんのことも大好きなんです。せっかく出来た先輩であり友人のお2人とも、これからもずっと仲良くしたいって思ってます」

 これを受けた飛鳥さんは慈愛に満ちた表情で風間さんの手をとりながら返す。
「夏樹ちゃん……もちろん私も同じ気持ちよ?」

「あなた、よくそんなむず痒いセリフをスラスラと言えるわね……」

「だって今の日常は、あたしの人生で間違いなく一番楽しい日々なんです。絶対に失いたくありません……」

「そう……」

 彼女は私が花守君を殺し、復讐を果たしたら、いったいどんな顔をするのだろう。きっと私を一生恨んで生きていくのでしょうね。それとも絶望のあまり、私と同じように死を選んだりしてしまうのかしら。それは……嫌……かもしれない。

「だから同じ人を好きになってしまった者同士、ルールを設けることで、少しでもみんなの関係性が壊れないように出来ないかなって思いました」

「それで、なんなのルールって?」

 風間さんは目を閉じ、一呼吸おいてからまた話し始める。
 
「この中の誰が春人先輩と付き合う事になったとしても、恨みっこなしってことです。だから、正々堂々戦いましょう。そして、これからもあたしと仲良くして下さい」

 彼女らしいというかなんというか……私は思わずため息を溢してしまう。でもこれは決して呆れていた訳ではなかった。
 
「はぁ……それじゃあ会議というより、ただのあなたの宣戦布告じゃない……」

 これに対し飛鳥さんは優しい笑顔で返す。
「でも……夏樹ちゃんらしくてすごく素敵だと思う。こちらこそよろしくね?   それと、この前は私の為に怒ってくれてありがとう」
 

 2人から溢れ出す青春ドラマのような雰囲気に寒気がして、急にこの場に居づらくなった。
 
「話が終わったなら、私はもう帰ってもいいかしら?」

「も、もうひとつ、お2人にお願いが……」

「なに?」
 
「春人先輩とデートがしたいんです……でもあたしから誘う度胸も口実もないですし、それならいっそみんなで協力して順番に1人ずつデート出来ないかなーって。ほら、それなら公平ですし……」

「それすごくいいと思うわ!   私は賛成、さすが夏樹ちゃんね!」

「飛鳥先輩ならそう言ってくれると思ってました!   問題は冬月先輩ですけど……」

 一斉にこちらへ振り返ってきた2人の瞳から向けられる宝石のような輝きに充てられて、私は不覚にも首を縦に振ってしまう。

「はぁ……仕方ないわね……」

 こうして今週末の日曜日、園芸部の活動と称して4人で市内へ出かけることとなった。私たちは時間で担当を決め、全員が平等に花守君と2人きりになれるよう、入れ替わり立ち替わりでサポートし合うという作戦を念入りに計画したのだった。
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