学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで

野谷 海

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幕間 古今東西春夏秋冬

番外編 和島学園七不思議 File3

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 夏樹ちゃんが教えてくれた七不思議の内容はこうだった。

 ・無人の音楽室からピアノの音が聞こえる
 ・トイレのハナコさん
 ・生物室で動き出す人体模型
 ・体育館から聞こえるボールの音
 ・屋上に見える人影
 ・桜の木の下には拳銃が埋まっている

 七不思議という割には6つしかないことに対して、冬月さんは暗い廊下を歩きながら率直な疑問をぶつける。
 
「なぜ7つ目が語られていないのかしら?」

「そういうのって、7つ目の秘密を知ってしまうと不幸になるって噂を聞いたことがあるよ……」

「あら、詳しいのね。花守君、あなた本当はオカルト好きなんじゃないの?」

「違うよ!   嫌いだからこそ対策を練ろうと昔ちょっと調べたことがあっただけで……」

「じゃあ、まずは音楽室から調べましょうか」

「え……もしかしてひとつずつ全部見ていくつもり!?」

「当たり前でしょう?   そうでないと調査にならないじゃない」

「やっぱり来るんじゃなかった……」

 ガックリと肩を落とした僕の耳元で、夏樹ちゃんがひそひそと耳打ちをする。

「大丈夫です春人先輩。いざとなったら先輩にはあの力があるんですから、幽霊なんてワンパンです!   それに、あたしもついてますから、怖くなったら飛鳥先輩みたいにいつでもくっついてきてくれていいんですよ?   あたしのこっち側は、まだ空いてます……」

 右腕をおやゆび姫にガッチリとロックされているねむり姫は、空いている左手を下に向けながら腕を開き、僕の入り込める隙間を作ってくれていた。

「はは……ありがとう夏樹ちゃん……心強いよ……」

 ニコッと屈託のない笑みを向けてくる後輩に、これ以上情けない姿を見せらないと思った僕は覚悟を決めた。
 
 
 校舎1階にある音楽室前までやって来ると、冬月さんが早く鍵を開けろと言わんばかりに僕へ無言の圧力を送ってくる。僕には幽霊なんかより、この人の方がずっと怖い。

「鍵、空いたけど……」

「なら扉も空けなさいよ」

「え……!?   僕が!?」

「あなたが1番近くにいるのだから当然でしょう?」

「でも今それをしちゃうとこれから先、全部の扉を僕が開ける係になっちゃうよね?」

「そうなるわね」

「今回は頑張るけど、せ、せめて次からはじゃんけんとかにしない……?」

「仕方ないわね。分かったから早く開けて」

 冬月さんからため息混じりに急かされ、僕は目を閉じてゆっくりと引き戸になっている音楽室入口を開扉した。


 欠片も物怖じせずにスタスタと音楽室の中心まで進んでいった白雪姫は、拍子抜けしたようにポツリと溢す。

「なーんだ。意外と普通ね」

 これに対し、豊満な胸を夏樹ちゃんの肩へグニョンと押し付けたおやゆび姫は、怯えた声で返した。

「そ、そうかしら……?   私はかなり雰囲気あると思うけど……」

 その小さな右肩にのしかかった2つの膨らみを羨望のまなざしで睨むように一瞥したねむり姫は、音楽室の窓際でしんと佇む黒い塊を発見する。

「これが問題のピアノですね……」

 うっすらと窓から差し込む月明かりに照らされたシルエットからは、普通のグランドピアノにしか見えなかった。

「これといって不審な点はないね……」

 冬月さんは悠然とピアノの周りを一周すると、かけられていた黒い布を捲り上げ鍵盤蓋を開けた。

「ねぇ、弾いてみてもいいかしら?」

「冬月さん、本気……?   というかピアノ弾けるの?」

「あら、花守君には言ってなかった?   これでも県のコンクールで何度も入賞しているわ。私の些細な特技のひとつ……」

「あたし、冬月先輩のピアノ聴いてみたいです!」

「私も、元気の出るような明るい曲なら……ぜひ聴かせてほしい……」

 白雪姫の気まぐれに、おやゆび姫とねむり姫までが賛同し、肩身の狭い僕は沈黙を選んでいた。冬月さんは椅子に腰掛けると、僕へ不遜な表情を向ける。

「じゃあ花守君、あなたに曲を選ばせてあげる」

「え?   僕、クラシックなんて全然わかんないよ……」

「別に、なんだって構わないから早く」

「じゃ、じゃあ童謡の『きらきらぼし』とかは……?」

「幼稚園児じゃないんだから……でもまぁ、いいかもね」

 白雪姫が前奏を奏でると、まるで時間が巻き戻ったかのような懐かしさを覚えた。幼い頃のほとんどを病院で過ごした夏樹ちゃんは、失った時間を埋めるようにこの唄をそっと口ずさみ始める。それにつられた僕と飛鳥さんも、今だけは恐怖を忘れて歌い出し、ここに世界一静かな合唱団が誕生した。

「「「きーらーきーらーひーかーる~おーそーらーのーほーしーよー♪」」」

 どうか僕の勘違いでなくあって欲しい。

 僕が常日頃からクロユリ姫と揶揄する彼女は――今のこの瞬間だけは、闇堕ちするより以前の、初めて会った時のような一点の曇りもないお姫様に戻ったようだった。

 
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