学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで

野谷 海

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幕間 古今東西春夏秋冬

番外編 白雪姫のお菓子教室2(白雪姫視点)

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「それじゃあ今日は和菓子ね……私もあまり作ったことはないけれど、確か茶道で使う和菓子があるから、理解を深める為にもまずはそれを食べてみましょうか」

「賛成でーす!   お腹へりましたー!」

「ありがとう雪乃ちゃん。私に何か手伝えることはあるかしら?」

「じゃあ、お茶を淹れるのをお願いしてもいいですか?   お茶っ葉はあの棚に入っているので」

「分かったわ」

 私と飛鳥さんが動き始めると、手持ち無沙汰になった風間さんは肩身が狭そうにトコトコと私の傍までやってきた。

「あの、冬月先輩……あたしも……何かお手伝いします……」

「どうして?」

「あたしだけ楽をするのは、嫌なので……」

「あらいい子ね。普段からそれくらい大人しくしていてくれればご褒美だってあげるわよ?」

「ご、ご褒美ってなんですか!?   もしや、春人先輩の生写真とかですか!?」

「はぁ……そんな趣味の悪い物、私が持っている訳ないでしょう?」

 聞き捨てならないと言わんばかりに、グルンと顔を向ける飛鳥さん。

「雪乃ちゃん、それ本当!?」

「飛鳥さんまで……そんなもの持ってませんから……」

 
 お菓子を食べながら話し合い、今回作る和菓子は朝食も兼ねられるようにと、おはぎに決まった。

「味は何種類作る?」

「はい、はい!   あたし、あんこだけじゃなくてきな粉がかかってるやつも欲しいです!」

「黒ゴマのおはぎも美味しいわよね?」

 2人の希望も踏まえ、今回は3種類のおはぎを作ることに。あまり経験もなかったし、一般家庭でも簡単に出来るという餅米100%の、炊飯器を使ったレシピを採用した。

 私が餅米を研いでいると横目に映った風間さんが、目だけで「あたしも!」と、訴えかけていた。

「分かったわよ。じゃあ手の平で揉むように研いでみて。研ぎ終わったら1時間ほど水に浸ける必要があるみたいだから急いでね」
 
「へぇ……餅米って、普通のお米より白くて丸っこいんですねぇ」

 風間さんに洗米を交代すると、同時進行で小豆を洗ってくれていた飛鳥さんがボウルとザルを向ける。

「雪乃ちゃん、こんな感じかしら?」

「はい。軽くでいいみたいなので、大丈夫だと思います」

「こうやってみんなで料理をしていると、合宿を思い出しちゃう。機会があったら、またみんなでお泊まりしましょうね?」

「そ、そうですね……」

 もちろん、これは空返事だった。でも不思議と、嫌な気持ちにはならなかったことに、自分でも驚く。死ぬ前にもう一度くらい、そんな夜があってもいいのかもしれない。


 餅米と小豆を炊いている間、風間さんは鼻歌まじりで楽しそうに鍋の中を覗いていた。

「風間さん、そんなのずっと見ていて楽しい?」

「楽しいですよ?   春人先輩がこれを食べた時のことを想像してました。それにあんこ作るのなんて初めてですし。そう言えば、小豆と大豆って同じお豆なのに、何が違うんでしょうか?」

「そういえばそうね、考えたこともなかったわ。自分で調べてみれば?」

 風間さんはむすっと頬を膨らませて言う。

「こういうとき春人先輩ならすぐ教えてくれるのにー」

 文句を言いながらも彼女はスマホで検索を始め、ふむふむと頷く。

「へぇ……大豆だとデンプンがほとんどないので、餡は作れないそうです」

「ひとつ賢くなったわね」

「不思議ですよね。形はこんなに似てるのに、一方は甘いものに使われて、もう一方はしょっぱいものに使われることが多くて用途が全然違うなんて。人間で例えるなら、今の所はたぶんあたしが小豆で、冬月先輩が大豆ですね……」

「それ、どういう意味?」

「なんでもありません。今のは忘れてください」

 少し悲しげな顔をした風間さんだったけれど、トイレに行っていた飛鳥さんが戻ってくると、すんなりいつもの 暑苦しいほどに元気いっぱいな表情へと戻っていた。


 餅米と小豆が炊き上がり、お餅の形を整えて餡でつつんでいく。完成した頃にはお昼なんてとっくに過ぎていたけれど、このおはぎを見れば我慢して良かったとも思えた。
 
「じゃあいただきましょう」

 おはぎをひと口食べた2人は、一斉に頬に手を添える。

「うぅ~ん……甘くてすっごく美味しいですぅ。これなら春人先輩もイチコロ間違いなしです……」

「本当……とっても美味しい。これも全部雪乃ちゃんのおかげね!」

「そんな、私はレシピを調べただけで……」

 悔しそうな風間さんが、花守君用に避けておいたお重を、おもむろに私へ向ける。

「いえ……今日は冬月先輩のお手柄なので、明日これは先輩が春人先輩に渡してください。でも、ちゃんとみんなで作ったって言ってくださいよ?」

「はぁ?   あなた、当初の目的を忘れていないかしら?」

「いいんです。何の努力もせずに大豆になろうなんて、おこがましいって思ったんです……」

「だからさっきからなんなのそれは?」

「秘密です!」

 気になった私はおはぎを食べながら、大豆について調べていた。すると、恐らく風間さんが言わんとすることをなんとなく察してしまう。

 ――大豆にも、花言葉があった。

 それを見た私は、どっちが……と、思わず小声で溢してしまう。
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