学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで

野谷 海

文字の大きさ
25 / 75
第2章 おやゆび姫とねむり姫

第21話 火花

しおりを挟む


 僕が寝室に籠って心を落ち着かせていると、部屋の扉がノックされた。扉を開けると、そこには気まずそうに僕と目を合わせようとしない冬月さんが立っていた。

「もう大丈夫なの……?」

「うん。そろそろ戻ろうかと思ってたんだ」

「少し2人で話がしたいんだけど、いいかしら」

「ど、どうぞ……」

 部屋へ通すと、冬月さんが地べたに座ったから、僕も目線を合わせるように向かい合って腰掛けた。
 
「花守先生から、あなたのことを全部聞いたわ。それでも私は……謝らないわよ」

「そっか……知らなかったんだから当然だよ」

「キャンプファイヤーの事だけじゃなくて……私があなたに焼身自殺での心中を持ちかけたことも、今までの事も全部……謝りはしないし、悪い事をしたとも思わない」

「もちろん。僕から持ち掛けたんだから、今まで謝って欲しいなんて思った事ないよ」

 ようやく僕と目を合わせてくれた白雪姫は、珍しく自分語りを始めた。
「……私が焼身自殺にこだわる理由、言ってなかったわよね」

「そういえば、聞いてなかったね」

「あなたと真逆なの。私は火を見ると落ち着く。以前私の家へ来た時、食堂に暖炉があったでしょ?   まだ幼かった頃、寒い冬の時期には亡くなった母とよくあの暖炉の前で身を寄せ合って温まっていた。だから、私は火を見ると大好きだった母を思い出すの」

「そうなんだ。本当に、僕とは真逆だね……お母さん、どうして亡くなっちゃったの?」

「病気よ」

「そっか……」

「私が病気になれば良かったのにって、今なら思うわ」

「そしたら、今度は僕が冬月さんの病気を引き受けるよ」

「それが出来たらどんなに良かったかしらね」

「まだ死にたい?」

「ええ、どうしようもないくらい。私のことはいいから、今は花守君の話を聞かせて」

「なんでも聞いてくれていいよ」

「あなたにとって最も憎いであろう行為を犯そうとする私を、殺したくはならないの?」

「ならない。生きてて欲しい」

「じゃあ疎ましく思ったり、憎しみの感情を抱いたりしないの?」

「うん」

「それはなぜ?」

「冬月さんが綺麗だから……かな。僕は初めて君を見た時、本当に心から美しいと思ったんだ。だから、憎みたくても憎めないのかもしれない」

「外見の話をしているのなら、あなたは本質を見誤っているわね。あなたも知っての通り、私は最低の性悪女よ。今まではずっと誰からも好かれるように猫を被って生きてきたけど、それをやめた途端、すぐに私から人は離れていったわ」

「そうだとしても、園芸部のみんなは冬月さんのこと、そんな風には思ってないよ。誰だって、少なからず裏の一面を持ってるんじゃないかな」

「また、私の話になってしまったわね。もしもこの先私が花守君を好きになったとしたら、こんな不安定な人間を支えられる自信はある?」

「どうだろ。でもこれだけ殺されかけても僕はまだ生きてるから、なんとか最悪のシナリオだけは回避できるかも」

「そう……まだ私にはあと78通りほど殺害計画が残っているけれど……」

「それでも僕は、君をヤンデレヒロインに更生させるまでは、死ねませんから……」

「なによそれ。私があなたにデレデレしている未来なんて想像もつかないわ」

「冬月さんが落ち着けるなら、その相手が僕じゃなくたっていいと思うんだ」

「それなら迷わず千秋君でお願いするわ。でも……ひとつ吉報があるとするなら、今は千秋君のことを思い出すよりも、あなたをどうやって殺そうか考えている時間の方が、ずっと多くなってる気がする……」

「じゃあ、一歩前進なのかな?」

「どうでしょうね。ただ殺意が募っているだけかもしれないけど」

 冬月さんはこんな調子で僕を励ますでもなく、殺そうとするでもなく、ただただ雑談を続けた。僕にとっては下手に気を遣われるより、そっちの方が有難いとすら思えた。

 
「ねえ、ここでキャンプファイヤーしてもいいかしら?」

「どうやって?   火事になっちゃうよ」

「この世界で一番小さなキャンプファイヤーだから大丈夫よ」

 そう言うと冬月さんは部屋の電気を消して、カチャカチャと音を立て始めた。ポワッとついた灯りは、ライターの火だった。このくらいの大きさなら発作も起こさずに僕も見ることが出来た。

 その小さな炎をボーッと見つめながら、冬月さんはゆっくりと話し出す。
「昔の人はメラメラと飛び散る火を見て、美しさの象徴である花に喩えて“火花”と呼んだ。火と花は、一見相性が悪く共存なんて不可能かのようにも思えるけれど、人間の素晴らしき着眼点と想像力が、それを可能にした。知ってる?   英語では火花のこと、スパークって言うのよ?   日本だと電気のイメージが強いわよね……繊細で趣き深い日本だからこそ、生まれた言葉だと思わない?」

「……何が言いたいの?」

「あなたが一番嫌いなものと、一番好きなものは、表裏一体なのかもしれないってこと」

「もしかして、励まそうとしてくれてる?」

「どう捉えるかはあなた次第よ。私は自分の目的である花壇の花を燃やす口実が欲しかっただけ……」

 冬月さんがどんな心境でこの素敵なレクリエーションを僕に披露してくれたのか――それは直接聞かずとも、答えは火を見るよりも明らかだった。彼女もまた、自分の好きなものを誰かと共有したかったんだ。それは彼女にとって――あるいは僕にとっても、更生への大きな一歩だと信じたい。




 ◇◆◇◆◇◆

 あとがき

 ここまで『堕ちデレ』をご愛読下さいまして誠にありがとうございます。次回から3本続く特別編「拗らせ姫の農泊」を持ちまして、第2章が終了となります。

 この作品は書いている私ですら、ぶっ飛んだラブコメだなぁと、つくづく思います。既に落とし所は決めてあるのですが、もし想定以上のお声をいただけたり、人気作になれば続編も書きたいと思えるほど愛着の湧く作品になりました。皆様のご感想を日々楽しみにしております。

 この物語の続きが気になる、面白い、もっと癖強ヒロインとの絡みが見たいと思っていただけた方はぜひ、☆評価や小説のフォローなど頂けると大変励みになります。

 では、今後とも本作をどうぞ宜しくお願いします。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...