サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第1部 夏

第10話 アイドル達の休息日。



 ――将たちが海へ遊びに行く2日前、舞と姫華は2人で買い物に出かけていた。


 2人で姫華の水着選びをしていたのだが、舞がオススメしてくる水着は、どれもセクシー路線の強めなデザインだった。
「これなんか良いんじゃない?  絶対姫に似合うよ!」

「えぇ?  ちょっと布面積が少な過ぎないかしら……」

「姫は肌も綺麗だしスタイル良いんだからこのくらい楽勝だって!  色は絶対黒がいい!」

 舞の猛プッシュを受けて試着室に押し込まれた姫華は、しぶしぶその水着に着替える。
「ど、どうかしら……?」

 その姿を見た舞は、目を輝かせながら一筋の鼻血を垂らし、親指を立てた。
「あたしが男の子だったら、惚れる自信あります……!」

「そこまで言うなら……これにするわ」
姫華は照れた様子でカーテンを閉めると、着替えてそのままレジへと向かう。

 
 2人は店を出ると、しばらく街をぶらつく。彼女達は中学時代から仲の良い親友同士だ。最近ではアルバイト先まで同じになって、さらに一緒にいる時間が増えたにも関わらず、会話のネタが尽きる事はない。
 
「お昼何食べよっか?」

「舞が決めていいわよ」

「たまには姫の行きたいお店いこーよ。何か食べたいものないの?」
不満そうな表情を浮かべ再度尋ね返す舞。
 
「そうね、じゃあ――」

 姫華が選んだのは、人気の家系ラーメンのお店だった。圧倒的に男性客が多い店内に2人が入店すると、まさに紅一点となって異彩を放った。中にいた客達がおもしろいくらい、皆一斉に振り返る。
 
「舞、転ばないように気をつけてね」
 
「え、なにこの床めっちゃ滑る……」
舞は一歩一歩、ゆっくりと安全を確認しながら歩を進めた。

 姫華が慣れた手つきで券売機から食券を買うと、舞も見よう見まねで操作するが、間違えて『大盛り』のボタンを押してしまう。

「あ、間違えた……」

「貸して、店員さんに聞いてみるわ。――すみません、これ間違えたんですけど……」

 店のスタッフは食券を受け取ると、笑顔で対応する。
「大丈夫ですよ!  お金は返金しますので、普通盛りでお作りしますね!」

「ありがとうございます」

「姫、ありがとう」
舞がお礼を言うと、姫華は無言で首を横に振り、仕草だけで「気にしないで」と伝える。舞には彼女のその姿が、いつもより少しだけ大きく、頼もしく見えた。

 2人は案内されたカウンター席に並んで座ると、舞は頬杖をつきながら姫華に尋ねる。
「このお店、よく来るの?」

「えぇ。たまに無性に食べたくなって」

「へぇ~。初めて知ったなぁ」
今まで知らなかった親友の新しい一面が見られて嬉しそうな舞は、顔を緩ませながら姫華の横顔をジーッと見つめた。

「な、なに……?」

「別にぃ~」

「お待たせしました!」
ラーメンが到着すると、2人はお店が厚意で置いていたヘアゴムを口に咥えて、髪をかきあげ後ろで括る。彼女達はシンクロした動きを見せると、またも同時に食べ始めた。

「なにこれおいしっ!」

「でしょう?」
自分の好きなものを親友と共有できた嬉しさか、ラーメンが熱かったのか、姫華はいつもより顔をほてらせていた。

 ――2人は水着になるというイベントを明後日に控えながら、家系ラーメンをスープまで完飲するという大罪を犯す。

 
 大満足で店を出ると、舞は腹に手を当てて下を向き、ヒソヒソと笑いを堪える。その様子を見た姫華が「どうしたの?」と尋ねると、嬉しそうに答えた。

「あの店員さん、ちょっと青嶋くんに似てなかった?」

「言われてみれば確かに……似ていたかも」

「きっと将来ラーメン屋さんになる世界線の青嶋くんだったんだよ!  頭に巻いてた白いタオルが似合ってなさすぎて、笑い堪えるのに必死だったもん」

 楽しそうな様子の舞に、姫華は冷静なツッコミを入れる。
「舞って……青嶋君のいないところでも、1日に1度は必ず彼の話題出すわよね?」

 急激に顔が赤くなり、今にも耳から煙を吹き出しそうな舞は俯き、照れた様子でボソッと呟く。
「だって、好きなんだもん……」

「ごめんなさい。からかった訳ではないのよ?  ただ、ふとそう思っただけで」

「絶対、青嶋くんには言っちゃダメだからね!」

「何度も釘を刺さなくても分かっているわ。でもなんで自分から告白しないの?」

「3回も断っちゃってるのに、今更やっぱり好きですなんて……あたしからは言えないよ」

「私はずっとそこが気になってたの。3度も振った相手のことを、なんで好きになってしまったのか……」
 

 2人は場所を移し、喫茶店で話の続きをする事にした。


 舞はクリームソーダ、姫華はアイスコーヒーを注文すると、なるべく店内の奥、周りに他の客が少ない席を選んだ。
 
「3度目の告白をされるまではね……青嶋くんのことは、本当に友達としての好きな感情なんだろうなって思ってたんだ。でもそこから連絡をとらなくなって、学校でも話さなくなったら、なんだか胸にポッカリ穴が開いちゃった気がしたの。そのまま2年生になって、同じクラスになったら青嶋くん、あたしも同じクラスにいるのに、他の女の子の話題ばっかり話すんだよ!?  ありえなくない?」

「そ、それは仕方ないんじゃないかしら……」

「でも切り替え早すぎるよ!  3回も好きって言ってくれたくせに……」

「じゃあなんで自分の気持ちに気付いてからも、話しかけなかったの?」

「そ、それは……緊張しちゃってたのもあるけど、青嶋くん達の会話聞いてたら『彼女出来た』って声が聞こえてきて、全部終わったって思ったの……。でも最近別れたって聞いて、今声かけなかったら絶対後悔すると思った」

「だからあの日、勉強するフリをして教室に残ってたのね?  『喧嘩みたいになっちゃった……』って泣きながら電話をかけてきた時は驚いたわ」

「初バイトの日だったのにごめんね?」

「いいえ、私もまさかあの後バイト先で、タイムリーなその人物に会うとは思っていなくて、この日は空いた口が塞がらなかったけれど」


 舞はクリームソーダに入っていたさくらんぼを、長めのスプーンを使ってグラスの中でコロコロと転がしながら、心の声を漏らす。

「青嶋くん……もう1回告白してくれないかな……」

「彼はたぶん、舞のことをまだ完全に諦めきれていないと思うわ」

 舞は勢いよく立ち上がり、前のめりで姫華に詰め寄った。
「ホントに!?  ねぇ姫、それどこ情報!?」

「な、なんとなくよ……私がそう感じただけ……」

「じゃあ姫はどうやったら、また振り向いて貰えると思う?」

「そうね……もうちょっと積極的にアピールしてみてもいいんじゃないかしら?  せっかく一緒に海に行く予定も出来たことだし」

「じゃあ海に行ったら、頑張ってみる……」

 
 ――この会話が、海で舞のとった不思議な行動の理由だった。だが彼女の頑張りは、あの日のトラブルで、将の記憶から少し薄まってしまったのが残念でならない。
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