サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第2部 新学期

第19話 青春とは。



「じゃあまずは自己紹介だな。俺は赤組応援団長の『黒子 大くろこまさる』だ。みんなヨロシク!」

 この日は、我らが赤組応援団の決起集会だった。3年生から順に自己紹介をしていき、総勢24名が簡単な挨拶を交わした。各学年が8クラスあるウチの高校の体育祭は、赤組と白組の2チームに分かれて勝敗を競う。街中に位置しているこの学校にはグラウンドがない為、当日は大きな陸上競技場を貸し切って開催される、大掛かりなイベントなのだ。

 3年生にとっては最後の体育祭だから、他の学年とは気合が違うように感じられた。ましてや応援団長の黒子先輩に至っては、太陽を纏っているのかと思うほど、熱血オーラが体から溢れ出ている。


 それともうひとつ驚きが――同じ応援団に、後藤さんもいた。俺と小浦は3組、後藤さんは1組なのだが、今年はどちらのクラスも赤組に振り分けられたのだ。もちろん、後藤さんは自分から応援団に立候補した訳ではない。立候補者がおらず、最終的に学級委員の2人にとばっちりが飛んできたのだと言う。

 そして1組のもう1人の学級委員がこいつ――
「団長殿、自己紹介が済んだのならもう帰ってよいかね? 僕は今日塾があるのでね」
レンズの奥が見えない眼鏡をかけた七三分けのガリ勉、『戸狩 解とがりかい』だ。どう見ても応援団にいるようなキャラには見えない。

「戸狩君、そんな言い方やめて。すみません団長……」
後藤さんも苦労しているみたいだ。

「いいんだ後藤ちゃん、では今日はここまでにしようか。明日から本格的に練習を始めるから、みんなヨロシク頼むな!」
黒子団長は白い歯を覗かせながら、爽やかな笑顔で解散を告げた。


 解散後、俺は自転車を押しながら、アイドル達と共に下校していた。
「まさか姫とも同じ応援団だなんて! 今年の体育祭は楽しくなりそうだね!」

「私も2人がいて安心したわ。戸狩君と2人だけじゃ、きっと心臓が持たなかった……」
後藤さんは胸を押さえながら、血の気の引いた表情で語った。相当不安だったんだろう。

「でもなんで小浦は応援団なんてやろうと思ったんだ?」

「だって、来年は青嶋くんと敵同士になるかもでしょ? だから今の内に、思い出作っておきたかったんだ……」

「…………」
なんなんだこの笑顔は……。なんでこんな恥ずかしいこと、平気で言えるんだこの人は。

「嫌だった……?」

 この子の為なら、多少の面倒事くらい……頑張れる。いや、面倒事だと思っていたことが、不思議とそうではなくなっている。
「……やるからには、絶対勝とうぜ」

「おぉー!」
小浦は、その小さな拳を空へ掲げた。

「ほら、姫も一緒に!」
 
「えっ……おー……」
後藤さんは、控えめだ。

「もっと元気よく! せーのっ」

「「おぉー!!」」

 この時間を、大事にしたい。俺は今、人生で一番、この時間を大切にしたいって思った。陳腐な言葉かもしれないけど、それが『青春』って感じがする。高尚な理由や、難しい言葉なんて、『青春』からは、きっと一番遠い存在なんだ。だから俺は、感じたままに、進んでいこう。


 家に帰ると、玄関で制服姿の美波と鉢合わせになる。夏休みが終わって、美波は再び学校へ行けるようになっていた。
「おにぃ、おかえり……」

「ただいま。学校はどうだ?」

「意外と、悪くない……」

「そっか、良かったな」
クシャクシャと頭を撫でると、美波は笑ったようにも、ウザったそうにも見えた。

「うん。おにぃのおかげ。ありがと……」

「お祝いにチューしてや――」
「いらない。それ以上触ったらおにぃのエッチな本燃やす」

 最近、妹が冷たい。


 夕飯を終えると、俺の部屋の扉がノックもなしに開いた。
「おにぃ、今週末暇?」

「どうした、ツンデレか?」

「違う。アリナちゃんの誕生日プレゼント買いに行きたい」

「確か……8月の初めだったよな」

「うん。2日だよ。過ぎてるけど、お祝いしたい」

「いいぞ。久しぶりのデートだな」

「デートはヤダ」

「じゃあどうすんだよ」

「マイちゃんとヒメちゃん誘っといて」

「はいはい。そうですか……」

 最近、妹がやっぱり冷たい。
 
 グループメッセージで2人に連絡するも小浦は今週末、家族と予定があるらしくダメだった。本人は来たがっていたが久しぶりの家族団欒らしく、流石にそっちを優先してくれと伝えた。後藤さんは、快くOKしてくれた。


 週末、高校の近くにある商店街までやって来ると、中学生の美波は市内にはあまり来た事がないから、顔には出さないけれど、いつもよりはしゃいでいるように見えた。
「ところで、なに買うつもりなんだ?」

「決めてない……」

「じゃあ、雑貨屋さんを見て回りましょうか?」

「うん。おにぃは頼りになんないからヒメちゃんに任せる」
2人は俺の前を手を繋いで歩いている。

「これ、俺ついてきた意味ある……?」

「お金足りなかったときに、ある」

「ふふ、ちゃんと頼りにされているじゃない?」
後藤さんは顔だけ振り返って微笑んだ。
 
「……全然嬉しくないけどな」


 雑貨屋に入ると、余計に疎外感が強くなる。世の男達は、こんなキラキラでフワフワな店に彼女と来たら、一体どんな会話をしているのだろう。女の子に合わせて「かわいいね~」や「似合ってるね~」とかだろうか。それとも興味がないことを隠さず、間違った男らしさみたいなものをアピールするのだろうか。
 
「悩む……」
美波は頭を抱えていた。

「ねぇその人、青嶋君の元カノさんなのよね? 好みとか分からないの?」

「……すまん」

「ヒメちゃん、おにぃに期待しちゃダメ」

「でも美波ちゃん、こんな人でも一度はその人に気に入られていた訳だし、何かヒントを持っているかもしれないわよ?」

「そうかな?」

「きっとそうよ」

「オイ後藤さん、なんかフォローした感じになってるけど今こんな人って言ったよね?」

「なに? 細かい男はモテないわよ?」
 
 今、後藤さんに風香さんの面影を見た。やっぱり姉妹だ。


 しばらく店内を回り、風呂用品が並ぶコーナーの前を通ると、ふと思い出した。
「そう言えばあいつ、風呂入るの好きだったかも……」

「……じゃあ、バスボムとかどうかしら?」

「それいい。さすがヒメちゃん、ありがとう」

 え、俺は? と、思ったけれど口には出さず、それよりも疑問だった事を小声で尋ねた。
「なぁ後藤さん、バスボムって何? もしかしてこの店、裏で武器の密売とかやってるのか?」

「え……」

 俺を見る後藤さんの目からは、哀れみが溢れていた。
 
 
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