サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第2部 新学期

第20話 犬っぽいな。



「そうよ……よく分かったわね」

「やっぱりか……この店がピンク一色なのは、それをカモフラージュする為なんだな」

「この事はごく一部の女子高生しか知らないから、秘密は厳守でお願いね?」

「まさか、この街では女子高生の特殊部隊が暗躍していたりするのか……?」

 後藤さんは右手の人差し指を立てて唇に当てると、「内緒よ?」と言わんばかりに片目を閉じた。その反則級の可愛さを前に、俺は素に戻ってしまう。

「……それで本当は、なんなんだよ」

「なんだ、信じていなかったのね。……入浴剤の事よ」

 彼女はこんな下らない冗談に付き合ってくれる子だったのかと、この時初めて気付かされた。ただおちょくられていただけなのかもしれないが、そうだとしても、この一面が見られたのはやっぱり嬉しかった。

 美波はカラフルなバスボムの詰め合わせを購入して満足げだ。中学生にしては高価な買い物だったから、俺も半額出すことにした。一応、愛里那には世話になっているし。

 プレゼントのラッピングが終わるのを待っていると、後藤さんが俺にボソッと呟く。
 
「あなたって、実は結構理想のお兄さんよね?」

「なんだよ。お前もツンデレかよ」

「美波ちゃんもなんだかんだ言ってあなたを信頼しているし、頼りにもしている。普通、中学生の女の子は休日に兄と遊びになんて行かないんじゃないかしら……」

「でも家では冷たいぞ? チューもさせてくれないんだ」

「青嶋君……そうだったのね。待っていて、今迎えのパトカーを呼ぶから」

「ちょっと待て、冗談だからスマホをしまってくれ!」


 買い物を終えた俺たちは、ファミレスへと場所を移した。ファミレスなら俺たちの地元にもあるのに、美波はわざわざここが良いと言って聞かなかった。なぜなら我が妹は、もう中学生だというのにドリンクバーが大好きだからだ。ジュースの知られざる組み合わせを、日々研究しているのだと言う。

「今日のは傑作が出来た……」
決してそうは見えない深い色の液体を眺めながら、妹は不気味に笑う。

「良かったな……。ごめん後藤さん、俺らまでドリンクバー頼む羽目になって」

「いいえ、舞と来るときもいつも頼んでいるから」

 たわいのない会話をしていると、すぐに注文していた食事が届く。美波はチーズの入ったハンバーグにスープとライス、サラダのセットで、かなりのボリュームだ。そして俺は唐揚げ定食(唐揚げ増量)、後藤さんは明太子のパスタだった。皆無言で食べ進め、ふと前を見ると、美波からジーっと見つめられていることに気付く。

「お前まだ足りないのか? ほれ」
唐揚げを美波の皿にひとつ乗せると、口元を緩ませていた。美波は、笑うのが人より苦手だ。だからこそ、その些細な表情の変化は俺にとって見逃したくないものだ。今回は唐揚げひとつの投資にしては、上々の報酬だったと言えるだろう。
 

 食べ終わった美波がトイレへ行くと言って席を立つと、当然だが俺と後藤さんは2人きりになる訳で、少し珍しいシチュエーションに緊張してしまうのも仕方のない事だと思う。

「あ、チワワ……」
彼女は窓の外で散歩中の犬を見て呟いた。

「犬、好きなのか?」

「動物はだいたい好きよ」

「ハムスター飼ってるって言ってたっけ?」

「ええ。ホントは犬とか猫も飼いたいけれど、ウチは賃貸だから……」

「そっか、残念だな」

「青嶋君って、少し犬っぽいわよね……」

「まさか、俺を飼おうとしてる?」

「どんな芸が出来るか次第では、考えてあげてもいいわ」

「なんといっても会話ができる」

「あら、それは賢いわね。でも私は吠えない静かな犬の方が好き。寂しい時、傍に居てくれるだけでいい」

「じゃあ芸なんていらねーじゃん」

「そうかもね……。青嶋君、お手」
彼女は右手で頬杖を付きながら、左手の掌を差し出す。俺は目を奪われ、何故か言われるがまま、手を丸めてそこへ置いてしまった。

「……はい失格。それ、左手よ?」
クールな笑顔でそう告げた、彼女のこんな表情を見られるようになるなんて、初めて会った時には想像もしていなかった。

 
 ――実はこの瞬間を、トイレから戻ってきた美波が偶然目撃してしまう。美波は以前、焼き鳥たまだで姫華が将を「しぃ」と呼んでいたのを聞いている。その件と今回の「お手」が彼女の中で繋がった。それは兄が、姫華の犬なのだという間違った解釈である。美波はずっと不思議に思っていた。なぜこんなにも兄の周りには綺麗な女性が多いのか、その謎が今、解けた。決して兄はモテている訳ではなかった。不思議な感情で席へ戻ると、明日からはもう少し兄に優しくしようと思う美波であった――

「おにぃ、ごめん……」
 
「……なんの謝罪だ?」


 
「そこにいるのはまさか、後藤君ではないかね」
俺達が座っている窓際の席の通路側から、作ったようなやけに高い男の声が聞こえた。

 名前を呼ばれた後藤さんが声の方へ視線をやると、彼女は一瞬で青ざめる。
「き、奇遇ね……戸狩君」
なぜならその男は後藤さんの悩みのタネであり、彼女と共に1組の学級委員を務める戸狩解とがりかいだったからだ。

「そして君は確か……3組の青嶋だったかね?」

「そ、そうだけど……よく名前覚えてたな」
 
「僕は記憶力には自信があるのでね。青嶋、少し向こうで話せないかね?」
眼鏡のブリッジ部分をクイっと上げて、もう片方の手で店の外を指さした。決起集会の時も俺はこいつと一言も話していないし、一体何の話なのだろうか。その分厚い眼鏡の奥は、相変わらず見えない。



 
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