サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第2部 新学期

第25話 紅葉見に行こうよ。



 俺たちが通う悠楽学園の修学旅行は2年生の10月――つまり今月下旬に予定されている。行き先は定番の京都だ。俺は中学の修学旅行も京都だったから、正直そこまで楽しみにはしていなかった。

 今日は自由時間の班決めの為に、2年生全員がホールへと集められた。ウチの学校はクラスの隔てなく班を決めてよいのだ。そこは良心的なシステムだと思ったが、やはり自由過ぎるのも揉め事が多いらしい。ところどころで争い合う声が聞こえる。別に修学旅行のたった数時間一緒に過ごす相手で、何をそこまで揉めることがあるんだ、と、思っていた。

「小浦さん、後藤さん、どうか俺たちと一緒の班になってくれませんか?」

「ごめんね? あたしたちもう組む人決めてるの」

 手を伸ばす男子生徒の誘いを華麗に断った『舞姫コンビ』が、小走りで駆け寄ってくる。

「青嶋くん、あたしたちも混ぜて?」

「はい?」
ほらまた無自覚にそんなことするからみんなの視線が……。

「まだ石子くんと2人だけでしょ? これでちょうど4人じゃん!」

 俺の首に腕を回した竜が、震えた声で囁く。
「おいおいまたかお前さんよぉ。これ断れんのか? 断らなかったら俺らはきっと京都に降り立つことはないぞ? 見ろ、この前の奴の藁人形が一体増えてやがる。あれは俺か、俺の分なのか?」
「じゃあお前が断ってくれよ。俺には無理だぞ、あんなキラキラな笑顔を無下にするのは……」
「よし、言ってやる。俺は命が惜しいからな」

 振り返った竜が話し始める前に、後藤さんが口を開いた。
「石子君、何度もごめんなさい。迷惑だった……?」

「……ちょうど俺らもあと2人探してたんだよな~。しかも後藤さんと同じ班だなんて、嬉しいな~ハハハ……」

「本当? ありがとう。良かったわね舞」

 竜は再度俺の方へ振り返ると、強く噛み締めた唇から一筋の血を流した。竜……お前はよく頑張った。


 班決めが終わると、自由時間のスケジュールを決めることに。俺と竜は正直どこでも良かったから、任せっきりにしていると不満げな声がする。
「青嶋くん達は行きたいとこないのー?」

「俺は……中学んときも行ったし……」

「あたしたちとは行ってないでしょ!?」
ムーっと頬を膨らませる小浦は、ハムスターみたいでやっぱり可愛かった。

「俺は彼女に縁結びのお守り買ってきてって頼まれてるから、一か所だけ寄りたい神社あるんだけどいいか?」

 竜の言葉に、まるで強力な磁石で引き寄せられたかのように首を捻る小浦。
「石子くん、その話詳しく!」

「え、えーと、なんかすごい有名なところらしいぞ……」

「……あった。ここ?」
速攻で検索してスマホの画面を見せる小浦。
 
「そうそう、ここだよ」

「姫、いい……?」

「ええ、もちろん」

「そーゆーのってホントにご利益あんのか?」

 俺が疑いの目を向けると、小浦は先生に告げ口する委員長のように指をさしてきた。

「はい、青嶋くんは今神様に嫌われましたー」

「神様メンヘラ過ぎません!?」

 このタイミングで授業の終わりを告げる鐘が鳴った。俺たちは昼食をとりながら話の続きをしようと屋上へ場所を移す。


「ねえ姫見て? 今日の玉子焼き上手に焼けたでしょ?」

「本当ね。中にチーズ入れたの?」

「さすが、よく分かったね。ひとつ食べる?」

「せっかくだからいただこうかしら」

「はい、あーん」

「ちょっと、自分で食べられるわよ」

「いいから早く口開けて?」

 ――という学園のアイドル達のイチャイチャシーンの裏で俺たちは作戦会議をしていた。

「おい将、このままじゃ俺は彼女に遺書を残さなくちゃいけなくなる……」
「俺だって妹に会えなくなるのは嫌だ」
「奴らから逃れるにはやむをえないか……」
「どうすんだよ?」
「要は俺等が女に興味がないと思わせればいいわけだ」
「ま、まさか……」

 俺と竜は、小浦と後藤さんのように微笑ましく昼飯を互いに食べさせ合った。吐き気がした。だが、その甲斐あって嫉妬のまなざしを向けてくる男たちは屋上から一目散に逃げていった。

「こんなにマズイ焼きそばパンは初めてだ……」
 
「俺だってこんなに涙の味がするおにぎりは初めてだよ」

 小浦は不思議そうに辺りを見回した。
「なんか屋上の人減っちゃったね。貸し切りみたい」

「本当ね、どうしたのかしら……」

 俺たちの血を吐くような努力の結果、命を狙われる危険はなくなった。ここまでしないと普通の高校生活が送れないなんて、『舞姫コンビ』の魅力は恐ろしい。


 一気に静かになった屋上は、まるでさっきまでとは別の空間に来たかのように、吹く風と程よい日差しが心地いい。各々がネットやガイドブックで情報収集をしていると、小浦は情緒のある情景写真が映っているスマホの画面を皆に見せた。
 
「紅葉、見られるかな?」

「一応、10月から見られるところもあるみたいよ」

「もう秋なんだな……」

 俺は秋がそれほど好きじゃない。本も読まないし、運動もしない。食欲の秋とも言うが、それほど秋の食材に魅力も感じない。

「あたし、秋って好きなんだよね……」

 俺とは真逆な小浦の思考が純粋に気になった。

「なんで? なんかパッとしなくないか?」

「だって……いつもは見向きもされなかった葉っぱが、いきなり主役になれる季節だよ?」

 ――その言葉に俺は、純粋に、感動した。
 人の数だけ、視え方がある。誰かの嫌いや無関心の対象だったとしても、他の誰かにとってはそうじゃないかもしれない。たとえ自分自身に価値を感じていなくても、俺の事をそんな風に思ってくれる誰かにいつか出会えたら、その時は俺も、その誰かの良いところを見つけられる人になりたいと思った。

「昔誰だったかが言った、『あらゆる葉が花である秋は二番目の春である』っていう言葉を思い出したわ」

 さすが後藤さん、博識だ。俺はそう思ったが、小浦は難しい顔をしていた。

「それは、なんか嫌だ……。秋は秋だよ、二番目なんかじゃない。他に綺麗なモノがあるからって、それと比べる必要なんてないよ」

「確かにそうね。私も舞の意見に賛成」

「俺が間違ってました。秋さんごめん」

「じゃあみんなで、紅葉見に行こうね?」


 俺はずっと、誰かの一番になりたかったんだ。なんの努力もせずにただ願うのは、もうやめよう。振られることに慣れて自分を卑下するのも、終わりにしよう。俺は誰かにとっての秋に、なってやる。
 
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