サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第2部 新学期

第29.5話 青春ミッドナイト。



 修学旅行1日目の夜、小浦舞はなかなか寝つけなかった。その理由は、想い人である青嶋将の口から告白とも受けとれるようなセリフを聞かされたからだ。自分が言わせたのにも関わらず、それを途中で遮ってしまうほど、動揺を隠しきれなかった。あれを最後まで聞いていたら、どうなっていたのか。少なくとも悪い印象ではないようだったが、彼は今、自分との関係をどう思っているのか。そんなことを考えていると、気付けば時刻は深夜3時になろうとしていた。


 同級生のスヤスヤと立てる寝息が、やけに大きく聞こえる。和室に並ぶ6つの布団の真ん中で、舞はため息と共に体を起こす。窓から覗くうっすらとした月明かりは、今の彼女には眩しすぎた。旅館によくあるあのスペース、テーブルと椅子が置かれた窓際の広縁になんとなく腰掛けると、少しだけ大人になった気がした。

「全然眠くなんないや……」

 何か飲もうと立ち上がり、冷蔵庫を開けるが、自分の飲み物は風呂上がりに全て飲みきってしまっていた。しぶしぶ鞄から財布を取り出す。見つかったら怒られるとは思ったが、1階の自動販売機へ向かおうとしたのだ。そおっと部屋の扉を開けると、見回りの教師の姿はない。ゆっくり体を乗り出して廊下へ出ると、舞の深夜の冒険が始まる。


 舞たち女子生徒の泊まっている部屋は4階。目立つことを恐れてエレベーターは使わずに階段を選んだ。無事に自動販売機でジュースを買い、階段を登っていると教師達の話し声が聞こえる。

「亀田先生、見回りご苦労様です。交代するのでもう休んでください」

「郷田先生、ありがとうございます。ではよろしくお願いします」

 この郷田という男は生徒指導の教師で、その指導態度は厳しく、多くの生徒から恐れられていた。そんな男が4階の階段付近で座り込んでしまったのだ。

「どうしよう……」

 部屋に戻ることが出来ずに階段の踊り場付近でしゃがみこんでいると、ポケットからスマホが「コツン」と、音を立てて落ちた。

「ん? 誰かそこにいるのか?」

 立ち上がった郷田が階段に差し掛かる。慌てて階段を降り3階のフロアに出たが、見通しはよく照明も明るい為、隠れる場所がない。

「うちの生徒じゃないだろうな?」

 階段の方から、自分を追ってくる声だけが聞こえる。確実にこちらへ近付いてきていた。迷った挙句、一番近くの客室へと忍び込んだ。無論、一般客の客室ではない。彼女は3階には悠楽学園の男子生徒が泊まっていることを知っていたのだ。

 なんとか難を逃れることが出来たと、安心して扉の前で腰を抜かすと、郷田とは違う聞き覚えのある声がした。

「だ、誰だ? もしかして泥棒か……?」

「え……もしかして、青嶋くん?」

「そ、その声はまさか、こう、ら……か?」

「うん……」

「なんで男子の部屋に? しかもこんな時間に」

「……ジュース買いにいったら、先生に見つかりそうになっちゃって……青嶋くんこそ、まだ起きてたんだ」

「なんか、眠れなくて……」

「ふふ、あたしも……」


 和やかな雰囲気を壊すように、扉の外から郷田の声がする。
「おい、お前らまだ起きてるのか?」

 焦った舞は飛び上がり、「ドタン」と音を立てて前のめりに倒れてしまう。
「何をやっているんだお前ら、入るぞ!」

 扉が開きそうになると、将は小声で叫ぶ。
「小浦、こっち! 早く!」

 郷田は入室すると、すぐに電気を点けた。
「さっきの音はなんだ?」

 布団の中で上半身を起こした状態で将は答える。
「すみません先生、トイレに行こうと思ったら転んじゃって……」

「なんだよー。誰だよ電気点けたのは……ゲッ郷田……先生」
「なんかあったのかー? えっ……」

 続々と同室の男子生徒が目を覚まし、郷田の姿に驚いた。

「起こして悪かったな、俺がトイレで転んじゃったんだ」

「ではまた消灯するから、早く寝るように」

 郷田が気付かずに電気を消して部屋を後にしたのは、その間、舞は将の布団に潜り込み、膨らみを抑えるために彼の下半身にしがみついていたからだ。2人がこの時どんな体勢だったかは、ご想像にお任せするとしよう。

「せんせーもういった……?」

 舞が小声で尋ねると、将も同じ声量で返す。

「もう行ったよ……」

「まだ他のみんなは起きてるよね……?」

「うん、起きてる……」

「じゃあもう少し、このままでもいい?」

「はい、頑張ります」

「なにをがんばるの?」

 布団の陰からうっすらと見えた無垢な表情の舞は、将の必死の努力など知る由もない。彼は修行僧のように雑念を排除するため、焼き鳥たまだのメニューを上から順に頭の中で読み上げていた。

 
 メニューを3周したところで、同室の男達のいびきが聞こえ始める。

「小浦、もう出てきてもいいぞ」

「ありがとう青嶋くん……」

「苦しくなかったか?」

「ちょっとだけ……」

 舞も、同じだった。将が下半身の反応を抑えていたように、彼女は心臓の高鳴りを必死に抑えていた。

「先生、まだ見張ってるかな?」

「様子見に行ってみるか……」

「いいの……?」

「どうせまだ寝られそうにないし、一人じゃ心細いだろ?」

「それだったら、見つかってもいいかも……」

「嫌だよ、郷田の説教長いんだぞ?」

 2人が4階に上がると、郷田は高いびきをかいて座りながら眠っていた。

「今がチャンスだな。じゃあまた明日」

「それ、さっきも言ったよ。それにもう日付も変わってるし……」
 
「そっか。じゃあ、またあとで……」

「うん。またあとでね、青嶋くん……」

 こうして小浦舞の深夜の大冒険は、嬉しいハプニングに見舞われながらも無事に終わりを告げた。
 
 彼らの修学旅行は、まだまだ続く――

 
 
 



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