サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
39 / 72
第2部 新学期

第31話 修学旅行2日目。(後編)



 ――結論から言えば、後藤さんの財布はすぐに見つかった。俺が電話をかけた時点で、心優しいご夫婦が寺院関係者に届けてくれていたのだ。あんなに綺麗な景色に囲まれた場所には、心の綺麗な人しかいないのかもしれない。盗まれる心配をしていた自分が恥ずかしいとすら思えてくる。
 

 本日四度目の道は、ゆっくりと歩いた。

「すぐに見つかって良かったな」

「ありがとう。でも私のせいで、あなたまで遅刻になってしまったわね……」

「俺は慣れてるから平気だよ。それよりも後藤さん、先生に怒られた事とかあるの?」

「ないわ……」

「ってことは初めてかぁ……お説教を聞き流すコツは心を無にすること。俺はたまに耳栓つけたりするけど、バレたら余計に怒られるんだよなぁ。でも後藤さんなら髪で隠れるからいいんじゃないか?   貸そうか?」

「……アルバイトの時もそうだったけれど、私が困っていると、青嶋君はいつも助けてくれるわね」

「なんだよそれ。困ってる人がいたら普通は助けるだろ。それが友達なら尚更だ」

「ずっと不思議だったのだけど……あなたって、なぜ彼女が出来ないの?」

「おい……俺を褒めたように見せかけてトドメ刺そうとしてないか?」

「ネガティブな意味ではなくて、むしろその逆よ……」

「そんなこと、俺が聞きたいよ」

「あなたの良いところを見てくれている人が、きっといるわよ。ただそれに気付いていないだけなんじゃないかしら……」

「どういう意味だよ……」

「そのままの意味よ。あなたは自分が思っているよりもずっと、頼りになるし素敵な人だと思うわ。私が保証する」

「え、もしかして告ってる?」

「バカなの? 友達としてあなたの恋を応援すると言っているの」

「はい、すみません。ありがとうございます」
 
 交差点に差し掛かったところで後藤さんは振り返ると、俺に指を向けながら怪訝な顔を浮かべる。「いい?」と、話し始める彼女の死角から原付バイクが恐らく法定速度を無視して向かってくるのが見えた。
「あなたはもう少し周りに目を向けるべき――」
「――後藤さん危ない!」

 俺は咄嗟に彼女の腕を掴んで引き寄せた。間一髪で接触はなかったが、何事もなかったかのように運転手はそのまま走り去ってしまった。

「ったく、あぶねぇ運転だなぁ……後藤さんこそ周り気を付けろよな」

「あの……青嶋君……」

「なに? 怪我とかしなかったか?」

 俺はずっと去っていく運転手を目で追っていたから、この状況に何も違和感を抱いてはいなかったが、この後の彼女の言葉でそれに気付く。

「私が悪かったから……そろそろ離してくれないかしら……」

 俺は交差点のド真ん中で、後藤さんをかなり強めに抱きしめていた。小浦家での一件を思い出した俺はすぐに手を離すと右の頬を両手で守る。
「ごめん、これは不可抗力だから! 断じて悪意はない!」

 俺の恐れていた反応とは違い、彼女は顔を反らしながら小さな声で返した。
「分かっているわ……また助けてくれて、ありがとう」

 ――この時、姫華は焦っていた。それは轢かれそうになったことが原因ではない。いや、吊り橋効果のようにそれも少しは関係していたのかもしれない。だが彼女にとって、命の危険よりも初めて男性から強く抱きしめられた出来事の方が、彼女の心臓をより強く激しく叩いていたのだ。その感じたことのない脈の速さを、動悸だと勘違いしてしまうほどに、姫華は動揺していた――

「ホントに大丈夫かよ、顔赤いぞ? もしかして熱あるんじゃ……」

 俺が差し出した手を、後藤さんは言葉で弾き返す。
「触らないで!」

「ご、ごめん……」

「ち、違うの……これは少し、驚いただけだから……」

 それから宿舎に帰るまでの45分間、俺たちは一度も言葉を交わさなかった。
 
 
 先生からのお説教はそれほど長くなく、どちらかというと、ただ心配してくれているだけにも見えた。そんなことよりも、俺は後藤さんに嫌われたのだと、そう考えると飯も喉を通らない。風呂にでも入って気分転換をしようと大浴場へ向かっていると、昨日とは逆のシチュエーションになる。

「青嶋くん、話しがあるんだけど……」

「小浦……」

 昨日と同じ場所にやってくると、なんとなく今日はベンチに座った。月が綺麗だった。

「姫と、なんかあった?」

「俺……嫌われたかもしれない……」

「はぁ……」

 小浦は立ち上がると、向かい合うように俺の前へと移動した。いつもはあんなに小さく見えるのに、今は自分よりも大きく見える。

「姫は嫌いな人とは一緒に行動なんてしません。ちゃんと二人一緒に帰ってきたじゃん」

「でも、向かう先が同じだし仕方なかったんじゃ……」

「姫なら先生に怒られるのも承知で電車の時間ずらしてでも別々に帰ってくるよ」

「でも……」

「あーもう、うるさいなぁ! 姫のことは青嶋くんよりあたしの方がよく知ってるの!」

「ご、ごめん……」

「とにかく! 2人がそんな感じなのは、あたしが嫌なの! 何があったのかは知らないけど、早く仲直りしてよ……」

「でもなんて話しかけていいのか分かんねーし……」

「……じゃあ、明日の遊園地も、自由行動の班で一緒に回ろうよ」

「……他の友達はいいのか? 約束とかしてるんじゃ?」

「もともと姫と2人でいるつもりだったし大丈夫だよ。あたしもアシストするから、絶対明日中に仲直りして!」

「わ、分かった……」

 少し強引なくらいの小浦に負けて、俺はその提案を了承した。結局この修学旅行中に俺がぐっすり眠れることはなかった。


 ――将と別れた舞は、明日の遊園地を一緒に行動するはずだった友人たちに頭を下げて回った。舞は自身が嫌いなはずの『優しい嘘』を、無意識の内についてしまったことに、まだ気付いてはいない。
 

 
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。