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第2部 新学期
第32話 修学旅行3日目。(前編)
「只今より、『青嶋くんと姫の仲直り大作戦』の概要を説明します……」
バスの肘置きに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきている険しい顔の小浦が告げた。
「……ノリノリだな。ってかお前らいつの間に喧嘩なんてしてたんだよ」
「喧嘩っていうか、俺が一方的に嫌われた感じなんだけどな……」
前かがみだった体を起こし、いつも通りに戻った小浦が人差し指を立てる。
「だから言ったでしょ? 嫌ってるわけじゃないよ。たぶんだけど、気まずいだけなんだと思う。だから今日はなるべく普通に、いつも通り話すようにすればいいよ」
「具体的な作戦はあるのか?」
「いい質問だね石子くん。それは現地でその都度指示を出します……フフフ……」
彼女は小気味の悪い笑みを浮かべていた。
「小浦、楽しんでないか?」
「だって、せっかくなんだから楽しまないと損じゃん」
「それもそうか……」
「まぁ、そういうことなら俺も協力してやるよ」
「2人ともありがとう。俺、頑張るよ……」
テーマパークのゲートをくぐると、平日だというのに入場者は多く、盛り上がっているように見えた。
「あたしアプリで待ち時間調べてみるから、一旦あそこで座ろう?」
今どきはアトラクションの待ち時間などは全てスマホのアプリで把握できるらしい。さすが下調べには定評のある小浦さんだ。すると彼女は俺に、チロチロとわざとらしい目配せをする。
「なんかあたし喉乾いちゃったかもー。姫はどう?」
「え、そうね、少し……」
「じゃ、じゃあ俺が飲み物買ってくるよ~!」
「え~ホント~? 青嶋くんやさし~ありがと~」
見事な大根役者ぶりはおいといて、テーマパークの飲み物ってなんでこんなに高いんだろうか。まぁこれで仲直りできるなら、安いもんか。そう思って竜の分までジュースを買う俺だった。
「後藤さんはコーヒーだったよな?」
「え、ええ。ありがとう青嶋君……」
「あー! 青嶋くん、姫はブラックって言ったのに!」
俺が後藤さんに渡したコーヒーはカフェオレだった。くそっ、慌てていてよく見ていなかった。
「ご、ごめん、すぐ買い直してくるから!」
「い、いいの。今これを見たら甘いものの気分になったから……!」
余計な気を使わせてしまい落ち込んでいると、すぐそばにいる小浦からメールが届いた。そこには「大丈夫だよ。まだまだ作戦はあるから」と、書かれている。スマホから目を離すと、彼女は俺を励ますかのように頷いていた。
小浦はアプリで園内の状況を確認すると顔を曇らせる。
「うわ、どこも混んでて最低でも2時間待ちだって……」
「まぁ人も多いし仕方ないか。早速並びに行こうぜ?」
アトラクションの最後尾に並ぶと、小浦はスマホを天高く掲げる。
「じゃーん! こんなときの為にゲームを用意してきましたー!」
「さすがだな、どんなゲームなんだ?」
「それはね青嶋くん、『ワードウルフ』です!」
ワードウルフとは、人狼ゲームの派生である。簡単に言えば、参加者にはランダムにお題が与えられ、そのお題について話し合いで少数派を見つけるゲームだ。たとえば、「犬」をお題に4名で遊ぶ場合、多数派の3名には「犬」を、ワードウルフである1名へ「猫」というお題が配られる。会話の流れから、異なるお題を与えられたワードウルフを見つけ出せれば多数派の勝ち、少数派であることを隠し通せればワードウルフの勝ちとなる。このゲームのポイントは自分がワードウルフかどうかは、ゲーム序盤では分からないということだ。ただこのゲームには一見不利に見える少数派にも逆転の手段が残されている。それはゲームに負けたあと、多数派のお題を言い当てることが出来ればワードウルフの逆転勝利になるというものだった。
また、目の前の小浦からメールが届いた。「今回の作戦は『姫は嘘つくのが苦手ですぐ顔に出るからさりげなく助けて好感度アップ作戦』だよ、青嶋くん!」と、書かれている。なるほど、後藤さんがワードウルフになった時にさりげなく俺が助け舟を出すってことだな。俺と小浦は視線を送り合うと、互いに親指を立てた。
小浦のスマホが渡ってくると、そこに書かれていたお題は「財布」だった。全員が確認すると話し合いが始まる。
「まあ大事なもんだよな……」
「そうね……」
「うん……」
「ま、まあな……」
初めてのお題だからみんなボロを出さないように慎重になっていた。
「そういえば昨日、後藤さんの見たけど結構高そうだったよな? 自分で買ったのか?」
「えっ……!? そ、そうだけど……」
「ちょっと待って青嶋くん、いつ見たの?」
後藤さんは驚いた様子で青ざめた表情を浮かべ、小浦は少し怒っているようだった。
「え……紅葉の寺院で……」
「…………」
「最低……」
「将、いくら俺でもフォローしきれないぞ……」
後藤さんは涙目になって黙りこくり、小浦は俺を睨みつけている。
「え? なんで最低なんだ?」
そうか……俺がワードウルフになってしまったんだ。だとしたら他のみんなのお題はなんだ。
話し合いが終了すると、もちろん俺がワードウルフに指名されて、お題当ての時間になった。財布と対になりそうなものを考えた結果、「スマホ」と答えた。
「ブッブー、正解はパンツでしたー。青嶋くんがワードウルフで良かったよ。そうじゃなかったら本気で引いてたかも」
「そりゃ引かれるな……危ないところだった」
後藤さんは安心した様子だったが、このお題のせいで余計に状況は悪化した気がする。気を取り直して二回戦だ! 俺に与えられたお題は「鬼ごっこ」。
「将はお題についてどんなイメージだ?」
竜が俺に話題を振ってきたがこのお題は簡単だ。もし俺がワードウルフだったとしても、どうせ反対のお題は「かくれんぼ」とかだろう。
「小学生の時よくやったよ」
「え……」
「青嶋くん……やっぱ最低」
学園のアイドル2人は、汚物でも見るかのような目で俺を見つめながら後ずさる。
「は? 男の子なら普通だろ? 竜もやったよな?」
「お前と一緒にしないでくれ……」
今回の多数派のお題は「痴漢」だった。いったい誰の策略だ、さっきから俺ばかりがウルフで、しかも評判が下がるようなお題ばかりじゃないか。三回戦のお題は「牛乳」だ。もう怖いからなるべく黙っていようと思ったが、皆も黙っていてゲームが進まなかったから仕方なく口を開いた。
「俺はあんまり好きじゃないな……」
「え……」
「青嶋くん、味分かるの?」
この反応、まただ……。もうどうにでもなれ。
「そりゃ中学までは毎日飲んでたからな」
「……」
「青嶋くん……」
彼女たちの目は、牛乳を拭いたぞうきんを見ているようだった。
「将、お前……」
多数派のお題は「母乳」だった。もし神様がいるのなら、いつか必ず一発ぶん殴る。
こうしてワードウルフ作戦は、見事大失敗に終わった。
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