サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第3部 巴

第43話 29。



 目が覚めると、右腕に温もりを感じた。見慣れない天井だったから、恐る恐る顔を右側へ向ける。嫌な予感がした通り、風香さんが俺の右腕を、抱き枕のように使っていた。眼前にあるパイナップルみたいなバストが肩に当たっていて、手は股に挟まれている。これは――寝起きドッキリだとしても一線を越えている。

「風香さん、風香さん起きてください!」

「ん~……むにゃ……」

「んぅ……どうしたの……青嶋君……」

 先に後藤さんが目覚めてしまった。この状況を目をこすりながら目視した彼女は、しばし固まった。

「……なぜ、無理やり手を離さないの?」

「後藤さん、手の位置をよく見てくれ! これを無理やり動かすのは流石に……」

「変態……」

「失敬な! 俺が本物の変態なら今頃もっとすごい事になってるぞ?」

 すると、枕元の方から声がする。
 
「へえ、どんな事になるの……?」

「風香さん、起きてたんですか?」

 風香さんは俺の耳元で、後藤さんには聞こえない声量で恐ろしいことを囁いた。
「君の布団の中が今どうなっているか、確認してもいい……?」

「すみません……なんでもするんで、勘弁してください」

「君はすぐになんでもするねぇ~。でも、この場合は何もしないって言うのが正しい逃れ方じゃないかな?」

 風香さんは挟み込む力を強めた。俺は恐怖と愉悦の狭間に迷い込み、身体のあちらこちらが固まった。
 
「姉さん、早く手を放してあげて……」

「仕方ないなぁ。はい、ご褒美タイム終了~」
 
「あ、ありがとうございました……」

 後藤さんは、まるで小浦のようなジト目をここで初披露した。
「青嶋君、今、お礼言ったわよね?」

「え……手を放してくれて、ありがとうって意味だぞ……?」

「今日のところは姉さんの寝相の悪さが原因だから、そういうことにしておいてあげるわ」


 諸事情でしばらく布団から出られなかったが、落ち着くと、後藤家で朝食をいただいた。
「青嶋君がくれたコーヒー美味しいわぁ……ねぇ姫華?」

「えぇ、そうね……」
 
「良かったです。俺あんまり詳しくないんで店員さんに選んでもらったんですけど……」

 食後のコーヒーを飲み終わると、お母さんは慌ただしく仕事の準備を始めた。
「私はもう仕事に行かないとだけど、青嶋君はゆっくりしてていいからね?」

「そんな……俺も一緒に出ますよ!」

「いいからいいから、テレビでも見てて?」

 そう言いながら肩を掴まれ、半ば強引にソファに座らされてしまった。お母さんが仕事へ出かけると、すぐに風香さんはシャワーを浴びると部屋を出ていった。

「風香さんが戻ってきたら、帰るよ……」

「分かったわ……あの、青嶋君……」

「なに?」

「本当に、迷惑じゃなかったかしら……?」

「全然。むしろこの体験にお金を払ってもいいくらいだ」

「……なによそれ。じゃあ、遠慮せずにいただこうかしら?」

 ファミレスでの「お手」を彷彿とさせるように手を差し出す後藤さん。

「出世払いでもいいか?」

「あなたにちゃんと出世する見込みはあるの……?」

 彼女が横目で尋ねたこの質問に、いつもならば冗談で返すところだけど、今回は少しだけ真面目に答えた。
「クラスで文化祭の準備を進めてるうちに、俺もやっと将来の夢っていうか、目標みたいなのが出来たんだ……」

「聞いてもいい?」

「まだ詳しいことは決めてないけど、大人になったら、自分の店を持ちたい。それまでに沢山経験を積んで、いつか自宅兼店舗の家を建てるんだ! 理想は1階が店で2階が自宅。それで結婚した奥さんと一緒に店を盛り上げて、子供が生まれたら、学校から帰ってきた子供達が店の中で遊んだり宿題をしたり。オープンの時間になったら『そろそろ自分の部屋に戻れよー!』なんて言ったりして……そんな未来が、きたらいいなって……」

「素敵ね……」

 後藤さんは、片方の目から一滴だけ、涙を溢した。

「え、なんで泣いてるの?」

「ごめんなさい……その風景を想像したら、子供たちの顔が浮かんできてしまって。きっと、その子たちは家族とずっと一緒に居られて幸せなんだろうなって……」

「まぁ、彼女もいない奴が言うのもおかしな話だけどな……」

「いいえ……きっと実現するわ。私にもその光景を、いつか見させて……?」

 やっと俺にも、憧れの会話が出来た。あの時の竜の気持ちが、分かったような気がした。でも俺が夢見る大人になった姿の、隣にいるのは、君なんだ。だから竜よりもきっと、この夢を応援された俺の方が、喜びは大きい。表情は隠したつもりだけど、この文化祭がその第一歩だと思うと、居ても立っても居られなくなった。

「ごめん、後藤さん。俺やっぱもう帰るわ!」

「え……?」

「文化祭の準備しないと。俺が初めて作るお店だから、やれる事は全部やっておきたい」

「そう……私も、楽しみにしているわ」

「絶対美味いって言わせるから」

「じゃあ青嶋君の焼鳥を食べるまで、何も口にしないで出前を待っているわね?」

「だから自分で買いに来いよ!」


 俺は後藤さんの家を出ると、すぐに小浦に電話をかけた。
「もしもし、どうしたの青嶋くん?」

「小浦、今から会えないか? 文化祭の事で話があるんだけど……」

「急だね……いきなりどうしたの?」

「予定とかあったら、俺一人でやるから無理しなくていいぞ?」

「無理なんて言ってないじゃん……準備する。今どこにいるの?」

「え、えーと……駅の近く」

「今日は学校もバイトもお休みなのに、こっちにいるの珍しいね……」

「ま、まあな……」

「ふーん、分かった。じゃあまだしばらく準備かかるから、ウチ来て待ってて?」

「え……」

 まさか……言い方は悪いが、学園の2大アイドルの家をハシゴすることになろうとは。

 
 
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