サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
59 / 72
第3部 巴

第48話 看板娘と看病娘。



 11月も中旬を迎え、文化祭まで残り1週間を切った。

 出店の場所は公平を期すためにくじ引きで決められたのだが、小浦のくじ運の強さで中庭でも目立つ好立地に割り振られた。

「青嶋くん! 美術部のみんなが協力してくれて、看板が出来たよ!」

 小浦の呼びかけで顔を上げると、店名が大きく書かれた見事な看板を美術部の男子生徒が数人がかりで持ち上げていた。彼らにも自分たちの準備があるだろうに、小浦に頼まれて断れなかったんだろう。
「インパクトあってすごくいいな!」

「いいお店にしようね?」

「小浦はここでも看板娘だな……」

「それ、褒めてるの?」

「もちろん……」

「青嶋くん、なんか顔赤くない?」

「そ、そうか……?」

 実を言うと、俺は体調があまり優れなかった。連日の文化祭準備と、バイトのシフトを多く入れていたことがたたって、今朝から少し熱っぽかった。

「おでこ貸して?」

「いいって、大したことないから……」

「もし倒れられたら、こっちが困るの!」

 小浦の気迫に負けて俺がこうべを垂れると、彼女はひんやりとする手を額に当てた。
「やっぱり、熱あるよ」

「このくらい、すぐ治るよ」

「あたし、これでも医者の娘だよ? 無理はさせられません」

 保健室まで連行されると、保険の先生から今日は帰った方がいいと言われてしまった。

「ごめん、大事な時に……」

「大丈夫だよ。もうほとんど準備は終わってるし、ゆっくり休んで早く治してね?」
 

 帰りに病院へ寄ると、人に移すような病気ではなく、疲れからくる風邪だろうという診断を受けた。数日休めば良くなると言われたが、その数日が今の俺には致命傷だ。とにかく一刻も早く治さないと……そう思って何か食べようと冷蔵庫を開けるが、何もない。うちの親は共働きで他に頼る人もいなかったから、美波へ学校帰りに何か食べ物を買ってきてくれとメールをして眠った。

 どうやら体調が悪化したようで、ぐっすりと深く眠っていた俺は、インターホンの音で目が覚めた。
「どちらさまですかー……?」

 扉を開けると、ビニール袋を持った小浦が立っていた。
「きたよ?」

「来たって、なんで……?」

「はあ? 青嶋くんが言ったんじゃん。食べ物買ってきてくれって」

 慌ててスマホを確認すると、俺は間違えて、小浦にメールを送っていた。
「ごめん、美波に送ったつもりだった……」  

「……なーんだ、せっかくあたしを頼ってくれたのかと思ってたのに……喜んで損しちゃった」
 
「でも遠くまでわざわざありがとう。散らかってるけど、上がってくれ……」 

 
 俺の部屋に入った小浦は、棚に飾ってあるヒバリのフィギュアを見て微笑んだ。
「ホントに飾ってくれてたんだ……」

「毎日行ってきますって言ってる」

「それはちょっとキモイかも……」

「たぶん今熱上がったぞ」

「冗談だよ。何なら食べられそう? 色々買ってきたけど」

 小浦が持っていたビニール袋は、食材とスポーツドリンクでパンパンだった。

「ありがとう、助かった。おかゆとかある?」

「うん。じゃあ温めてくるから、キッチン借りるね? 青嶋くんはゆっくり寝てて?」

 一度来たことがあるから、小浦は俺が案内せずとも一人でキッチンまで向かった。しばらくすると、水の流れる音やレンジの音が聞こえてくる。心地の良い音だった。

 次に部屋の扉が開くと、小浦はエプロンをしていた。
エプロンそれどうしたんだ?」

「文化祭の時につけようと思って、鞄に入れてたんだ。似合ってる?」

 小浦は見せびらかすようにクルっと一回転してみせた。

「すごく……」

 彼女はニヤッと、嬉しそうに笑った。
「ふふーん、おかゆ出来たよ? 起きられる?」

 起き上がった俺がおかゆの載ったお盆を受け取ろうと手を伸ばすと、彼女は首を横に振る。
「もちろん、あたしが食べさせてあげます」

「ちょっと待ってくれ、余計に熱上がるって……」

「もし溢しちゃったら大変だもん」

 レンゲですくい、吐息で入念に冷ましたおかゆを向けてくる天使。
「なんか、体育祭を思い出すな……」
 
「そうだね、あと海も……」

「やっぱ小浦もあれ、意識してたのか?」

「違うよ! 今のなし! はい、あーんして!」

 強引に口へ運ばれたおかゆによって、それ以上の口答えは出来なくされてしまう。


 おかゆを無事に食べ終わると、小浦は洗い物までしてくれた。
「何から何まで、ホントありがとな……」

「その分、文化祭で頑張ってもらうからね?」

「寝てる間もイメトレしておくよ……」

「そこはゆっくり休んでよ」

 そこへ学校から帰ってきた美波が、部屋の扉を勢いよく開いた。玄関に靴があったから、誰が来てるのか気になったんだろうと予測できた。
「え、おにぃなんで寝てるの? 死ぬの?」

「勝手に殺すなよ」

「美波ちゃん久しぶり。青嶋くん風邪引いちゃったんだ」

「マイちゃんが看病してくれたの?」

「あたしはただ様子を見に来ただけだよ」

「おにぃ、ちゃんとお礼言った?」

「お前はオカンか……ちゃんと元気になったらお礼はするつもりだよ」

「青嶋くん、それ詳しく」

「えーと、じゃあ……飯奢るよ」

「2人きり……?」

「それがいいなら、そうする」

 小浦はもはや隠す素振りすらなく、素直な表情を見せた。
「やったぁ。じゃあせっかくここまで来たし、美波ちゃん、あたしと遊んでくれる?」

「うん、いいよ。何する? アニメ見る? ゲームがいい?」

 あからさまに嬉しそうな高い声を出す美波の肩へ手を置いて、小浦は返す。
「じゃあうるさくならないように、音量小さくしてアニメ見よっか?」

「それなら、ミステリーでいいのがある」

「青嶋くんはちゃんと寝てね? あたしたちは今から女子会だから……お休みなさい」

 果たして飯を奢るくらいで返しきれるのか分からない恩を、また積み重ねてしまった。でも小浦舞は、俺には決して弱みを見せてはくれない。いつか彼女が、俺に助けを求めてくることはあるのだろうか。そんなことを考えながら、俺はもう一度眠りについた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。