サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第3部 巴

第51話 営業開始。



「すみません社長、実は今かなり立て込んでて……」

「炭のことだろう?」

「な、なんでそれを……?」

「儂の紹介だったから、業者からこっちにも連絡が入ってな。そっちに納品する予定だった炭は、明日たまだで引き取るから、店に元々置いてあった炭を今から学校まで運んでやる」

「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」

「なあに、パチンコへ向かうついでだ。アイツ奥さんには内緒だぞ?」

「もちろんです!」


 すぐに小浦に連絡をとってから学校の校門まで戻り社長の到着を待っていると、物凄い速さで向かってくるスポーツカーのような白い車が、急ブレーキの音を立てて目の前に停車する。これは今年納車したばかりの社長の愛車だ。

 開いた車窓から、サングラスをかけた社長が顔を出す。
「間に合ったか?」

「はい、ありがとうございます……これで無事にオープン出来ます!」

 社長の愛車から炭の入ったダンボールを、えっせほっせと降ろしていると、小浦が息を切らしながらやってきた。
「社長……本当にありがとうございます」

「小浦ちゃん……泣いてたんだって?   もう心配いらないから、ここからが看板娘の腕の見せ所だ。気を取り直していつも通りに頑張るといい」

 社長のこの言葉に、小浦の目はまた少し潤んでいた。
「青嶋くん、あたしも運ぶの手伝うね……!」

「あぁ、よろしく頼む」

 何度か往復して最後の箱に手を伸ばすと、車の側面に腰をもたれて佇んでいた社長が、遠い目で校舎を眺めながら呟いた。
「懐かしいなぁ……だが随分とまた、変わっちまったもんだ」

「もしかして社長、ここの卒業生だったんですか?」

「言ってなかったか?」

「まさか奥さんとは、ここで出会ってたりして……?」

 俺の冗談めいた推察に、社長は「フッ」と、目を閉じながら含みを持たせて笑い、また一点を見つめる。
「……真面目な先輩で、生徒会長なんてお堅い仕事までやっていた。正反対な儂のことを目の敵にしててな、しょっちゅう叱られていたもんだ。まぁそれは今も変わらんが、なんとかあの人に追いつこうと、高校生の儂は、それはもう必死に足掻いた……今となってはいい思い出だ」
 
 社長はバイト中によく、聞いてもいない過去の女性関係の話を、冗談交じりに聞かせてくれる。その時も今と同じようにうっすらと笑みを浮かべてはいるが、今回はどこか違う――そう感じさせるような表情をしていた。

「高校で出会った奥さんと、今でも一緒にいるって凄いことですよね……」

「出会ってからもう、45年になるか……」

「俺には、想像も出来ない長い時間です」

 社長は腕時計を確認すると「おっといけない」と溢し、慌ただしく運転席へと移動した。
「じゃあ儂はパチンコ屋がそろそろオープンするからもう行くが、青嶋、後悔のない青春を謳歌しろよ?」

「本当にありがとうございます!   社長もパチンコ頑張って下さいね?」

「沢山玉が出たら焼鳥全部買い占めに来てやるから、楽しみに待っとけ」

「期待して待ってます」

 そう言って別れたが、社長がパチンコで勝ったという話を、これまで一度として聞いたことがない。


 最後の炭を運び終えると、クラスのみんなが店の周りを取り囲むように集まっていた。
「全員集まって、どうしたんだ……?」

 綺麗な輪を乱して一歩前に出た小浦が、理由を話し始める。
「みんな青嶋くんが作ったお店で働きたいって、少しでも力になりたいって、言ってくれたんだ……」

「そっか……それは助かる。さすが、小浦の人脈と人望は伊達じゃないな!」

「違うよ?   あたしは関係ない。言ったでしょ?   みんなは青嶋くんが作ったこのお店を、一緒に盛り上げたいって言ってくれたの」

「この店を……?」

「そう……あたしたちの、『焼鳥一歩』をだよ?」

 小浦に続いてクラスメイト達が、あちこちで口を開いた。「今まであんまり手伝えなくてごめん」「俺、客引きやるよ!」「焼鳥を持って歩いて、校内で移動販売の売り子やるのとかどう?」「それいいね、宣伝にもなるし!」「私は計算得意だからレジやってもいいかな?」などの言葉を、次々にかけられた俺は、呆然としてしまう。

 その様子を嬉しそうに眺めていた小浦は、戸惑って言葉を失っていた俺に向かって、優しく声をかける。
「青嶋くん……ううん、今日は違うね……青嶋店長、あたしたちに指示をお願いします!」

「……小浦」

 クラスのみんなも、おもしろがって俺を店長と呼ぶ。思わず溢してしまいそうになる涙を必死に堪えて、俺は皆に指示を飛ばすと、時計を見て最後にこう付け加えた。
 
「焼鳥一歩、開店します!」

 クラスのみんなの歓声が、うるさいくらいに中庭で響き渡ると、それと同時に文化祭開始を告げる放送がスピーカーを通して校内全域へと流れた。

 
 俺は今まで、自分はなんの取り柄もない人間だと思っていた。俺に出来るのは、せめて人に優しくする事くらいだと、本気で思っていた。でも夢とかやりたい事が決まってからは、ただ夢中で、そんな些細な事を考える余裕すらなかった気がする。それにしても、今ふと思ったけど『夢中』って、いい言葉だな。夢の中だなんて、書いた字の如くだ。これはまだ俺の夢の途中……第一歩を踏み出すにあたって、これほど恵まれた環境は、他にないだろう。

 感極まりながらも、散々練習してきた要領で焼き台の炭へ火をつける。うちわで扇ぐと、ボワっと立ち昇る火柱を、まるで開戦の狼煙ように感じた。

 

 
 
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