21 / 63
第21話 良心ほどお節介
しおりを挟む
「おまたせ」
唯斗がそう言ってリビングに入ると、振り返った夕奈たちは揃って「おお~」と声を漏らした。
「なかなかいいじゃねぇか」
「男前ね~♪」
「それな」
さすがは自称ファッションコーディネーター天音ことアマネルと名乗っていただけの事はあるらしい。
唯斗はこの時初めて、妹の秘められた才能に気がついた……かもしれない。
「ほら、夕奈もなんか言えよ」
「ええっと……夕奈ちゃんの次にイケてる、かな……?」
「なんで疑問形なの~?」
唯斗の目から見ても夕奈はオシャレな方だし、そんな彼女に認められたのなら、悪い格好では無いのだろう。花音も静かに親指を立ててくれているし。
「そんじゃ行くか……って、目的地決まってないんだよな」
「ここはカノちゃんが決めるべきだと思うな~♪」
「それな」
指名された花音は「わ、私ですか?!」としばらくオドオドしていたが、もともと行先はある程度決めていたらしく、「ショッピングモールに行きましょう!」とビシッと決めた。
「いいねー、ショプモ!」
「夕奈、その略し方は違うと思うぞ」
「モールだよね~♪」
「それな」
「べ、別にどっちでもいいの!そうだよね、カノちゃん!」
「えっ?! は、はい! 私もそう思います……」
明らかに心にもないであろう返事に、「ほら!」とドヤ顔をしてみせる夕奈。すごくお花畑な人間である。
唯斗はそんな彼女を眺めながら、『間違った世界って、こうやって作られるんだろうなぁ』と心の中で呟いた。
「じゃあ、行こっか」
「おう」
「何買おうかな~♪」
「コスメ」
「男の子がいるとこでそれは遠慮するかも~」
歩き出す唯斗の後ろに瑞希、風花、こまるが着いてくる形で玄関へと向かう。
「ピンモって略し方も良くない?」
「そ、そうですね」
さらにその後ろから、未だにショッピングモールの略し方について考えている夕奈と、優しさゆえに違うと言えない花音が着いてくる。
唯斗にとって、こんなにも大人数で出かけることは人生で初めてだから、自分がどの位置を歩けばいいのかすら分からない。
が、とりあえず前にいれば置いていかれることだけはないという考えのもと、先行して歩んでいた。
「映画観るのもいいよな」
「わかる~」
「……取られた」
電車の中でそんな話をする3人の声をバックグラウンドに、椅子に座りながらウトウトする唯斗。
そんな彼を寝かせまいと必死に話かけてくるのは、夕奈……ではなく花音だった。
「ゆ、唯斗さんはモールにはよく行きますか?」
「年に1回、行くか行かないかくらいかな」
「へ、へぇー」
まあ、コミュ障&話す気がないやつの組み合わせだから話が続くはずもない。そこでここぞとばかりに夕奈が乱入してきた。
「私は毎月行ってるよ!」
「暇なんだね」
「うっ、暇じゃないやい!忙しいやい!」
「放課後、誘われないのに?」
「ぐふっ……」
事実というストレートパンチでノックアウト。夕奈は深刻な精神的ダメージに耐えきれず、隣に座るこまるの膝の上へと倒れ込む。
「私たちが夕奈を誘わないのは、嫌いだからとかうるさいからとかじゃないぞ?」
「そうそう、金欠だって言ってたからだよね~」
「それな」
なるほど、寂しい女と言っていたのは本人の勘違いで、本当は優しい友人たちの気遣いゆえだったと。
「みんなぁぁぁ!」
「あと、遊びに行くと必ずパフェ食べるしな」
「カロリーカロリーってうるさいもんね~」
「わかる」
「み、みんなぁ……」
喜び一色だった表情が、一瞬で悲しみ一色に変わる。これ、見てるだけなら飽きないね。
「私はみんなの体を気にして……」
「私は運動してるし」
「私は太らない体質だよ~」
「お節介」
「くそぉぉぉぉっ!」
仲間を失った夕奈は藁にもすがる思いで花音の方を見ると、「カノちゃんはカロリー気にするよね?」と肩を掴んで揺らす。
もはやカロリーおばけと化した夕奈の精神力は、吹いて消えるほどしか残っていない。それでも、勇気を出した花音は、ここで否定という技を覚えた。
「私は……美味しければいい、です」
「うう……」
楽しい楽しいお出かけ中の電車の中、しばらくすすり泣く声が止まなかった。
唯斗がそう言ってリビングに入ると、振り返った夕奈たちは揃って「おお~」と声を漏らした。
「なかなかいいじゃねぇか」
「男前ね~♪」
「それな」
さすがは自称ファッションコーディネーター天音ことアマネルと名乗っていただけの事はあるらしい。
唯斗はこの時初めて、妹の秘められた才能に気がついた……かもしれない。
「ほら、夕奈もなんか言えよ」
「ええっと……夕奈ちゃんの次にイケてる、かな……?」
「なんで疑問形なの~?」
唯斗の目から見ても夕奈はオシャレな方だし、そんな彼女に認められたのなら、悪い格好では無いのだろう。花音も静かに親指を立ててくれているし。
「そんじゃ行くか……って、目的地決まってないんだよな」
「ここはカノちゃんが決めるべきだと思うな~♪」
「それな」
指名された花音は「わ、私ですか?!」としばらくオドオドしていたが、もともと行先はある程度決めていたらしく、「ショッピングモールに行きましょう!」とビシッと決めた。
「いいねー、ショプモ!」
「夕奈、その略し方は違うと思うぞ」
「モールだよね~♪」
「それな」
「べ、別にどっちでもいいの!そうだよね、カノちゃん!」
「えっ?! は、はい! 私もそう思います……」
明らかに心にもないであろう返事に、「ほら!」とドヤ顔をしてみせる夕奈。すごくお花畑な人間である。
唯斗はそんな彼女を眺めながら、『間違った世界って、こうやって作られるんだろうなぁ』と心の中で呟いた。
「じゃあ、行こっか」
「おう」
「何買おうかな~♪」
「コスメ」
「男の子がいるとこでそれは遠慮するかも~」
歩き出す唯斗の後ろに瑞希、風花、こまるが着いてくる形で玄関へと向かう。
「ピンモって略し方も良くない?」
「そ、そうですね」
さらにその後ろから、未だにショッピングモールの略し方について考えている夕奈と、優しさゆえに違うと言えない花音が着いてくる。
唯斗にとって、こんなにも大人数で出かけることは人生で初めてだから、自分がどの位置を歩けばいいのかすら分からない。
が、とりあえず前にいれば置いていかれることだけはないという考えのもと、先行して歩んでいた。
「映画観るのもいいよな」
「わかる~」
「……取られた」
電車の中でそんな話をする3人の声をバックグラウンドに、椅子に座りながらウトウトする唯斗。
そんな彼を寝かせまいと必死に話かけてくるのは、夕奈……ではなく花音だった。
「ゆ、唯斗さんはモールにはよく行きますか?」
「年に1回、行くか行かないかくらいかな」
「へ、へぇー」
まあ、コミュ障&話す気がないやつの組み合わせだから話が続くはずもない。そこでここぞとばかりに夕奈が乱入してきた。
「私は毎月行ってるよ!」
「暇なんだね」
「うっ、暇じゃないやい!忙しいやい!」
「放課後、誘われないのに?」
「ぐふっ……」
事実というストレートパンチでノックアウト。夕奈は深刻な精神的ダメージに耐えきれず、隣に座るこまるの膝の上へと倒れ込む。
「私たちが夕奈を誘わないのは、嫌いだからとかうるさいからとかじゃないぞ?」
「そうそう、金欠だって言ってたからだよね~」
「それな」
なるほど、寂しい女と言っていたのは本人の勘違いで、本当は優しい友人たちの気遣いゆえだったと。
「みんなぁぁぁ!」
「あと、遊びに行くと必ずパフェ食べるしな」
「カロリーカロリーってうるさいもんね~」
「わかる」
「み、みんなぁ……」
喜び一色だった表情が、一瞬で悲しみ一色に変わる。これ、見てるだけなら飽きないね。
「私はみんなの体を気にして……」
「私は運動してるし」
「私は太らない体質だよ~」
「お節介」
「くそぉぉぉぉっ!」
仲間を失った夕奈は藁にもすがる思いで花音の方を見ると、「カノちゃんはカロリー気にするよね?」と肩を掴んで揺らす。
もはやカロリーおばけと化した夕奈の精神力は、吹いて消えるほどしか残っていない。それでも、勇気を出した花音は、ここで否定という技を覚えた。
「私は……美味しければいい、です」
「うう……」
楽しい楽しいお出かけ中の電車の中、しばらくすすり泣く声が止まなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる