46 / 63
第46話 赤点を取ったことのない奴は補習の恐ろしさを知らない
しおりを挟む
5人で遊びに行ってから数日後の夜。
そろそろ寝ようとベッドに入ったところで、机の上で充電していたスマホが震えた。
唯斗は面倒だから無視しようと布団を被ったものの、切れてはかかりを繰り返すそれに耐えかねて、仕方なくベッドから出る。
「……」
そして画面を確認した後、電源を落とした。通話の相手が夕奈だったから。
前回、早朝に花音から電話がかかってきた時の失敗から、連絡手段を断つ方が有効だと学んだのだ。さすがは成長する人の子である。
しかし、唯斗は知らなかった。他にもこの家に夕奈とのつながりを持つ者がいるということを。
「お兄ちゃん、師匠がお兄ちゃんに代わってだって!」
「……はぁ」
部屋に飛び込んできた天音が差し出すスマホ。その画面にも同じものが映っていた。
妹の連絡先を知られているのなら、どれだけ拒絶しても無意味だろう。
それに自分のせいで天音に迷惑がかかる。電話もかかる。それはあまりよろしくない。
「わかった、僕の方にかけ直すように言って」
「はーい!師匠、お兄ちゃんが──────」
彼女はスマホを耳に当てながら部屋を出ていく。唯斗はため息をついた後、さっき電源を落としたばかりのスマホを再起動させた。
ロックを解除すると同時にかかってきた電話に、わざと5コールくらい待ってから出る。すぐに出るのも何か言われそうだったからね。
「もしもし」
『遅かったね?夕奈ちゃんへのドキドキを隠す時間かなー?』
「さようなら」
『待って待って、切らないで!』
その慌てっぷりに免じて、仕方なくスマホのスピーカーの位置を耳に戻した。唯斗が眠そうに「用件は?」と聞くと、夕奈は「えっと……」と言葉に詰まる。
「用件もないのに電話してきたの?」
『……唯斗君、怒ってる?』
「怒ってるわけじゃないよ。ものすごく寝たいだけ」
『ごめんね、久しぶりに声聞きたくなったから』
唯斗は彼女の言葉と声色に、いつもの元気さが無いことに気がついた。初めこそいつも通りかと思えたが、どうやらわざとそう演じていただけらしい。
『迷惑だった……?』
もしかすると、閉じ込められている山はかなり環境が悪いんじゃないだろうか。赤点保持者の集まる場所だから、治安も悪いのかもしれない。
唯斗はそんなありもしない想像をすると、少しだけ夕奈のことが気の毒に思えてきた。少しくらいなら、声を聞かせてあげてもいいかもしれない。
きっと、赤点不保持者の声を聞いて、監禁生活によって荒んだ心を癒したい気分なだけだろうし。
『ごめんね、やっぱりやめ──────』
「いや、いいよ」
『え?! 唯斗君、ついにデレ期到来か!』
「そういうんだったら断るけど?」
『ごめんなさい、本当に限界なんです……』
今にも泣き出しそうな声色に、唯斗はあくびをしながら「ていうか……」と呟いた。
「スマホ、取り上げられてるんじゃないの?」
『あー、使わなくなった方を渡して、こっちは隠し持ってたんだよね』
「なるほど」
彼が「夕奈にしては頭を使ったんだね」と言うと、「でしょー?」とドヤ感を含んだ声が返ってくる。ちょっとウザイ。
『あ、告げ口しないでよ? 夕奈ちゃん、これがないと死んじゃうから』
「それはフリ?」
『違うからね?! てか、本当に言わないで。勉強だけで残り一週間とか精神病むから』
「はいはい、聞かなかったことにしてあげるから」
『……ありがと』
うん、これは相当弱ってるね。あの歩く騒音機がここまで弱気になるなんて、絶対にただ事じゃない。
唯斗の頭の中には、ムチを片手に生徒たちを脅す担任教師の姿が浮かんでいた。「もっとテスト勉強すれば良かった……」と呟いて倒れていく者もいる。
「夕奈、残りも頑張って」
『……応援してくれるのかい?』
「夕奈が倒れたら、花音たちが悲しむでしょ?」
『そ、そうだよね。私頑張るよ!』
段々と元気を取り戻してきた彼女は、『ところで……』と何やらモゴモゴ言うと、少し間を置いてから囁くような声で聞いてきた。
『ゆ、唯斗君は?』
「僕がどうしたの」
『唯斗君は私に何かあったら悲しんでくれるのかなって……』
その質問に唯斗は、「悲しむわけない」と即答しようとしたが、彼の中の理性がそれを止めた。
夕奈は今、精神的に追い詰められているらしい。そんなところへいつものように突き放すことを言えば、それが引き金になって早まった行動に出てしまうかもしれない。
夕奈のために流す涙は持ち合わせていないが、花音たちが悲しむ理由を作りたいとは思わなかった。
唯斗は一度咳払いを挟むと、出来る限り自然体を意識して「悲しいよ」と答える。しかし……。
『棒読みすぎるよ! 絶対思ってないでしょ!』
「まあ、うん」
すぐに見破られてしまった。やっぱり、電話越しでも嘘をつくってのは難しいもんだね。
『……でも、ありがと。嘘でも嬉しかったよ』
夕奈は笑いながらそう言うと、『じゃあ、そろそろ寝るね』と話を終わりの方向へと向かわせた。時計を見てみれば時間もいい頃だ。
唯斗が「おやすみ」と言うと、電話の向こうからも『おやすみなさい』の声が返ってくる。
こちらから切るべきなのか分からなくて、お互いに無言でいる時間が10秒ほど流れた後、『またね』と言う声の直後にツーツーという音がスピーカーから流れた。
「……」
スマホの画面を切って机に置くと、唯斗はふと部屋の中がすごく静かなことに気がく。それは彼がこよなく愛する平穏そのものだ。
悪がいるから善はより良いものとされる。同じように騒がしさがあるから、静けさをより強く感じられる。
彼女は平穏という影を際立たせる光のような存在なのかもしれない。まあ、全方位から光をあびせてくるから、影を消滅させかけているけど。
「……たまに話すくらいがちょうどいいね」
唯斗はそう呟いて、ベッドへと横になった。
そろそろ寝ようとベッドに入ったところで、机の上で充電していたスマホが震えた。
唯斗は面倒だから無視しようと布団を被ったものの、切れてはかかりを繰り返すそれに耐えかねて、仕方なくベッドから出る。
「……」
そして画面を確認した後、電源を落とした。通話の相手が夕奈だったから。
前回、早朝に花音から電話がかかってきた時の失敗から、連絡手段を断つ方が有効だと学んだのだ。さすがは成長する人の子である。
しかし、唯斗は知らなかった。他にもこの家に夕奈とのつながりを持つ者がいるということを。
「お兄ちゃん、師匠がお兄ちゃんに代わってだって!」
「……はぁ」
部屋に飛び込んできた天音が差し出すスマホ。その画面にも同じものが映っていた。
妹の連絡先を知られているのなら、どれだけ拒絶しても無意味だろう。
それに自分のせいで天音に迷惑がかかる。電話もかかる。それはあまりよろしくない。
「わかった、僕の方にかけ直すように言って」
「はーい!師匠、お兄ちゃんが──────」
彼女はスマホを耳に当てながら部屋を出ていく。唯斗はため息をついた後、さっき電源を落としたばかりのスマホを再起動させた。
ロックを解除すると同時にかかってきた電話に、わざと5コールくらい待ってから出る。すぐに出るのも何か言われそうだったからね。
「もしもし」
『遅かったね?夕奈ちゃんへのドキドキを隠す時間かなー?』
「さようなら」
『待って待って、切らないで!』
その慌てっぷりに免じて、仕方なくスマホのスピーカーの位置を耳に戻した。唯斗が眠そうに「用件は?」と聞くと、夕奈は「えっと……」と言葉に詰まる。
「用件もないのに電話してきたの?」
『……唯斗君、怒ってる?』
「怒ってるわけじゃないよ。ものすごく寝たいだけ」
『ごめんね、久しぶりに声聞きたくなったから』
唯斗は彼女の言葉と声色に、いつもの元気さが無いことに気がついた。初めこそいつも通りかと思えたが、どうやらわざとそう演じていただけらしい。
『迷惑だった……?』
もしかすると、閉じ込められている山はかなり環境が悪いんじゃないだろうか。赤点保持者の集まる場所だから、治安も悪いのかもしれない。
唯斗はそんなありもしない想像をすると、少しだけ夕奈のことが気の毒に思えてきた。少しくらいなら、声を聞かせてあげてもいいかもしれない。
きっと、赤点不保持者の声を聞いて、監禁生活によって荒んだ心を癒したい気分なだけだろうし。
『ごめんね、やっぱりやめ──────』
「いや、いいよ」
『え?! 唯斗君、ついにデレ期到来か!』
「そういうんだったら断るけど?」
『ごめんなさい、本当に限界なんです……』
今にも泣き出しそうな声色に、唯斗はあくびをしながら「ていうか……」と呟いた。
「スマホ、取り上げられてるんじゃないの?」
『あー、使わなくなった方を渡して、こっちは隠し持ってたんだよね』
「なるほど」
彼が「夕奈にしては頭を使ったんだね」と言うと、「でしょー?」とドヤ感を含んだ声が返ってくる。ちょっとウザイ。
『あ、告げ口しないでよ? 夕奈ちゃん、これがないと死んじゃうから』
「それはフリ?」
『違うからね?! てか、本当に言わないで。勉強だけで残り一週間とか精神病むから』
「はいはい、聞かなかったことにしてあげるから」
『……ありがと』
うん、これは相当弱ってるね。あの歩く騒音機がここまで弱気になるなんて、絶対にただ事じゃない。
唯斗の頭の中には、ムチを片手に生徒たちを脅す担任教師の姿が浮かんでいた。「もっとテスト勉強すれば良かった……」と呟いて倒れていく者もいる。
「夕奈、残りも頑張って」
『……応援してくれるのかい?』
「夕奈が倒れたら、花音たちが悲しむでしょ?」
『そ、そうだよね。私頑張るよ!』
段々と元気を取り戻してきた彼女は、『ところで……』と何やらモゴモゴ言うと、少し間を置いてから囁くような声で聞いてきた。
『ゆ、唯斗君は?』
「僕がどうしたの」
『唯斗君は私に何かあったら悲しんでくれるのかなって……』
その質問に唯斗は、「悲しむわけない」と即答しようとしたが、彼の中の理性がそれを止めた。
夕奈は今、精神的に追い詰められているらしい。そんなところへいつものように突き放すことを言えば、それが引き金になって早まった行動に出てしまうかもしれない。
夕奈のために流す涙は持ち合わせていないが、花音たちが悲しむ理由を作りたいとは思わなかった。
唯斗は一度咳払いを挟むと、出来る限り自然体を意識して「悲しいよ」と答える。しかし……。
『棒読みすぎるよ! 絶対思ってないでしょ!』
「まあ、うん」
すぐに見破られてしまった。やっぱり、電話越しでも嘘をつくってのは難しいもんだね。
『……でも、ありがと。嘘でも嬉しかったよ』
夕奈は笑いながらそう言うと、『じゃあ、そろそろ寝るね』と話を終わりの方向へと向かわせた。時計を見てみれば時間もいい頃だ。
唯斗が「おやすみ」と言うと、電話の向こうからも『おやすみなさい』の声が返ってくる。
こちらから切るべきなのか分からなくて、お互いに無言でいる時間が10秒ほど流れた後、『またね』と言う声の直後にツーツーという音がスピーカーから流れた。
「……」
スマホの画面を切って机に置くと、唯斗はふと部屋の中がすごく静かなことに気がく。それは彼がこよなく愛する平穏そのものだ。
悪がいるから善はより良いものとされる。同じように騒がしさがあるから、静けさをより強く感じられる。
彼女は平穏という影を際立たせる光のような存在なのかもしれない。まあ、全方位から光をあびせてくるから、影を消滅させかけているけど。
「……たまに話すくらいがちょうどいいね」
唯斗はそう呟いて、ベッドへと横になった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる