47 / 63
第47話 夏休みは宿題が終わると案外暇になる
しおりを挟む
「よし、終わった」
唯斗はそう呟いてシャーペンを置く。計画的に宿題をやっていたため、夏休み9日目にして全て終わらせることが出来たのである。
sinやらcos、tanに苦しめられるものもいるらしいが、唯斗からすればあんなものは公式さえ覚えてしまえば朝飯前……いや、昼寝前だ。
「……暇だなぁ」
ただ、ここで訪れるのが突然の暇である。夏休みというのは長いことが魅力ではあるが、部活をやっていない人からすれば、特筆してやることも無い期間なのだ。
まさにその代表のような唯斗は、「今は寝る気分でもないんだよね……」と呟くと、今日一日をどう過ごすかに頭を悩ませながら、部屋を出て1階へと向かった。
「うーん、難しい……」
リビングの机では、天音が宿題と向き合っている。そうだ、勉強を教えてあげることにしよう。
唯斗はそう決めると、天音の解いている宿題を覗き込んだ。さすがに小学生の問題だから、分からない箇所は見当たらないね。
「天音、分からないところがあったら聞いてね」
「別にいいよ。お兄ちゃんは寝てて」
「僕がいつも寝てると思ったら大間違いだよ」
「何も間違ってないと思うけど」
心外だなぁ。天音にそんなふうに思われていたなんて。お兄ちゃんだって動く時は動くし、妹の面倒くらいは見れるというのに。
唯斗は仕方なく天音から離れると、ソファーに腰を下ろした。暇つぶしとしてゲームをやるのもいいけど、宿題をする邪魔になりそうだから今はやめておこう。
「眠くない日ってこんなに暇なんだね……」
やることと言えば、時計の秒針が奏でるカチカチという音に耳を傾けることくらいだ。
この一定のリズムに浸っていると、段々とまぶたが重くなってくるような……あ、寝れそうかも……。
「唯斗、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「……母さん、何?」
もう少しで眠りに落ちるというところで、唯斗は母さんの声で現実に引き戻された。
夢の国でチケットを買ったのに、ゲートで提出したら目の前でビリビリに破り捨てられた気分だ。
心の中のミッ〇ーが、「出口はあっちだよ!アハッ!」と言っている気がする。
「卵買ってきてくれない? 今日特売で安いから」
「……お釣りは?」
「取っといていいから。ほら、行ってきて」
母さんはそう言うと、唯斗にお金を握らせてリビングから追い出すように背中を押した。
眠りは邪魔されたけど、やることが出来たからいいか。お釣りも貰えるし……と手のひらの中を見てみると、そこにあったのは156円。
「悪の大魔王ハハーンめ、ピッタリ渡しやがったな」
お釣りが出るとは言われていないけど、何だか騙された気分だ。そうは言っても、今さら行かないとも言えない。だって夕飯抜きにされかねないから。
唯斗はしょんぼりと肩を落とすと、カバンと財布を取りに行くべく2階へと戻る。足裏に触れる階段のフローリングが、いつもより冷たく感じられた。
「……眠い。お釣りもらえないから眠い」
シュークリームにクレープ、唯斗はクレジットがあるからこそ働く人間である。それがゼロなら、やる気よりも眠気が勝ってしまう。
「……」
いっそこのままベッドで眠ってサボってしまおうか。そんな悪い考えが体を支配し始めたものの、背後に視線を感じて振り返ってみると、ハハーンがこちらをじっと睨んでいた。
「お小遣い、減らされてもいいんだな?」
「……今行こうと思ってた」
ベッドに沈みこんでいた半身を起き上がらせ、そそくさとカバン片手に部屋を出る唯斗。あの目は本気で小遣いを減らすつもりだ。
さすがは悪の大魔王、使えるのなら脅しでもなんでも躊躇うことがない。本当にあの純粋な天音はこの人の腹から出てきたのだろうか。
「行ってきます」
「寄り道したらダメよ。最速で帰ってきなさい」
「もし遅かったら?」
「10秒ごとにお小遣いを1%ずつ引いていく」
「……行ってきます」
これが世に言う『トイチ』と言うやつなのだろうか。確かに恐ろしいシステムである。
唯斗は玄関を出てすぐに深いため息をこぼすと、最寄りのスーパーに向かってトボトボと歩き始めた。
唯斗はそう呟いてシャーペンを置く。計画的に宿題をやっていたため、夏休み9日目にして全て終わらせることが出来たのである。
sinやらcos、tanに苦しめられるものもいるらしいが、唯斗からすればあんなものは公式さえ覚えてしまえば朝飯前……いや、昼寝前だ。
「……暇だなぁ」
ただ、ここで訪れるのが突然の暇である。夏休みというのは長いことが魅力ではあるが、部活をやっていない人からすれば、特筆してやることも無い期間なのだ。
まさにその代表のような唯斗は、「今は寝る気分でもないんだよね……」と呟くと、今日一日をどう過ごすかに頭を悩ませながら、部屋を出て1階へと向かった。
「うーん、難しい……」
リビングの机では、天音が宿題と向き合っている。そうだ、勉強を教えてあげることにしよう。
唯斗はそう決めると、天音の解いている宿題を覗き込んだ。さすがに小学生の問題だから、分からない箇所は見当たらないね。
「天音、分からないところがあったら聞いてね」
「別にいいよ。お兄ちゃんは寝てて」
「僕がいつも寝てると思ったら大間違いだよ」
「何も間違ってないと思うけど」
心外だなぁ。天音にそんなふうに思われていたなんて。お兄ちゃんだって動く時は動くし、妹の面倒くらいは見れるというのに。
唯斗は仕方なく天音から離れると、ソファーに腰を下ろした。暇つぶしとしてゲームをやるのもいいけど、宿題をする邪魔になりそうだから今はやめておこう。
「眠くない日ってこんなに暇なんだね……」
やることと言えば、時計の秒針が奏でるカチカチという音に耳を傾けることくらいだ。
この一定のリズムに浸っていると、段々とまぶたが重くなってくるような……あ、寝れそうかも……。
「唯斗、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「……母さん、何?」
もう少しで眠りに落ちるというところで、唯斗は母さんの声で現実に引き戻された。
夢の国でチケットを買ったのに、ゲートで提出したら目の前でビリビリに破り捨てられた気分だ。
心の中のミッ〇ーが、「出口はあっちだよ!アハッ!」と言っている気がする。
「卵買ってきてくれない? 今日特売で安いから」
「……お釣りは?」
「取っといていいから。ほら、行ってきて」
母さんはそう言うと、唯斗にお金を握らせてリビングから追い出すように背中を押した。
眠りは邪魔されたけど、やることが出来たからいいか。お釣りも貰えるし……と手のひらの中を見てみると、そこにあったのは156円。
「悪の大魔王ハハーンめ、ピッタリ渡しやがったな」
お釣りが出るとは言われていないけど、何だか騙された気分だ。そうは言っても、今さら行かないとも言えない。だって夕飯抜きにされかねないから。
唯斗はしょんぼりと肩を落とすと、カバンと財布を取りに行くべく2階へと戻る。足裏に触れる階段のフローリングが、いつもより冷たく感じられた。
「……眠い。お釣りもらえないから眠い」
シュークリームにクレープ、唯斗はクレジットがあるからこそ働く人間である。それがゼロなら、やる気よりも眠気が勝ってしまう。
「……」
いっそこのままベッドで眠ってサボってしまおうか。そんな悪い考えが体を支配し始めたものの、背後に視線を感じて振り返ってみると、ハハーンがこちらをじっと睨んでいた。
「お小遣い、減らされてもいいんだな?」
「……今行こうと思ってた」
ベッドに沈みこんでいた半身を起き上がらせ、そそくさとカバン片手に部屋を出る唯斗。あの目は本気で小遣いを減らすつもりだ。
さすがは悪の大魔王、使えるのなら脅しでもなんでも躊躇うことがない。本当にあの純粋な天音はこの人の腹から出てきたのだろうか。
「行ってきます」
「寄り道したらダメよ。最速で帰ってきなさい」
「もし遅かったら?」
「10秒ごとにお小遣いを1%ずつ引いていく」
「……行ってきます」
これが世に言う『トイチ』と言うやつなのだろうか。確かに恐ろしいシステムである。
唯斗は玄関を出てすぐに深いため息をこぼすと、最寄りのスーパーに向かってトボトボと歩き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる