隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?

プル・メープル

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第48話 くじ引きは当たると景品にこまる

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 スーパーで会計を済ませた唯斗ゆいとは、渡されていたお金にレジ袋代が含まれていないことに気が付かされ、仕方なく卵を手で持って帰ることにした。

「地球より息子に優しくして欲しいよ」

 そんなことを呟きながらコンビニの前を通った彼は、ふと見知った顔があることに気がついて足を止める。
 彼女は入口の近くで棚を見つめながら、悩ましげに首を傾げていた。唯斗は不思議に思いながら入店すると、後ろから声をかけてみる。

瑞希みずき?」
「ん? 小田原おだわらじゃないか」

 彼女は振り返ると、軽く「よっ」と挨拶してくれる。唯斗も真似をして手を上げようとしたが、卵を落としそうになってやっぱりやめた。

「どうして手で持ってるんだ?」
「ハハーンが意地悪するから」
「……よく分からないが、良かったら使ってくれ」

 瑞希はそう言うと、カバンの中から取り出したエコバッグを手渡してくれる。しかも底が平らになっているやつだ。

「大天使ミズエル……」
「なんだそれ」

 唯斗は「ありがたく使わせてもらうよ」と言って、バッグの中に卵をそっと入れた。
 これで給食のトレーを持って順番を待つ小学生みたいにならなくて済むよ。

「瑞希はこんなところで何してるの? 最寄りってここじゃないよね?」
「ああ、ちょっとこれが欲しくてな」

 瑞希が指差した先には、一番くじと書かれた棚があった。運が良ければ、アニメの人形やポスターが当たるらしい。

「マルにおすすめされたアニメのやつでな。くじをやってる店で家から一番近いのがここなんだ」
「そういうことだったんだね」
「おう。でも、1回がそれなりに高いだろ?何回引こうか迷ってたところなんだよ」

 ぬいぐるみの横に置いてある値札を見てみれば、確かに1回700円と良い景品が貰えないと大損な価格設定。
 瑞希も花音かのんに使いすぎを注意している立場上、気のままに手を出すことが出来ないらしい。

「いくら持ってきたの?」
「一応6回分。3回分はマルに代わりに引いてきてくれって渡された分だ」
「なら3回は確定だね。せっかくここまで来たんだし、どうせなら全部引いたら?」
「いや、でもな……」
「好きなことにお金を使うのは、悪いことじゃないと思うよ?」

 唯斗の言葉に「……そうだよな」と頷いた彼女は、引換券を持ってレジへ向かうと、思い切ったように「6回分お願いします」と告げた。
 しかし、店員さんはレジの下から箱を取り出すと、中を覗いて渋い顔をする。

「すみません、あと3回分しか残ってないみたいなんですよ」
「え? ということは……」

 瑞希の目がキラキラと光る。その意図を理解したらしい店員さんは再度レジの下へ手を伸ばすと、大きなぬいぐるみを取り出した。

「ラストワン賞がついてきますね」
「おお!」

 珍しく興奮気味に喜んだ瑞希は、唯斗のボーッとした視線に気がつくと照れたようにコホンと咳払いをする。

「何かいいのが当たったの?」
「いや、そうじゃない。最後のくじを引いた人は特別な景品をゲットできるんだ」
「おお、それはすごいね」

 パチパチと拍手する唯斗に明るい笑顔を見せた瑞希は、3回分の値段だけ払ってくじを引く。
 当たったのはE賞の色紙が2枚とD賞のキーホルダーだっけれど、コンビニから出てくる彼女はすごく嬉しそうな顔をしていた。

「よかったね」
「おう!」

 こんなにもニコニコしているところに、水を差してしまうことになりかねないと分かってはいるけれど、唯斗はどうしても気になることがあった。

「瑞希、ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「そのぬいぐるみって瑞希とこまる、どっちのものになるの?」
「……」

 どうやら喜びのあまり忘れていたらしい。彼女はこまるからお金を預かって来ている。
 先程使った3回分のお金がどっちのものだったのか、証明のしようもなければ景品を半分に割ることも出来ない。
 瑞希は「そう言えばそうだな……」と落ち込んだようにため息をつくと、店員によって貼られた『一番くじ売り切れ』の紙を眺めながら言った。

「……マルの、だな」

 瑞希によると、彼女らは過去に一度だけグッズの取り合いをしたことがあるらしい。
 しかし、勝者が景品をゲットするというルールでアニメクイズ対決をして、こまるにコテンパンにやられた挙句全てを持っていかれたんだとか。
 それ以来、良い景品は喧嘩になる前に譲ってあげているとのこと。

「まあ、こまるが持ってる方がこのぬいぐるみも嬉しいだろ……」

 そう呟く瑞希の目は、ほんの少し潤んでいた。


 後日聞いた話によると、瑞希はぬいぐるみを譲ってもらえたらしい。こまるに一体どんな変化があったのかは分からないが、唯斗は彼女が報われたようでよかったと心から思った。
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