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第50話 兄は妹に勝てない
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「お兄ちゃん、私も海行きたい!」
瑞希からお誘いを受けた翌日、天音がいきなりそんなことを言い出した。
ちょうど某有名海賊アニメが放送されていたから影響されたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
机の上に置いていた唯斗のスマホを覗き見したようだ。瑞希から『海に持っていくべきもの』と書かれた通知が届いていた。
「じゃあ、僕の代わりに行ってきてよ」
「夕奈師匠は来るの?」
「もちろん」
「じゃあダメ! お兄ちゃんも一緒に行くよ!」
「……なぜ?」
「そこに師匠がいるから!」
よく分からないけど、天音はどうしても唯斗を連れていくつもりらしい。家の中にまで敵が潜んでいたなんて、これでは逃げ場がないではないか。
こうなったら、妹相手に少し後ろめたいけど、ずるい手を使うしかないね。
「こほんこほん。ごめん、ちょっと喉が痛いかも」
「もしもし、師匠? お兄ちゃんが看病を……」
「治ったよ、治ったから夕奈を呼ぶのはやめて」
唯斗が慌ててスマホを取り上げると、天音は「治ったなら行けるね!」としてやったりと言いたげな笑みを見せる。まさかと思って見てみれば、スマホの画面には何も映っていなかった。
「……お兄ちゃんを騙したの?」
「騙される方が悪いんだもん!」
「そっか。そんな悪い子、お兄ちゃんはもう知らないから」
ふいっと顔を背け、リビングの扉へと向かう唯斗。その冷たい態度で自分の行動を後悔したのか、天音は焦りを含んだ表情を見せた。
「お兄ちゃん、違うの……」
扉を開こうとしたところで、ギュッと袖を引かれる。天音は俯きながら唯斗を引き止めていた。
「お兄ちゃん……私、一緒に海行きたくて……」
言葉に詰まりながらも必死にそう伝えてくれる姿を見て、反省してくれたのだと判断した唯斗は、そっと優しく頭を撫でてあげる。
「知らないなんて嘘だから。僕が天音を嫌いになることなんてないよ」
たった一人の妹だ。どれだけ反抗期が来ても、唯斗にはお兄ちゃんとして彼女のことを大切に思える自信があった。
そんな心のこもった言葉に安心したのか、天音は目元を拭いながらゆっくりと顔を上げてくれる。そして唯斗と目が合うとにっこり─────────。
「騙される方が悪いんだよ♪」
いや、にんまりと笑った。
その目元には涙のあとすらない。彼女は終始兄を欺いていたのだ。なかなかに演技派である。
「天音、お兄ちゃん本当に怒るよ?」
「私のこと、嫌いにならないんだよね?」
「……夕奈に影響されたのかな」
どことなく似ている気がする。妹だからかイラッとすることは無いけど、これ以上酷くなると本当に樹海へ置いてくることも検討するかもしれない。
「でも、一緒に海に行きたいのは本当だよ?」
「天音……」
「お母さんも私だけじゃ許してくれないと思うし!」
「……」
なるほど、天音の目的はあくまで夕奈たち。唯斗について来てもらうのは、保護者としての役割でしかないようだ。感動しかけた心を返して欲しい。
「僕、やっぱり行かない」
「お母さんに言い付けるよ?」
「それは勘弁して」
「じゃあ、明日買い物に付き合ってね」
ただでさえお小遣いが減らされていると言うのに、今告げ口でもされたらゼロにされかねない。
脅しまで使ってくるとは、さすがはハハーンの娘である。やっぱり天音はあの人の腹から出てきてるね。
「買い物って何買うつもり?」
「海に行くんだよ? 準備しなきゃ」
「あ、そっか」
唯斗は思い出したようにスマホを取り出すと、瑞希の送ってくれた持っていくもの一覧を確認した。
2泊分の着替えに日焼け止め、砂浜に敷くためのレジャーシートやお土産代。そして─────────。
「水着、そう言えば学校のしかないなぁ……」
「なら、お兄ちゃんの分も買わないとね!」
そういうわけで、唯斗はまたデパートに行くことになったのだった。
瑞希からお誘いを受けた翌日、天音がいきなりそんなことを言い出した。
ちょうど某有名海賊アニメが放送されていたから影響されたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
机の上に置いていた唯斗のスマホを覗き見したようだ。瑞希から『海に持っていくべきもの』と書かれた通知が届いていた。
「じゃあ、僕の代わりに行ってきてよ」
「夕奈師匠は来るの?」
「もちろん」
「じゃあダメ! お兄ちゃんも一緒に行くよ!」
「……なぜ?」
「そこに師匠がいるから!」
よく分からないけど、天音はどうしても唯斗を連れていくつもりらしい。家の中にまで敵が潜んでいたなんて、これでは逃げ場がないではないか。
こうなったら、妹相手に少し後ろめたいけど、ずるい手を使うしかないね。
「こほんこほん。ごめん、ちょっと喉が痛いかも」
「もしもし、師匠? お兄ちゃんが看病を……」
「治ったよ、治ったから夕奈を呼ぶのはやめて」
唯斗が慌ててスマホを取り上げると、天音は「治ったなら行けるね!」としてやったりと言いたげな笑みを見せる。まさかと思って見てみれば、スマホの画面には何も映っていなかった。
「……お兄ちゃんを騙したの?」
「騙される方が悪いんだもん!」
「そっか。そんな悪い子、お兄ちゃんはもう知らないから」
ふいっと顔を背け、リビングの扉へと向かう唯斗。その冷たい態度で自分の行動を後悔したのか、天音は焦りを含んだ表情を見せた。
「お兄ちゃん、違うの……」
扉を開こうとしたところで、ギュッと袖を引かれる。天音は俯きながら唯斗を引き止めていた。
「お兄ちゃん……私、一緒に海行きたくて……」
言葉に詰まりながらも必死にそう伝えてくれる姿を見て、反省してくれたのだと判断した唯斗は、そっと優しく頭を撫でてあげる。
「知らないなんて嘘だから。僕が天音を嫌いになることなんてないよ」
たった一人の妹だ。どれだけ反抗期が来ても、唯斗にはお兄ちゃんとして彼女のことを大切に思える自信があった。
そんな心のこもった言葉に安心したのか、天音は目元を拭いながらゆっくりと顔を上げてくれる。そして唯斗と目が合うとにっこり─────────。
「騙される方が悪いんだよ♪」
いや、にんまりと笑った。
その目元には涙のあとすらない。彼女は終始兄を欺いていたのだ。なかなかに演技派である。
「天音、お兄ちゃん本当に怒るよ?」
「私のこと、嫌いにならないんだよね?」
「……夕奈に影響されたのかな」
どことなく似ている気がする。妹だからかイラッとすることは無いけど、これ以上酷くなると本当に樹海へ置いてくることも検討するかもしれない。
「でも、一緒に海に行きたいのは本当だよ?」
「天音……」
「お母さんも私だけじゃ許してくれないと思うし!」
「……」
なるほど、天音の目的はあくまで夕奈たち。唯斗について来てもらうのは、保護者としての役割でしかないようだ。感動しかけた心を返して欲しい。
「僕、やっぱり行かない」
「お母さんに言い付けるよ?」
「それは勘弁して」
「じゃあ、明日買い物に付き合ってね」
ただでさえお小遣いが減らされていると言うのに、今告げ口でもされたらゼロにされかねない。
脅しまで使ってくるとは、さすがはハハーンの娘である。やっぱり天音はあの人の腹から出てきてるね。
「買い物って何買うつもり?」
「海に行くんだよ? 準備しなきゃ」
「あ、そっか」
唯斗は思い出したようにスマホを取り出すと、瑞希の送ってくれた持っていくもの一覧を確認した。
2泊分の着替えに日焼け止め、砂浜に敷くためのレジャーシートやお土産代。そして─────────。
「水着、そう言えば学校のしかないなぁ……」
「なら、お兄ちゃんの分も買わないとね!」
そういうわけで、唯斗はまたデパートに行くことになったのだった。
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