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第1章 幼少期編

第8話 賢者アルフレド

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 ハズール王国領内でもかなりの奥地、北部のバーリ地方の街道を白髪まじりの初老の男と若々しい年頃の女が歩いていた。

「お師匠、ララは疲れました。次の村で宿を取ってしばらく休みましょう!」

「ララよ、ワシらは急いでおるのだ。早急に森を抜け霊峰ジーフ山の異変を調査せよと王命を受けたのを忘れたか?」

「うぅぅ、それは覚えてますけど……だったらなぜ王様は馬車の一つも出してくださらなかったのですか?王命がどうのこうのと言う前にお師匠様は王国に名を轟かせる大賢者アルフレド様なのですよ!?私は王国のこのぞんざいな扱いに断固意義を申し立てます!」

「そう言うてやるな。王国は巨大じゃが、その分色々な人間の思惑が絡み合って中身は複雑なのじゃ。それに意義を申し立てるべき役人もここには居らんのだから、腹を立てるだけ時間のムダじゃ」

 男の名はアルフレド。魔法学の研究者にして、その他幅広い領域の学問に精通しており、王国の中では「賢者」として広く知られる存在である。

 そして隣を歩く女の名はララ。数年前までアルフレドが王都の学校で魔法学の講師をしていた頃の生徒の一人で、アルフレドが講師を辞任し国内をめぐる旅に出たときから従者として同行している。

 アルフレドは年頃の女がホイホイとおっさんについてくるものではないと何度も動向を拒んだが、最終的にララの勢いに押されて動向をみとめた。もっとも、ララは学生の頃から優秀で特に魔法の知識については同世代の中でも頭一つ抜けるほどであったため、アルフレドとしてもゆくゆくは彼女に自分の研究を継いでもらいたいとひそかに思っていたのだが。

「おや??」

 アルフレドが街道の真ん中で急に足を止めた。

「おわっ…おっとっと、なんでいきなり止まるんですか!」

 前を歩いていたアルフレドにぶつかりそうになったララが不機嫌そうにアルフレドに尋ねた。

「ララ、この木をみてみろ。こっちもじゃ」

「木?木がどうしたんですか……」

 そして二人は街道の脇でキレイに切断された数本の木に近づいた。数本の木々が右上から左下に向けて斜めにすっぱりと切断されていた。

「これはまた…ずいぶんときれいな断面ですね…」

「そう、きれいすぎるのじゃ。ノコギリはもちろん、どれだけ切れ味の良い剣でもなかなかコレほどの断面は作れんじゃろう。それが続けて何本も。」

「言われてみれば確かにそうですね…あ、でも最後のこの木は急に断面が荒くなってて…あ!お師匠!こっちの木も切れてはないですが同じような形で傷がついています!」

 そして二人は傷の入った木の表面に顔を近づけた。

「あ!」

 ララは何かを思いついたかのように街道に戻り背伸びしたりしゃがんだりしながら少しずつ場所を変えている。

「お師匠!こっちに来てください!分かりました!」

「ララよ、一体どうしたというのじゃ?」

「お師匠この位置からあの木を見てくてください!」 

「……なんと!すると、何者かがこの場所から魔法を放ってあんな丸太のような木をいっぺんに何本も切り飛ばしたというのか……ララよ、お主も何か木に向かって切断の魔法を放ってみよ」

「切断なんて無理ですよ!ララが切断系の魔法で使えるのは風魔法のエアカッターくらいです。とてもこんな丸太を切ることなんて出来ません!」

 アルフレドはララの返答を聞くと顎に手を当て何やら思案し始めた。

「……それじゃ!木の断面には焼け焦げた跡がなく、信じられん威力じゃが木を数本切断させたところで止まっておる。とすると、コレは火や空間属性の魔法ではないと考えられるから……やはり他に考えられるのは風属性のエアカッターしか無いんじゃ」

「お師匠、どうかしちゃったんですか?エアカッターは風魔法の中でもLv3、こんな威力出るはず無いじゃないですか!」

「……ううむ……そこが確かに分からんのじゃ。もしや、まだワシの知らん魔法が存在するというのか。そんなものがあるのなら神に頼み込んででも見せてもらいたいものじゃ…」

 そしてアルフレドはふと足もとに目をやった。

「むむ、ここだけ妙に土の色が濃い気がするが……コレはもしや血痕ではないか?」

 ララもアルフレドの言葉に促され足もとを見やったが、たしかにここだけ土の色が濃いように思われた。

「他に手がかりになりそうなものは無いかのう…」

 そう言ってアルフレドは再び周辺の調査に戻っていった。

「風魔法Lv3のエアカッターで木を何本も真っ二つにするなんてありえないでしょ!仮にそんなことができるとしたら、それこそ、風の精霊か風神様くらいのものよ…」

 ララは独りごちながら切断された木々とは反対側の街道脇の調査にかかった。

「ん?…これは!おーい!お師匠!こっちに来てください!」

「む?何か見つけたか!」

 駆け寄ってきたアルフレドに、ララは何かの焼かれた跡を指差した。骨が残っているし、あまり気味の良い物ではないから自分では触りたくなかった。

「ふむ、これは……魔物の骨か?」
 
 アルフレドは何も気にすること無く素手でその焼け跡を弄り始めた。

(ちょっと、お師匠!?うわー、無いわぁ……)

「背骨が3本に頭骨が6つ?手足は全部で12本ということは…四足歩行で頭が2つある魔物ということか。この辺りにおるとすれば…ツインウルフか!」

「ツインウルフ!?しかも3匹!?いや、いても別におかしくはないですが、この辺の村人に対処できるわけがありません!」

「普通はそうじゃな。だが、あんな丸太みたいな木を魔法の一撃で何本もバッサリ切ってしまうような魔法の使い手であればどうじゃ?せいぜいノラ犬に襲われたくらいにしか思わんかったんじゃないか?」

 アルフレドとララの頭のなかにはここで繰り広げられた戦闘の一連の流れがイメージされていた。

「木の断面も新しいし、まだそれほど遠くには行っておらんじゃろう。もしかしたらこの先の村で何か情報が手に入るかも知れん!ララよ、そうと分かればこうしてはおれんぞ!ほれ、急がんか!」

「えー……お師匠、もう歩けませんよ~……それに、霊峰ジーフ山の調査に急いで向かってるんじゃなかったんですか?」

「やかましい!霊峰の調査なぞ二の次じゃ!魔法の探求は全てに優先されるといつも言うておるであろうが!ほれ、ついて来んなら置いていくぞ!」

「え~…さっき王命だって言ってたじゃないですかぁ……ってもう走ってるし!待ってくださいよ~!」

 そしてララは泣く泣くアルフレドの背中を追って次の村まで走るのであった。
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