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第1章 幼少期編
第17話 龍族の娘
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シエナと呼ばれた少女はジルさんに抱きあげられ機嫌が良さそうだ。
それにしても、本当にキレイな子だ……髪は淡いブルーで角はまだない。尻尾が無ければどこからどう見ても人族だ。
「パパ、この人たちだあれ?」
「この人たちはお客さんだよ。シエナ、ちゃんと挨拶しなさい」
「はーい!」
そして少女は俺たち3人の前に駆けてくると満面の笑みで挨拶をした。
「こんにちは!シエナスティアです!シエナって呼んでください!」
「僕はシリウス、よろしくね!」
普通に近所の子供に挨拶するくらいの感じで返したんだけどまたアルフレドさんを驚かせてしまったようだ。
「こ、これ……ワシはアルフレドと申します、こちらが従者のララですじゃ」
「は、はじめまして!ララです」
そう言って二人は恭しく頭を下げた。
「ったく……人の子というのはいつになっても堅苦しいな」
ジルさんもさすがに少し呆れている。
「おいシリウス、俺はそこの二人から人の領域の情報を聞きたい。悪いがシエナと遊んでてやってくれるか?」
「いいですよ?じゃぁシエナちゃん遊ぼっか!」
フッフッフ……何を隠そうこの俺こと近藤涼介、前世では「子供に好かれる男」で通っていたのだ!腕を磨くために保育園ボランティアをやったこともある。社内のBBQなんかでは子どもたちのヒーローとして絶大な人気を誇っていたのだ!
「シエナ、シリウスにあまりわがままを言ってはいけませんよ?」
「はーい!」
そして大人たちは連れ立って小屋の中に入っていった。
「シエナちゃん、何して遊ぼっか?」
「うーん……鬼ごっこ!」
「 オッケー!じゃぁ僕が10秒数えるからその間に逃げてね!いーち、にー、さーん…」
先に言っておくと、俺はこの時完全に相手が龍族だということを忘れていた。そしてそれが致命的だった……
10秒数え終わってぐるりと周りを見渡すと、シエナは10メートルくらい先でこちらを見ていた。
じゃぁいっちょ遊んでやるか!
「行くよー!」
俺は小走りにシエナに向かって走り出した。そして二人の距離があと1メートルもなくなったところで
「キャハハハ!」
一瞬で加速したシエナがあっという間にまた10メートル先に走り去っていた。
「……え?」
足速すぎじゃね?これは俺もちょっと本気を出さないとまずいかもしれないな……
そんなわけで、結構な全力ダッシュでシエナを追いかけた。
「アハハ!キャハハ!」
シエナの様子は無邪気に遊び回る日本の保育園児と全く同じなのだが……スピードが桁違いだ。こっちはガチで走っているというのに、向こうは所詮鬼ごっこといったところ……
そんな追いかけっこを30分ほど続けて、俺は結局シエナに一度もタッチできなかった……
「はぁっはぁっ……シエナちゃん足速いね!」
「エヘヘ!パパとママにも褒められるんだよ!」
俺はそのスキに自分に癒やしの光を当ててスタミナを回復させた。とりあえず、これでまだしばらくは走れる。
【スキル『日進月歩』の効果により素早さが80から90に上がりました】
【スキル『日進月歩』の効果によりスタミナが160から170に上がりました】
おぉ!ここでこの2つのステータスアップはありがたい。っていうかこの鬼ごっこ、俺にとってめちゃくちゃいい修行になってるんじゃないか?
というわけで、再び追いかけっこを再開したわけだけど、全然ダメ!シエナ足早すぎるだろ!一体どんな素早さしてるんだ、まったく……ということで鑑定してみた。
今度は阻害されなかったけど、驚いてアゴが外れるかと思った。
【ステータス】
名称:シエナスティア
種族:龍族
身分:--
Lv:6
HP:385
MP:329
状態:正常
物理攻撃力:128
物理防御力:159
魔法攻撃力:320
魔法防御力:361
得意属性:龍光・龍風・龍炎
苦手属性:--
素早さ:231
スタミナ:376
知性:280
精神:219
運 :156
保有スキル:
(龍種)覇者
(一般)鑑定(一般)狩人
保有魔法:
龍光魔法:再生、状態異常回復
龍風魔法:暴風、圧縮空気砲
龍火魔法:業炎
………は??
思わずステータスを2度見する……
………なんだこれ!?チート?
想像の斜め上、ってか真上ね。まぁまずは当初の目的だった素早さ……倍以上違うんですけど?こんなん追いつけるか!
他にも一個一個見ていくとツッコミどころしかないのでやめとこう……
とりあえず、龍族の魔法は俺達の使う魔法の上位互換っぽいな、ってことぐらいはチェックしておいた。
俺が上回ってるの知性と精神と運……うん、ビミョー……
「ね、ねぇシエナちゃん、他にはどんな遊びが好き?」
「うーんとね……かくれんぼ!シエナ、見つけるの得意!パパとやるといつもシエナが見つけるよ!」
こんな何もないところでかくれんぼ!?ジルさんもよくやるな……まぁ一回くらいならいっか。
「よ、よし!じゃぁ僕が隠れるから30まで数えたら探してね!」
「うん!」
シエナは目をつぶって耳を塞ぎ、その場で数を数え始めた。俺は一応足音を出さないように気をつけながら近くの茂みに隠れた。
「………さーんじゅう!行くよー!」
シエナはぐるりと360度周りを見渡すと、一直線にこっちに向かって歩いてきた。
「みーつけた!シリウス、ダメだよ!ちゃんと気配を消さないと!」
「け、気配!?」
ふくれっ面のシエナ。いや、そんなに怒られても普通気配の消し方なんか知らないよね?
でもきっとシエナのスキル『狩人』の効果ですぐ分かっちゃうんだろうな。
「むぅーっ!シエナが教えてあげる!」
…………
………
……
…
そんなわけで俺はシエナのかくれんぼ講座に付き合わされたわけだけど、その甲斐あってスキル『隠密』まで覚えてしまった。シエナと同じ『狩人』じゃない理由はよくわからない。
その後スキルを習得しかくれんぼレベルの上がったた俺にすっかり気分を良くしたシエナと延々かくれんぼを続ける事になったのであった……
◇◆◇◆◇
アルフレドとララは小屋の中に通されるとアルマに促されるままにソファに腰を下ろした。
「人の作る『家具』というのは実に便利よなぁ。龍族も皆愛用している」
小屋の中のテーブルやソファはそれなりにこだわりの感じられるオシャレなものが多く、ジルやアルマのセンスを感じ取ることが出来た。
アルフレドはジルとアルマに現在の人の世界の様子を語って聞かせた。
「……なるほどなぁ。人間ってのは弱いくせにいつになっても争う生きもんだよなぁ」
「まったくですじゃ……」
「あらあら、でもジルはそんな人の世が好きだったじゃない?」
「アルマ……いったいいつの話をしてるんだ?」
「ウフフ、私達からしたらほんのすこし前のことですよ」
「なんと!ジル様は人の世界に入ったことがお有りなのですか?」
「ん?あぁ……かれこれ300年は前の話だがなぁ」
ジルはそう言うと昔を懐かしむような遠い目で窓の外を見つめた。
「なんのきっかけだったかは忘れたが仲の良くなった人の子がいてな、そいつとしばらく色んな所を旅して回ったのさ」
「ウフフ……なんと言いましたっけ?その人の子は確か……」
「カノープスだったかな?」
「ウフフ……だったかな、ですって。今でも時々思い出すくせに。貴方が急に何十年も全然うちに帰ってこずに外をぶらつくものだから、私だって少しはジルの浮気を心配したのよ?」
「おいおい、短命な人の子の名前なんかとうに忘れちまったさ。それに何十年って……ほんの30年くらいのもんだろう?しかも時々ちゃんと顔は出しに帰ってたじゃないか」
「ウフフ……そうね」
「カ、カノープス……そうおっしゃいましたか?しかも300年前といえば救世の英雄「カノープス・ハズーリウス様」ではありませぬか?」
「……あぁ、そんな名だったなぁ」
「こ、これはたまげましたわい……ララよ、お主もカノープス様の伝説は知っておろう?」
「も、もちろんです!学校で一番最初に習う教科書に載っていますもの!」
アルフレドとララは目の前に座る龍族が、王国の始祖にして世界を救った英雄の友人だったという衝撃の事実に平静を保つことなどできなかった。
「まぁ、あいつが人の世でなんと謳われてようが俺には関係ない。ほんの何十年の間に勝手に老け込んで、勝手に死んだんだ」
ジルはそれ以上、カノープスのことを語らなかったが、その表情は誰が見ても昔の友人を懐かしむものであった。
「ところで、だ。シリウス、あいつは何もんだ?」
「あの子は、ここから少し離れた村で暮らしておった普通の少年でございます」
「ん?……たしかにまだ童ではあるが、アレは人の中では群を抜いた戦士であろうが?」
「戦士…ですか?いえ、彼は本当に自分の村で商いをやっておるただの庶民ですじゃ」
ジルは何かを考え込むかのようにしばらく黙り込んだ。その間にアルマが話に割って入る。
「ジルはあの子のスキルを知っているのです。二人とも、あの子のスキルのことは?」
「え、ええ。幾つか聞いたこともないようなものがあることは。ワシらはそれを神の祝福だと思うております」
「神の祝福……そうね。あながち間違っていないのかもしれないわ。彼のもつスキル『日就月将』、あぁもしかしたらあなた達とは見え方が少し違うのかもしれないけど、私達には彼のスキルがそう見えているわ……あのスキルの効果は『飛躍的成長』なの」
「普通の人の子が百回やって覚えることを、あのスキルを持つ者は一度でモノにする、そんなスキルだ」
ジルが再び口を開いた。
「ウフフ、そう…ジルの旧友カノープスも同じスキルを持っていたわ」
「な、なんですと!?」
「まぁ、そういうことだ。ここまでの道中、シリウスの力に驚かされたのは一度や二度じゃないんだろう?……それに恐怖無効なんてのも初めてだ。一切の恐怖心を感じんなんてその時点で脆弱な人の子としてはぶっ飛んでおるだろう」
「……まったくですじゃ」
その時、外が一面真っ白に光った。
「ん??」
「シリウスくんがフラッシュの魔法を使ったのでしょう……攻撃性はない魔法です。お嬢様にも害はないでしょう」
「まぁ攻撃性があったとしても、シエナも龍族だ。そう簡単にどうこうなるとは思っておらんさ」
そして今度は、光とともに家が震えるほどの爆音が外から鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
さすがのジルもこれには驚き、慌てて外に飛び出した。
◇◆◇◆◇
俺はその後もシエナとのかくれんぼや鬼ごっこによって凄まじいペースでステータスが上がっていった。まだ流石に普通に追いかけっこをしても速さではかなわないけど、俺だって知恵を使うんだ。
今は鬼ごっこの真っ最中。俺は上手くシエナを柵の間に誘導し、追いつめることに成功していた。だが、ここで普通に突進しても、まだ速さで躱されてしまう。そこで俺は反則じみた一手を打つことにした。
ピカッ
俺のフラッシュに一瞬目を奪われ、動きを止めたシエナ。俺はそのスキにシエナに接近し、ついにシエナを捕まえた。
「はい、タッチ!」
きっとシエナもずっと捕まえられないような鬼ごっこは刺激がなさすぎてつまらないだろう、と思ってのことだったのだが………
「シリウス!すごいすごい!」
捕まったことよりもフラッシュの方に心を奪われたようだ。
「シリウス!今のどうやるの?シエナにも教えて?」
「うーんと、できるかな?今のはフラッシュと言ってね……急にお日様を見たら眩しいって思うよね?あんな感じの眩しい光を作り出すんだ!」
そして俺はフラッシュのイメージをシエナに教えたのだが……
「うんやってみる!」
といってシエナが作り出したのが高濃度魔力照明弾だったわけだ。キレイに手入れされていた庭の木が数本吹き飛んでいる。
「なんだなんだ!?」
ジルさんが慌てて飛び出してきた。
「パ、パパ……ごめんなさい……シエナが魔法失敗したの……」
「えっと、ジルさん……僕が余計なことしたのが原因です。すいません!」
そして俺とシエナは揃ってジルさんに頭を下げた。
それにしても、本当にキレイな子だ……髪は淡いブルーで角はまだない。尻尾が無ければどこからどう見ても人族だ。
「パパ、この人たちだあれ?」
「この人たちはお客さんだよ。シエナ、ちゃんと挨拶しなさい」
「はーい!」
そして少女は俺たち3人の前に駆けてくると満面の笑みで挨拶をした。
「こんにちは!シエナスティアです!シエナって呼んでください!」
「僕はシリウス、よろしくね!」
普通に近所の子供に挨拶するくらいの感じで返したんだけどまたアルフレドさんを驚かせてしまったようだ。
「こ、これ……ワシはアルフレドと申します、こちらが従者のララですじゃ」
「は、はじめまして!ララです」
そう言って二人は恭しく頭を下げた。
「ったく……人の子というのはいつになっても堅苦しいな」
ジルさんもさすがに少し呆れている。
「おいシリウス、俺はそこの二人から人の領域の情報を聞きたい。悪いがシエナと遊んでてやってくれるか?」
「いいですよ?じゃぁシエナちゃん遊ぼっか!」
フッフッフ……何を隠そうこの俺こと近藤涼介、前世では「子供に好かれる男」で通っていたのだ!腕を磨くために保育園ボランティアをやったこともある。社内のBBQなんかでは子どもたちのヒーローとして絶大な人気を誇っていたのだ!
「シエナ、シリウスにあまりわがままを言ってはいけませんよ?」
「はーい!」
そして大人たちは連れ立って小屋の中に入っていった。
「シエナちゃん、何して遊ぼっか?」
「うーん……鬼ごっこ!」
「 オッケー!じゃぁ僕が10秒数えるからその間に逃げてね!いーち、にー、さーん…」
先に言っておくと、俺はこの時完全に相手が龍族だということを忘れていた。そしてそれが致命的だった……
10秒数え終わってぐるりと周りを見渡すと、シエナは10メートルくらい先でこちらを見ていた。
じゃぁいっちょ遊んでやるか!
「行くよー!」
俺は小走りにシエナに向かって走り出した。そして二人の距離があと1メートルもなくなったところで
「キャハハハ!」
一瞬で加速したシエナがあっという間にまた10メートル先に走り去っていた。
「……え?」
足速すぎじゃね?これは俺もちょっと本気を出さないとまずいかもしれないな……
そんなわけで、結構な全力ダッシュでシエナを追いかけた。
「アハハ!キャハハ!」
シエナの様子は無邪気に遊び回る日本の保育園児と全く同じなのだが……スピードが桁違いだ。こっちはガチで走っているというのに、向こうは所詮鬼ごっこといったところ……
そんな追いかけっこを30分ほど続けて、俺は結局シエナに一度もタッチできなかった……
「はぁっはぁっ……シエナちゃん足速いね!」
「エヘヘ!パパとママにも褒められるんだよ!」
俺はそのスキに自分に癒やしの光を当ててスタミナを回復させた。とりあえず、これでまだしばらくは走れる。
【スキル『日進月歩』の効果により素早さが80から90に上がりました】
【スキル『日進月歩』の効果によりスタミナが160から170に上がりました】
おぉ!ここでこの2つのステータスアップはありがたい。っていうかこの鬼ごっこ、俺にとってめちゃくちゃいい修行になってるんじゃないか?
というわけで、再び追いかけっこを再開したわけだけど、全然ダメ!シエナ足早すぎるだろ!一体どんな素早さしてるんだ、まったく……ということで鑑定してみた。
今度は阻害されなかったけど、驚いてアゴが外れるかと思った。
【ステータス】
名称:シエナスティア
種族:龍族
身分:--
Lv:6
HP:385
MP:329
状態:正常
物理攻撃力:128
物理防御力:159
魔法攻撃力:320
魔法防御力:361
得意属性:龍光・龍風・龍炎
苦手属性:--
素早さ:231
スタミナ:376
知性:280
精神:219
運 :156
保有スキル:
(龍種)覇者
(一般)鑑定(一般)狩人
保有魔法:
龍光魔法:再生、状態異常回復
龍風魔法:暴風、圧縮空気砲
龍火魔法:業炎
………は??
思わずステータスを2度見する……
………なんだこれ!?チート?
想像の斜め上、ってか真上ね。まぁまずは当初の目的だった素早さ……倍以上違うんですけど?こんなん追いつけるか!
他にも一個一個見ていくとツッコミどころしかないのでやめとこう……
とりあえず、龍族の魔法は俺達の使う魔法の上位互換っぽいな、ってことぐらいはチェックしておいた。
俺が上回ってるの知性と精神と運……うん、ビミョー……
「ね、ねぇシエナちゃん、他にはどんな遊びが好き?」
「うーんとね……かくれんぼ!シエナ、見つけるの得意!パパとやるといつもシエナが見つけるよ!」
こんな何もないところでかくれんぼ!?ジルさんもよくやるな……まぁ一回くらいならいっか。
「よ、よし!じゃぁ僕が隠れるから30まで数えたら探してね!」
「うん!」
シエナは目をつぶって耳を塞ぎ、その場で数を数え始めた。俺は一応足音を出さないように気をつけながら近くの茂みに隠れた。
「………さーんじゅう!行くよー!」
シエナはぐるりと360度周りを見渡すと、一直線にこっちに向かって歩いてきた。
「みーつけた!シリウス、ダメだよ!ちゃんと気配を消さないと!」
「け、気配!?」
ふくれっ面のシエナ。いや、そんなに怒られても普通気配の消し方なんか知らないよね?
でもきっとシエナのスキル『狩人』の効果ですぐ分かっちゃうんだろうな。
「むぅーっ!シエナが教えてあげる!」
…………
………
……
…
そんなわけで俺はシエナのかくれんぼ講座に付き合わされたわけだけど、その甲斐あってスキル『隠密』まで覚えてしまった。シエナと同じ『狩人』じゃない理由はよくわからない。
その後スキルを習得しかくれんぼレベルの上がったた俺にすっかり気分を良くしたシエナと延々かくれんぼを続ける事になったのであった……
◇◆◇◆◇
アルフレドとララは小屋の中に通されるとアルマに促されるままにソファに腰を下ろした。
「人の作る『家具』というのは実に便利よなぁ。龍族も皆愛用している」
小屋の中のテーブルやソファはそれなりにこだわりの感じられるオシャレなものが多く、ジルやアルマのセンスを感じ取ることが出来た。
アルフレドはジルとアルマに現在の人の世界の様子を語って聞かせた。
「……なるほどなぁ。人間ってのは弱いくせにいつになっても争う生きもんだよなぁ」
「まったくですじゃ……」
「あらあら、でもジルはそんな人の世が好きだったじゃない?」
「アルマ……いったいいつの話をしてるんだ?」
「ウフフ、私達からしたらほんのすこし前のことですよ」
「なんと!ジル様は人の世界に入ったことがお有りなのですか?」
「ん?あぁ……かれこれ300年は前の話だがなぁ」
ジルはそう言うと昔を懐かしむような遠い目で窓の外を見つめた。
「なんのきっかけだったかは忘れたが仲の良くなった人の子がいてな、そいつとしばらく色んな所を旅して回ったのさ」
「ウフフ……なんと言いましたっけ?その人の子は確か……」
「カノープスだったかな?」
「ウフフ……だったかな、ですって。今でも時々思い出すくせに。貴方が急に何十年も全然うちに帰ってこずに外をぶらつくものだから、私だって少しはジルの浮気を心配したのよ?」
「おいおい、短命な人の子の名前なんかとうに忘れちまったさ。それに何十年って……ほんの30年くらいのもんだろう?しかも時々ちゃんと顔は出しに帰ってたじゃないか」
「ウフフ……そうね」
「カ、カノープス……そうおっしゃいましたか?しかも300年前といえば救世の英雄「カノープス・ハズーリウス様」ではありませぬか?」
「……あぁ、そんな名だったなぁ」
「こ、これはたまげましたわい……ララよ、お主もカノープス様の伝説は知っておろう?」
「も、もちろんです!学校で一番最初に習う教科書に載っていますもの!」
アルフレドとララは目の前に座る龍族が、王国の始祖にして世界を救った英雄の友人だったという衝撃の事実に平静を保つことなどできなかった。
「まぁ、あいつが人の世でなんと謳われてようが俺には関係ない。ほんの何十年の間に勝手に老け込んで、勝手に死んだんだ」
ジルはそれ以上、カノープスのことを語らなかったが、その表情は誰が見ても昔の友人を懐かしむものであった。
「ところで、だ。シリウス、あいつは何もんだ?」
「あの子は、ここから少し離れた村で暮らしておった普通の少年でございます」
「ん?……たしかにまだ童ではあるが、アレは人の中では群を抜いた戦士であろうが?」
「戦士…ですか?いえ、彼は本当に自分の村で商いをやっておるただの庶民ですじゃ」
ジルは何かを考え込むかのようにしばらく黙り込んだ。その間にアルマが話に割って入る。
「ジルはあの子のスキルを知っているのです。二人とも、あの子のスキルのことは?」
「え、ええ。幾つか聞いたこともないようなものがあることは。ワシらはそれを神の祝福だと思うております」
「神の祝福……そうね。あながち間違っていないのかもしれないわ。彼のもつスキル『日就月将』、あぁもしかしたらあなた達とは見え方が少し違うのかもしれないけど、私達には彼のスキルがそう見えているわ……あのスキルの効果は『飛躍的成長』なの」
「普通の人の子が百回やって覚えることを、あのスキルを持つ者は一度でモノにする、そんなスキルだ」
ジルが再び口を開いた。
「ウフフ、そう…ジルの旧友カノープスも同じスキルを持っていたわ」
「な、なんですと!?」
「まぁ、そういうことだ。ここまでの道中、シリウスの力に驚かされたのは一度や二度じゃないんだろう?……それに恐怖無効なんてのも初めてだ。一切の恐怖心を感じんなんてその時点で脆弱な人の子としてはぶっ飛んでおるだろう」
「……まったくですじゃ」
その時、外が一面真っ白に光った。
「ん??」
「シリウスくんがフラッシュの魔法を使ったのでしょう……攻撃性はない魔法です。お嬢様にも害はないでしょう」
「まぁ攻撃性があったとしても、シエナも龍族だ。そう簡単にどうこうなるとは思っておらんさ」
そして今度は、光とともに家が震えるほどの爆音が外から鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
さすがのジルもこれには驚き、慌てて外に飛び出した。
◇◆◇◆◇
俺はその後もシエナとのかくれんぼや鬼ごっこによって凄まじいペースでステータスが上がっていった。まだ流石に普通に追いかけっこをしても速さではかなわないけど、俺だって知恵を使うんだ。
今は鬼ごっこの真っ最中。俺は上手くシエナを柵の間に誘導し、追いつめることに成功していた。だが、ここで普通に突進しても、まだ速さで躱されてしまう。そこで俺は反則じみた一手を打つことにした。
ピカッ
俺のフラッシュに一瞬目を奪われ、動きを止めたシエナ。俺はそのスキにシエナに接近し、ついにシエナを捕まえた。
「はい、タッチ!」
きっとシエナもずっと捕まえられないような鬼ごっこは刺激がなさすぎてつまらないだろう、と思ってのことだったのだが………
「シリウス!すごいすごい!」
捕まったことよりもフラッシュの方に心を奪われたようだ。
「シリウス!今のどうやるの?シエナにも教えて?」
「うーんと、できるかな?今のはフラッシュと言ってね……急にお日様を見たら眩しいって思うよね?あんな感じの眩しい光を作り出すんだ!」
そして俺はフラッシュのイメージをシエナに教えたのだが……
「うんやってみる!」
といってシエナが作り出したのが高濃度魔力照明弾だったわけだ。キレイに手入れされていた庭の木が数本吹き飛んでいる。
「なんだなんだ!?」
ジルさんが慌てて飛び出してきた。
「パ、パパ……ごめんなさい……シエナが魔法失敗したの……」
「えっと、ジルさん……僕が余計なことしたのが原因です。すいません!」
そして俺とシエナは揃ってジルさんに頭を下げた。
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