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第2章 ハズール内乱編

第38話 家族

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 その後、1週間ほど掛けて周辺から木材や石材を王都に集め兵士たちを中心に街の復興が進んだ。俺は日本にいたときにニュースなんかで見た地域復興の情報を参考に、カストル国王やアルフレドさんとともにその陣頭指揮を取った。

 まずは大公邸の庭園を開放し、一面に無数のテントを張って仮設住宅とし、家を失った人たちの一時的な収容場所として開放した。大公邸そのものは、最初に捜索に入った時、明らかに事故現場みたいな気味の悪い地下室や薄暗い地下通路、隠し部屋の数々を見つけてしまいまだまだ確認が必要だったし、一般の皆さんにはさすがに刺激が強すぎるということで厳重に封鎖することになった。

 エストレーラの輸送力と兵士たちの頑張りで、もう資材は十分に集まったから、今度は炊き出し用の食料を集めに近隣の村々を回ることになった。王都の備蓄はかなりたくさんあったけど、被害の状況と難民の数を考えるとそう長くは持たないだろう
 
 そして今日はセルジオたちが王都を離れる日でもあった。俺とシエナがエストレーラに幌馬車の荷台の部分を連結して、食料調達の準備を進めていたところにセルジオとその家族が連れ立ってやってきた。

「シリウスさん……息子を救ってくださってありがとうございました」
「本当になんとお礼を言って良いのやら……」

 ヘラルドさんとセルジオが俺に頭を下げた。後ろに控える奥さんと息子もそれに続いて頭を下げる。
 ちなみになぜセルジオだけ「さん」付けじゃないのかと問われても特に理由はない……なんかそっちのほうがしっくり来たからだ。

「いえいえ、お気になさらず!それより、行くアテはあるんですか?」

 俺はずっと気になっていたことをセルジオに訊ねた。

「いえ……ですがまぁできるだけ遠くに行ってまた一からやり直したいと思っています」

 俺の予想通り、今のところ行くアテもなさそうだ。このままではまた家族は露頭に迷ってしまうかもしれない……

「あの、もし良ければ俺の村……あぁヘラルドさんの住んでた村の隣なんですが……そこで働きませんか?」

 何よりセルジオは荷物の運搬にかけては優秀な人材だ。一応、ウチの求人規定には村に長く住んでいる人ってのが条件に入ってるけど、特例ってことで押し通しても問題ないだろう。

「え!?……ですが……私たちには旅費も住むところも何もありませんし……」

「ワシも前の家は引き払ってしまいましたからなぁ……」

 セルジオは一瞬嬉しそうな顔を見せたが、すぐに現実を考えて声のトーンが下がってしまった。

「今なら旅費はかかりませんよ?俺たちもこれから向かうので、ご一緒にってことで!」

「は、はぁ……」

 セルジオはまだ何かをためらっている。

「うちの実家がちょっとした商いをやっているのですが、近隣の村に物資を届ける配達員がちょうど足りてなくて、それをお願いしようと思ったのですよ……荷運びなら慣れたもんでしょ?それから住む所については親父に言って空き家を一件押さえさせますよ。家代は毎月可能な範囲で返済してくれればいいです」

「しかし……それじゃぁあまりにも無理を言い過ぎてはいませんかね?」

 セルジオは困惑気味に答えた。

「まぁまぁ、その分働いてもらうんで先行投資ってことで!」

「そんな……本当によろしいんですか……?」

 セルジオはまだ信じられないという様子で俺の反応を伺っている。
 
「えぇ、問題ありません。皆さんさえそれで良ければ、ですが!」

 俺はそう言ってセルジオに右手を差し出した。セルジオはしばらく考え込んだがやがて意を決して俺の手を取った。

「あ、ありがとうございます!よろしくおねがいします!」
 
 セルジオは目に涙を浮かべ、俺と握手を交わした。奥さんと息子、それからヘラルドさんも先行きの見えない不安があったのだろう、表情が目に見えて明るくなった。

「よし、そうと決まれば皆さん後ろの荷台に乗ってください。今から俺の村に向かいますんで」 

 俺とシエナはエストレーラに乗り込み、4人は馬車の荷台に続々と乗り込んだ。

「安全運転で行きますけど、何があるかわからないのでしっかりつかまっててくださいね!」

 窓を開け、後ろに声をかけるとそのまま俺はアクセルを踏み込んで速度を上げた。後ろから悲鳴のような声が聞こえたけど……荷物が落ちないように荷台全体にエアバリアを張っているし、転落することはないだろう。


 そして王都を出て間もなく……雑木林(だった場所)で見知った人たちと再開した。
 どこで着替えてきたのか今はちゃんと兵士の格好をしている。俺は向かってくる彼らの手前でエストレーラを停めた。

「こんにちは、ヘリックスさん!」

「……あ!…お前はこの前の!」
 
 ヘリックスとその部下たちが驚いた顔でこちらを見ていた。

「今お戻りですか?王都はそれはもう大変だったんですよ~」

「おぉ!そうだ!王都は今どうなっている!?」

 焦るヘリックスに俺はかいつまんで王都での出来事を話して聞かせた。

「……なんということだ。300年続いた王都でこんなことは初めてだぞ……」

 ヘリックスさんは、俺の話した王都の惨状とオスカー大公爵の暴挙に、驚愕と怒りを露わにしている。
 そして、タイミング悪く兵士の一人が荷台のセルジオとヘラルドさんに気がついた。

「た、隊長!後ろの荷台にセルジオがいます!」

「なんだと!?おい、奴は反乱の共謀者ではないのか!?」

「それについては戻ってカストル国王に聞いてください。セルジオとその家族は王都を追放処分になって、俺が今遠くに運んでる事もちゃんと分かってますので、では!」

 停まったは良いもののこのままだと質問攻めに遭いそうだったので、早々に話をぶった切って俺たちは再び先を目指した。後ろのセルジオたちもまた話を蒸し返されてしょんぼりしている。まぁ、やったことは悪いことだから反省は必要だけど!

…………
………
……


 それから道中、一泊だけ野営して二日目の夕方には村に帰ってきた。

 俺が店の前にエストレーラを停めると、中からガラクが目を丸くして飛び出してきた。

「お、おいシリウス!お前一体どうしたんだ?」

「やぁ父さん、ちょっと王都で厄介事に巻き込まれてね。後ろの家族を保護してきたから、この店の従業員としてあの人を雇ってもらいたいんだ」
 
 そう言って俺は、荷台に座り車酔いで真っ青な顔をしているセルジオを指差した。

「お、おう……まぁお前が良いっていうんなら大丈夫なんだろうけど、大丈夫なのか?だいぶ顔色悪いが……」

「あぁ、アレは車酔いって言ってね。王都から2日くらいでここまで来ちゃったから荷台もだいぶ揺れたみたい」

 俺は肩をすくめてみせた。父は王都から2日できたという事実に愕然としていた。

「そう言えばあの爺さんは……確か前に操舵輪を持ってきた……」

「そ、俺の恩人!ってわけでこの人たち住む所もないから早急に空き家一件手配してくれる?」

「……ったく、親をなんだと思ってんだか……」

 ボソリとつぶやいてガラクは店の奥に移動した。

「セルジオさん、あんたには明日からここで荷物運びの仕事をやってもらいます。マニュアルはこれですので、今日中にしっかり読んでおいてください」

 そう言ってアルバイト用に作った冊子を1つ渡した。

「は、はい……」

 フラフラとした足取りで荷台からおりてきたセルジオは早速冊子に目を通し始めている。やはり、根はすごく真面目でいい人なんだろうね。

 しばらくして、父が紙を数枚持って戻ってきた。

「よう!挨拶が遅れちまったが、俺が社長兼店長のガラクだ。シリウスの父親な、一応。明日からよろしく頼む!そんで、これがこの村で空き家になってる家のリストなんだが、どれが良い?」

「しゃ、しゃちょうと言うのはいったい……?」

「ん?知らん!シリウスがそう名乗っとけって言ったからそう名乗ってんだ!」

 いや……昔俺ちゃんと「会社」について話したからね?

 セルジオはしばらく奥さんと紙面を睨んでいたが、やがて一件に絞れたようだ。

「では……こちらでお願いします」

 セルジオが手渡したのは、5件あるうちの価格で言うとちょうど真ん中。他の物件と比べて特徴的なところと言えば……リビングがかなり広めに作られているところか。きっと家族団らんの時間を大事にしたいと思って決めたのだろう。

「よし、じゃぁ今から話つけて来るから荷物まとめてついてきな!」

 ロドリゲス一家は、手荷物を抱えてガラクのあとに続いた。

「本当に……何から何まですいません……」

 最後に残ったヘラルドさんが俺にペコリと頭を下げた。

「ほんとに、気にしないでください!ウチとしても助かりましたので。本当はヘラルドさんの手放した実家のほうが良かったんでしょうけど……」

「いやいや……ここまでしてもらってそんなこと言ったらバチが当たりますよ。それにセルジオも隣の村だと仕事がやりにくいでしょうし」

「そう言ってもらえると助かります」

「それに、実家では無いにせよこれだけ近いんです。婆さんの墓参りくらいならいつでも行ける距離ですし……本当に感謝しています」

「そうですね!俺もたまには里帰りするので、またお会いしましょう!どうかご家族と幸せにお過ごしください!」

 ヘラルドさんはもう一度お辞儀をすると、振り返ってセルジオたちを追いかけていった。 


「シリウス~、家族って良いね!」

 セルジオたちの遠くなる背中を見つめながら、シエナが呟き、俺の腕に抱きつくように絡まってきた。

「なっ!?シ、シエナ!?」

「えへへ~、いいじゃん」

 ……なんで、あんなにパワーあるのにこんなに柔らかいんだろう?筋肉どこ行った?……じゃなくてその柔らかいのが色々当たってるんですけど!

 内心では激しく動揺しまくってた俺だけど、確かにシエナと同じくなんだかほっこりした気持ちになって家族って良いよなぁと思ったし、いつもみたいにシエナを押しのけようとはなぜか思わなかった。

 そして俺とシエナは、真赤な夕焼けに照らされながら横一列にならんで遠のく4人の背中を見送った。
 
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