召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第70話 『神教』の信徒が来るらしい

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 いつもの司令室でその話を聞いて、わたしは一瞬驚きで目を見開いた。そして次の瞬間、わたしの両隣から立ち昇る怒気に、これはまずいんじゃないかなー、と他人事のように考える。まあそれは現実逃避だったわけだが。

 とりあえずわたしはもう1回その話を、『通話水晶』の映像のガウルグルクに聞き直すことにした。

「あー、すまない。もう1度言ってくれるかな、ガウルグルク」

『はっ。アーカル大陸の諸国家の1つであった『ベイルク王国』に『リューム・ナアド神聖国』より布教のため派遣されておりました、高位の神官アーロン・アボット司教が、魔王様にお目通り願いたいと申しております。いかがいたしましょうか』

 今話に出た『ベイルク王国』は、先代魔王の時代に領土を半分奪われ、此度のアーカル大陸戦役においても真っ先に攻め落とされた国だ。ただしその王族や一部の貴族は『ヴァルタール帝国』へと亡命し、今はその皇帝と共にコンザウ大陸へと逃げ込んでいるはずだ。

 それはともかく、アーカル大陸の諸国家はコンザウ大陸の国家群に対し敵愾心と言うか、ライバル心の様な物があったらしく、コンザウ大陸において唯一にして最大の宗教である『神教』の布教も、色々な立場上拒絶とまではいかないが冷遇していたらしい。その『神教』だが……。はっきり言おう、『リューム・ナアド神聖国』が総本山である。

 しかし、実も蓋もないネーミングだと思う。まあ、世界に名前を付けず単に『世界』と呼び、大中小3つの月に『大の月』『中の月』『小の月』と、そのまんまな名前を付けるこの世界だ。そんなのもありだろう。

 まあ、冷遇されると燃え上がるのが宗教なのかも知れない。他国ではあまり上手く行かなかった布教だが、『ベイルク王国』においてはある程度の成果を上げた様だ。土着の多神教が多数を占めるアーカル大陸にて、『ベイルク王国』に限った話ではあるが、一定の勢力を築いている。

 ……さて、そろそろ現実逃避をやめようか。両隣から立ち昇る怒気の源は、わたしの親衛隊長アオイと、親衛隊副長ミズホである。『リューム・ナアド神聖国』に捨て駒扱いされて暗殺されかけた経緯は、わたしもよく知っていた。怒るのも当然だ。だがとりあえずは、落ち着いて話をさせてくれ。

「ガウルグルク、その人物は捕虜なのかい?」

『はっ。当初はそうでありました。従軍神官として参戦しておりもうしたが、『ベイルク王国』国軍が殲滅された後に、『無駄な人死には神の欲するところではない』と配下を説き伏せて降伏しましてな。
 その後、捕虜として神妙な姿勢を崩さず、模範的な態度を取り続けたものでして。布教や集会を行わないことを条件に釈放いたしもうした』

「まあ、その条件は当然だろうねえ」

 この『神教』は教義上、魔物を神の敵として位置づけている。魔王軍、『JOKER剣魔国』としては布教も集会も許すわけにはいかんだろう。

『ですがこの者、ただでは転びませぬ様でして……。『JOKER剣魔国』に住まう民の1人として、住民たちの待遇改善を訴えるべく、魔王様にお会いしたいという建前で……。3,000名以上の署名を集めて参りましてのう。
 まず間違いなく署名をしたのは信者でありましょうが……。集会もしておらねば布教もしておらぬのは確認済みでしてな』

「わたしが定めた法には、違反していないどころか合致している……か。魔王として強権を振るって断ってもいいけど……。なんせ、教義が我々と相いれない宗教の司教だからねえ。だけど、正攻法でやって来た相手を切り捨てる前例は、あまり作りたくないのも本当のところだし……」

「魔王様、いいかな?」

 アオイが口を挟んだ。わたしは彼女が反対意見を言う物と思っていた。だが彼女の言葉は、予想を裏切る物であった。

「会うべきだと思う」

「え!アオイさん!?」

 ミズホもまた、アオイが反対意見を言うと思い込んでいた様だ。だがアオイは首を左右に振る。

「魔王様は下手な例外を作りたくない。だったら従うべきよ。『リューム・ナアド神聖国』の聖職者だってだけで殺したくなるのは、わたしたちなら当然。
 でも最大限優先されるべきは、魔王様の気持ち。わたしたちは既に最大の見返りを約束されてるんだから。『リューム・ナアド神聖国』への復讐と言う見返りを……」

「……そうですね。その通りでした。ごめんなさい、魔王様! あたしは自分の好き嫌いで反対意見を言うつもりでした!」

「あー、いや気持ちは重々分かってるから、謝らなくてもいいよ。アオイ、ありがとう。今回はわたしの気持ちを優先させてもらうよ。まあ、何か1つでも問題行動があれば、無礼討ちにでもしちゃうさ。
 ガウルグルク!」

 わたしは『通話水晶』の映像に向き直る。ガウルグルクは背筋を伸ばした。

『はっ!』

「次の定期便で、ゼロとオルトラムゥがバルゾラ大陸へ帰還予定だったね。その船便に、そのアーロン司教を押し込んでくれ。まあ、流石に『ゲート』の魔法陣を使わせるわけにはいかんからねえ。
 でも、オルトラムゥはサイズの問題で『ゲート』が使えないのはわかるが、ゼロは『ゲート』使って先に戻って来てもかまわんのだけど、何故かな?」

『はっ。あ奴は魔像将と言う立場上、配下と共に行動すべきだ、と。これが人工知能を持たぬ普通のゴーレムや生きた鎧リビングアーマー彫像怪物リビングスタチューならば話は別であったのでしょうが……。
 今回バルゾラ大陸へ戻される魔像軍団員には、戦闘ドロイドが300体、アンドロイドが120体、高知能型ロボットに至っては500体はございますからな』

「むう、毒舌家のくせに生真面目だな、あいつは」

『はっ。ではわたしめはこれにて』

 要件が終わり、ガウルグルクの映像は敬礼をして消え去る。こちらもその映像に答礼を送り、映像が消えてからそれを解く。そしてわたしは少々考え込んだ。考えの内容をはっきりさせるため、あえて口に出している。

「さて……。アーロン司教は、何を訴えにやってくるのかな? まともに考えるならば、布教の許可を得るためかとも思うが……。こちらは魔王だぞ? 表向き許可出せるわけ無いだろうに。となると、黙認を求めにやってくると考えるべきか?」

「わたしもその辺りじゃないかと思う。魔王様は被征服民に対しても、苛烈なことをやらずに穏健に接してるから、説得できると考えたのかも」

「だとしたら、甘いとしか言い様が無いんだが……。だけどなあ……。なんか変な予感がするんだよね。ああ、嫌な予感ってほどじゃないんだけど、なにか変な感じがする」

「だったら、できるだけ注意を怠らないようにするべきですね」

 ミズホの言葉に頷くと、わたしは黒板に向かう。そして白墨チョークを手に取り、行先を書き付けた。

「えーと、魔王、研究所にてロケット弾及びミサイルの設計および試作、と」

「……親衛隊長、同副長、研究所にて魔王様の護衛」

「アオイさん、ありがとうございます。行きましょう」

 アオイが自分とミズホの分の行先を黒板に書き付けた後、わたしたちは司令室から研究所へと向かう。ちなみに余談であるが、この研究所は元は工房と呼ばれていたが、規模が非常に大きくなったために研究所と呼ばれることになった物であった。

 わたしは研究所までの道のりを歩きながら、考える。アーロン・アボット司教は、わたしに謁見を願い出て、何を言い出すつもりなのやら。……わたしの両隣を歩く2人の元勇者の苛立ちが、何より怖い。抑えてはいるのだろうが、ふとした拍子にぽろっと怒気が漏れて来る。

 そう言や、鉄之丞も居たな。鉄之丞も、怒るだろうなあ。アオイ、ミズホ、鉄之丞の3人の元勇者が揃う、次の定例会議が怖くて仕方なかった。
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