召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第71話 復員する将兵たちと

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 わたしはバルゾラ大陸最大の軍港であるフォルトラ市の港で、大型輸送艦5隻が入港して来るのを眺めていた。わたしは一時の休息を兼ねて、この輸送艦隊の出迎えにやって来たのだ。

 この4隻の輸送艦には、アーカル大陸での任務を終えてバルゾラ大陸へ帰還してきた一部の魔獣軍団員、魔像軍団員が乗り込んでいる。旅の間、船の中に閉じ込められていたのはさぞかし大変だっただろう。ああ、いや。魔像軍団員は気にしないだろうが。

 またその上空を、出征した魔竜たちの半数、200体が飛び回っていた。大半は幼竜や若竜だが、その中にはオルトラムゥの姿も見える。

 彼らは船団と共に移動し、飛び疲れたときだけ交代で輸送艦上に降りて休んで、バルゾラ大陸とアーカル大陸の間を飛び越えたのだ。途中に一休みできる島はいくつかあったものの、さぞ疲れたことだろう。

 常にわたしに付き従っているアオイとミズホ、及び20体の親衛隊員が、さっきから緊張状態を解いていない。あの艦のどれかに、アーロン・アボット司教およびアーカル大陸各地からの陳情団が乗っているのだ。

 ちなみに陳情団は、アーロン司教を連れて来るついでに乗せる事にした。まあ表向きには、アーロン司教の方がついでなのだが。しかし陳情団の中にテロリストが紛れ込んでいないとは限らない。まあ厳重に身体検査を行い、魔法が使える者は魔力を封印されているのだが。

 ふとオルトラムゥを見ると、彼はこちらを見つけた様で、こちらに向かい飛んでくる途中だった。それに何体かの魔竜が付き従っている。オルトラムゥたちは、あっという間にこちらへ到着した。

 彼らは着陸すると、前脚で敬礼をしてくる。オルトラムゥ以外は上手く敬礼できず、ぎくしゃくしていた。わたしたちも答礼を送る。

「魔王様、ただいま帰参した。幼竜どもや若竜どもには、大洋越えはかなり厳しかった様だがな。まあ、良い経験になったろう」

「ご苦労さま。良く帰ったね、オルトラムゥ。しかし……」

 わたしはオルトラムゥの後ろを見遣る。

「まさか、ティクタウラを連れて帰るとは、思わなかったよ。『通話水晶』で連絡を受けた時は、何が起きたかと思ったね」

「ははは、俺もまさかこやつが、自分も魔王軍に参じたいなどと言うとは、全然思ってもみなかった。ましてや俺は、こやつの父の仇であるしなあ」

 そう、そこにはかつて『ヴァルタール帝国』の守護竜と謳われた強大な竜ハルカアルの娘にして、『ヴァルタール帝国』竜騎士団長の乗竜であったティクタウラが、畏まって控えていた。

 何も言わないティクタウラに、わたしは一瞬怪訝に思う。だがすぐに事情に思い当たり、彼女に声をかけた。

「ああ、楽にしていいよ、ティクタウラ。それと自由に話してかまわないからさ」

「は、ありがとうございます魔王様。……魔竜将殿、魔王様のご様子が、以前お会いした時とは随分御変わりになられているのですが?なんと言いますか、その……」

「ああ、ざっくばらんで気取ってない、と言うんだろ?こっちが魔王様の素顔だ。身内だと認められたと思って、喜んでおけよ」

「は、はあ」

 オルトラムゥの言葉にティクタウラは少々口ごもるが、やがて話し始めた。

「確かに最初は魔竜将殿や魔王様をお怨み申し上げた時もございました。なれどお父様と魔竜将殿は、正々堂々と正面から渡り合った好敵手同士であったとのお話。
 お父様も生前妾に常々言っており申した。死ぬるときは、雄敵との戦いの中で華々しく最期を遂げたい、と。
 魔竜将殿はお父様のその望みを叶えてくださったお方にございます。そして魔王様はそのご主君。もはや怨みなど御座いませぬ故に」

 なるほどね。いかにも、戦士らしいと言うか、竜……いや、魔竜らしいと言うべきなのだろうな。

「それに魔竜将殿は、お父様の遺骸いがいが魔王様配下に下げ渡されるところであったのを止めてくださり、『竜の墓場』まで運んでくださりました。
 その御恩、なんとしてでも報じなければ妾の気が済みませぬ。それ故妾はこの身を魔王軍に投じ、これより魔竜として魔竜将殿の元で一生を送りたく存じますれば」

「あー、うん。わかった。歓迎するよティクタウラ。これからよろしく」

「はっ! これより粉骨砕身の覚悟で任に当たりますれば!」

「あー、んじゃそろそろ行くか。久しぶりのバルゾラ大陸だ。どう変わったか、楽しみだ。ではな、魔王様」

 オルトラムゥ一行は、こちらに敬礼をする。わたしたちが答礼を帰すのを見届けると、彼らは一斉に飛び立って行った。と、ここでアオイがぽつりと言葉を漏らす。

「魔竜将オルトラムゥ……。おめでとうと、ご愁傷様と、どちらがいいかな……」

「え? それってどういう意味ですか? アオイさん」

「気づかなかった?ティクタウラの、魔竜将殿を見つめる熱い視線に。年貢の納め時と言うか、人生の墓場送りと言うか、そう言うこと」

「え! あ! わー! そうなんですか!」

 アオイとミズホの会話に、わたしはティクタウラから感じた微妙な雰囲気の意味に、やっと気づく。そう言う前提で彼女の様子を考えて見ると、確かに思い当たる点は色々あった。あれ?でも……。

「あー、いや。年貢の納め時も人生の墓場送りも何も、オルトラムゥは前にも結婚してたはずだけどなあ」

「え! ふ、不倫ですか!?」

「いや、そうじゃなく。たしか奥さんには遠の昔に先立たれて、やもめ暮らしじゃなかったかね。息子娘も、先代魔王時代に討ち死にしてるらしいよ」

「だったら問題ない」

 いやアオイ、オルトラムゥとハルカアルはほぼ同年代。となるとオルトラムゥとティクタウラの間は、親娘ほども離れてることになるからね? ……まあ、若い後妻さんを貰うと考えれば、一応ありなのかな?

 オルトラムゥがティクタウラの気持ちに気付いてないっぽいのが問題と言えば問題か。オルトラムゥは実はかなりモテモテらしいんだが、一向に誰かに靡いた様子が無いらしい。

 あれは鈍いとか言うんじゃなしに、前の奥さんに義理立てしてるんじゃないかってことらしいね。これは彼の配下の魔竜たちによる噂話だけどさ。あれ? んじゃあ気付いてないんじゃなく、気付かないフリでもしてるのか?

 となると、ティクタウラの恋路は前途多難か。大変だなあ。おっと、輸送艦が桟橋に接岸した。ゼロたちを迎えに行くとするか。

「ゼロたちが輸送艦から降りて来る。そろそろ行くよ」

「わかった」

「はい」

 わたしはアオイとミズホ、それに20体の親衛隊員を引き連れ、わたしは桟橋の方へ向かったのだった。
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