召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第100話 勇者の後始末

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 ここは軍病院の、犯罪者や危険人物の患者を収容しておく区画だ。わたしとアオイ、ミズホの3人は、ここに収容され入院している勇者タケルと面会に来ていた。その彼は、わたしが語った言葉にへこまされて、小さくなっている。が、やがておずおずと口を開いた。

「な、なあ……。お、俺がもう元の世界に、地球の日本に帰れないって、ホントか?」

「本当だ。アオイ、ミズホ」

「「はい、魔王様」」

 アオイとミズホは、この勇者タケルの前に出るって事だったから、いつも使っている仮面を被って来ていた。彼女らはその仮面を外す。勇者タケルは、彼女らが日本人的な外見をした美少女であるのに驚いた様だ。ただ、その冷たい視線にもたじろいだ様だが。

「彼女らは、お前の先代、先々代の勇者だよ。『リューム・ナアド神聖国』は、彼女らに『魔王を倒して、戦いが終わったら地球の日本に帰れる』って嘘をついて無理矢理戦わせた。あげくに2人とも、魔王を倒したら一緒に旅をしてきたパーティーメンバーに不意打ちで殺されかけたんだ。
 つまり『リューム・ナアド神聖国』は、万が一にも魔王を倒すほどの強力な勇者が、自国に復讐に来れない様に、魔王退治が終わったら始末してしまうつもりだったのさ。まあ、お前の場合は『もう帰りたくない』って大放言してたからな。もしかしたら生かして置いてもらえたかも知らんが。
 だがどちらにせよ、元の世界には帰れんよ。」

「え、あ、あ。ま、魔王って倒されたの? ……って、あんた生きてるけど」

「アオイが倒したのは、先代の魔王だ。そして魔王を倒して油断してたときに、勇者パーティーが裏切ってアオイを殺そうとした。そのとき先代魔王の命を糧にして召喚されたわたしが、死にかけたアオイを助けたんだ。
 ミズホのときは、わたしを倒しにやって来たんだが。勇者パーティーの正体をミズホに教えるため、わたしが倒されたフリをしてね。勇者パーティーの連中はそれに引っ掛かって、ミズホを殺そうとしてくれた。そこでアオイとわたしが割って入って、ミズホを助けた。」

 わたしは一拍置いて、言葉を続ける。

「彼女らは、わたしに従って魔王軍……『JOKER剣魔国』の軍隊の一員として、わたしの世界征服に協力している。『リューム・ナアド神聖国』を滅ぼして、その指導者どもに復讐するためにね。
 ちなみにお前と違って、彼女らの扱いは酷いものだった様だぞ。食事などはお前の様な上物じゃなく、兵士たちと大差ない。まあそれでも、一般民衆よりかは随分マシだからともかくとして、だ。
 戦闘訓練は治療呪文があるのを良いことに、怪我するのも構わない様な過酷な物。しかも怪我したら手に負えない大怪我以外は、治すのは自分の魔法で、だ。魔法の訓練も兼ねてるからな」

「そ、それは……」

「そしてある程度力がついたら、実戦は最適な教師とばかりに戦いの場に放り込まれた。彼女らは見ての通り、召喚される前はただの子供だったと言うのにな。蝶よ花よと大事にされてしかるべき時代に、無理矢理に血みどろの戦いの中へ放り込まれたんだ。
 ああ、召喚されたときに年齢が固定される仕組みがあるからな。だから見た目はともかく、彼女らはお前よりも年上だ。これは昔、勇者を事が済んだら元の世界に返す仕組みが残ってた時代に、元の世界の元の時間に帰還した勇者が年を取ってたらマズいから、勇者の年齢を固定するんだ。
 お前もその14~15歳の子供ガキの姿から、一生成長も老化もしないぞ。できないんだ。そんなわけで、お前は帰れないだけじゃ無く、もう絶対に大人にもなれない」

「!!」

 これには勇者タケルも、ショックを受けたか?青ざめてうつむいている。

「そんな……。俺は……」

「ま、『リューム・ナアド神聖国』の連中に取っては、勇者なんてのは使い捨ての戦闘兵器でしか無い。どれだけお前がちやほやされてたかは、調査結果からだいたい想像は付くがな。そんなもんは、上辺ばかりだ」

「そんな、俺、そんな……。そんな事なら、死んだ方が……。いや、死ぬのは怖い、いやだ。だけど、こんな、両腕が無い俺、どうやって生きてけばいいんだよ」

 あー、顔面蒼白になって、ぶつぶつと呟いてるよ。うつろな目になってるし。ここで彼にとっての朗報をぶち込むとするか。

「その両腕の事だがな。治したいか?年齢固定とかとは違って、治せば治るぞ。」

「!! そ、それほんとか!?」

 勇者タケルの目に、光が戻る。わたしは言葉を続けた。

「本当だ。ちょっと後遺症が出る危険性や、あとは再生に数ヶ月かかるのを覚悟すれば、再生系の魔法……『レストア』とか使ってもいい。お勧めなのは、我が軍で最近実用化されたクローン再生医療だな。これはとある事情から、研究が非常に進んでいる」

 そのとある事情ってのは、改造人間を創ってる事なんだけどな。

「そ、それって!」

「おっと待った。その再生医療を施してやるのに対し、お前は何を我々に提供できる? お前は今の段階で、1人の捕虜に過ぎないんだぞ?」

「えっ……」

「まあ、そこまで意地悪を言うつもりは無い。こちらもお前に働き口を用意してやってもいい。その給与から、月々の引き落としで治療費を返してもらえばいいさ。
 で、だ。具体的に、お前に何ができる? アオイやミズホの様に、我が軍で戦士になってみるか?」

 そう問いかけた瞬間、勇者タケルの身体がガクガクと震え出す。目の光は再び濁り、恐怖に取り憑かれていた。あー、さもありなん。こちらは殺すつもり無かったが、こいつの側からすれば殺されかけた様なもんだからな。戦いと言う物に対し、精神外傷トラウマ負っても仕方ないだろうな。

 わたしは手を叩いて、看護用のアンドロイドを呼ぶ。アンドロイドは吸い飲みを持って来て、勇者タケルに水を飲ませた。いや、こいつ両手が無いから、飲み食いにも他者の手を借りなきゃならんのだ。腕切ったのはここにいるミズホだし、命令したのはわたしだけどさ。

 勇者タケルが多少落ち着いたのを見て取り、わたしは言葉を続けた。

「その様子じゃ、戦う職業に就くのは無理だな。そうだな、新型飛行機のテストパイロットの候補生なんてどうだ?航空機パイロットが今、かなり不足してるんだ。お前なら教え込めば、飛行魔法とか使えるだろうし、トラブルの際の脱出も簡単だろうさ。
 候補生の間は、給料も安いから、治療費の天引きでけっこうカツカツな生活になるかも知れん。だが正式採用されて、昇給していけば将来は明るいぞ」

「え、パイ、ロット?」

「ああ。お前も小さなころは、パイロットとか憧れたクチじゃないのか?」

「う、うん……。魔王軍って、飛行機とかあるのか……。すげぇな、全然しらなかった……」

 そしてわたしは立ち上がると、座っていた椅子を転移系の術法で元々あった場所へ送り返す。わたしは勇者タケルに背を向けつつ言った。

「まあ、何にせよ考えて置くんだな。これからお前は、色々大変なんだから。それではわたしたちは、もう行く。これでも忙しい身なのでな。」

「……わかった。考えるよ」

「「……」」

 アオイとミズホが、無言でわたしに続く。わたしたちは勇者タケルの病室を出た。

「魔王様、ちょっと甘くない?」

「わたしも、そう思います」

 病室を出たところで、アオイとミズホはわたしに話しかけて来る。不機嫌なわけでは無く、単純に本当に疑問だと言うだけの様だ。わたしは答えた。

「たしかに甘いけどね。あいつのためじゃないよ。あいつには、責任を取らせないと」

「「責任?」」

「うん。ちょっと気になったんで、ザウエルに追跡調査を頼んだ結果が出たんだ。君らにはまだ話してなかったけどさ。『リューム・ナアド神聖国』であいつの毒牙にかかった娘たちのうち2人が、ちょっとばかり身体に変調をきたしてる。
 ……月の物が来てないらしい」

 アオイとミズホが、眉をしかめた。何か、酢を飲んだような顔つきになってる。

「まだ子供ガキだからね。避妊なんて、正確な知識があったかどうか。知識があっても、あいつの性格だと……」

「……最低」

「ほんとです」

 わたしは肩を竦めた。

「そんなわけでね。あくまで可能であれば、だけれど。その娘たちを可能な限り穏便に、拉致して連れて来る事にしたよ。魔道軍団の間諜スパイには、また迷惑をかけるけどね。
 勇者タケルの醜態をわたしたちが喧伝けんでんした事で、その勇者の子を身籠ったとなれば下手すると『リューム・ナアド神聖国』では迫害されかねない。自分たち自身の失策で苦しい思いをするならともかく、わたしたちが原因でとなると、少し罪悪感がね。
 その娘たちには、アーカル大陸あたりで暮らしてもらうつもりだ。勇者タケル、あいつにも給料から子供の養育費と娘たちの生活費は送金させるさ。あくまであいつに責任を感じさせて、そして責任を取らせるための措置さ」

 何にせよ、ちょっとやりきれない思いを抱きつつ、わたしたちは本部基地地下深くの司令室へと帰って行った。
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