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序章 異世界創造
第2話 異世界の誕生
しおりを挟む「それでは異世界を創るぞい」
二十年目の歳を無駄に重ねた俺こと皆本進児は、今まさに非日常的な出来事を体験していた。
現場は広くもなんともないワンルームの自部屋。
卓袱台を囲んで目の前に立っているのは、キトンを纏い、長い口髭を蓄えた、古代ギリシャ人のような見た目の皺々のお爺さんだ。
胡散臭そうな見た目で信じられないが、このお爺さんは神様だ。
そう、神様。他の誰でもない、あの全知全能の神。
宗教に関してはあまり熱心ではないけど、神は実際にいたようだ。いや、どういう事だってばよ……。
神様と出会ったのは二日前のこと。
誕生日を迎えた夜遅く、自分の部屋ですやすやと就寝を取っていた時に、ぺかーっと太陽のように眩い光を放って現れたのだ。
『お主の願いを一つだけ叶えよう』
気持ちよく眠っていたところを邪魔して現れた老人は、最初にそう言った。
聞けばなんでも数万日に一度、誕生日を迎える人間の中から一人選び、その人の願いを一つ叶えてあげるらしい……。
ヒジョーに嘘くさい話だが、時の偉人達の一部はこのおかげで歴史に名を残すことが出来たとか。
そして、この有り難いイベントにこの度選ばれたのが俺だった。
当初は爺さんが神様だってことも願いを一つ叶える話も、これっぽっちも信じてはいなかったが、科学では解明できない不可思議な現象を目の当たりにする内に少しずつ信じるようになり……。
『――異世界を創りたい』
と、神様にそう願った。
……思えばこの選択はミスったと言わざるを得ない。
何だよ、「異世界を創ってみたい」って。
確かに俺はそういうファンタジーものに憧れるくらいに好きだ。だがせめて「超能力やスタ●ドが欲しい!」とか、「女の子にモテたい!」とか「お金持ちになりたい!」とでも言えばよかったと思う。
眠気が完全に取れていたらこんな失敗は犯さなかった……。
異世界を創ってみたい、なんて願いは前代未聞らしく、神様が「あの賢王さえも考え付かない」と驚いていた。
しかし、俺の願いは無事に叶ったようで……今日、神様は再び俺の部屋に現れ、目の前に何かを持ち出してきた。
「……これは?」
卓袱台に置かれたそれはレンガ状の物体で、見た感じは全く見当が付かない。
「これは『ドネル』。粘土じゃよ。ただし、普通の粘土とは違う。ワシの力が込められた神秘の粘土じゃ。これを使えば誰でも世界やあらゆる生命を生み出すことが可能なんじゃ。よって異世界を創ることができるのじゃよ」
神様が髭の詰まった口元をもごもご動かして答える。
あらゆる生命を生み出せるって、もしかして……。
「俺達人間ってこの粘土から……」
「あー、それは違うのう。お主ら人間はワシが塵から作って、一旦猿になって、猿から進化したからの」
「驚きの新事実をさり気なく言ったな? 言ったよな?」
どうしよう。世界全体がびっくりする新事実をさらっと言っちゃったよ。
この人……いや、この神大丈夫なのか? 神様らしい威厳を感じない。
最初のコンタクトだって変な爺さんが不法侵入してきたと思ったしな。
「威厳が感じぬ? それは残念な話じゃのう。最近の人間は信心が浅くて参ったわい」
ちなみにこの神様。やろうと思えば他人の考えが読めたりする。
さすが全知全能。めんどくさい超能力を持ってらっしゃる。
「だから筒抜けじゃぞ」
おっと、そうでした。サーセン。
「粘土で作ると言ったって、どう創ればいいんだ? 今から創るのは異世界だよ異世界。そんな果てしない規模のものをどうやって作るのさ?」
「そう難しく考えなくてもよい。このドネルは神秘が詰まった粘土。お主が想像し、捏ねるだけで簡単に出来上がるのじゃ」
「想像する?」
「そうじゃ。創りたいものを考えるだけでこの粘土は何にでも形を成し、想像したものに出来上がる。子供の粘土工作よりも簡単で、しかも精巧なものが創れるぞい」
騙された気分やってみるといい、と神様が粘土をこっちに寄せる。
「…………」
本当にこれで創れるのか、腕を組みながらじーっと見つめる。
粘土としばらくにらめっこが続き……思い切ってやっと手を付けた。
レンガ状の粘土が手の動きに合わせてぐにゃりと形を変える。
神秘の粘土と言えど感触は特に何ともない、子供が使うような普通の油粘土だ。
「お主が創りたい世界を想像しながら捏ねるといい」
「ホント? じゃあさ、女だけの世界を創っても――」
「ダメじゃよ」
すぐさま断られてしまった。
即答ですか……。
(想像し捏ねる、ね……)
本当にそれだけで出来上がるのか信じ難いが、粘土を両手で包み指を動かしながら静かに思い耽る。
(異世界……異世界……)
目を閉じ、その言葉だけを頭の中で唱える。
――異世界。それは現実ならざる並行世界。
――異世界。それは現実が認識できない第二の可能性。
(考えろ、俺の創る世界。俺だけの新世界……!)
――異世界。それは知恵ある生き物の想像し得る、新たな森羅万象。
……やがて指先で変化が感じられた。
さっきまでは不定形の柔らかい感触が今は形ある固体に変わっている。
手でよく触ってみるとそれは大きく、ボールのような丸い形を形成しているように感じた。
そこで目を開いた。
「――『異世界』の出来上がりじゃ」
目を開くと、ついさっきまで捏ねていた粘土が原型からかけ離れた姿に変わっていた。
そこにあるのは、水色に透き通った地球儀サイズの球体。
氷の冷ややかさを帯びたような表面は、ガラスかクリスタルで出来ているように思わせる。
その外表に青色のオーロラが駆け巡る。まるでそれ自体が生きてるようだ。
「これが俺の……?」
「そうじゃ。初めてにしては上手く出来たの」
これが『異世界』……自分の想像で創った新世界……。
「見た感じ、ただの透明な球体じゃん。本当にこれが『異世界』なの?」
目の前で輝く球体は、どこから見てもそれには見えない。何にもないし、何かがあるとは思えない。
「それは確かにお主の創造した一つの世界、一つの星じゃ。ただし、今は何にも存在しない『無』の状態じゃがの。何にも存在していない状態なんじゃよ。なーんにもじゃ。故に生命も生きてはおらん。まだ生命が生きていける環境には程遠いからの」
球体を指して、神様が『異世界』の状態を説明する。
これが『無』の状態。まだ生命が生きることのできない状態……。
球体――両手を離すと、それはふよふよと浮いた――を前にして感慨深い気分に浸る。
この状態からいろんな物を創造して、世界が出来上がっていくんだ。
「……さて、今日はこれまでにするとしようかの」
「え? これまでって……もう終わり? まだこれしか創ってないのに?」
腰を上げ、俺と出来たばかりの『異世界』という球体に背を向ける神様。その様子は完全に帰るムードだ。
「次は七日後じゃ。ドネルをここに置いていくが、次にワシが来るまで決して何も創るではないぞ。特に……生命はの」
踵を返したまま、しかし神様は突然として肩越しに鋭い眼光を飛ばす。
貫くような視線は真剣そのもので、さっきまでの胡散臭さは払拭していた。
「よいな? 決して創るでないぞ。でなければお主に重い罰を下さねばならなくなる」
「あ、はい……」
厳かさえ感じられる面持ちに圧倒され、つい頷く事しか出来なかった。
返事を確認した神様は一瞬にして光の粒子となって散っていった。
光の消えた宙の一点をただ見つめる。
時計を見ると時刻も遅く、明日もアルバイトがあるから4もう寝ることにした。
「……………………寝づらい」
部屋の電気を消しても『異世界』がぽわぽわーっと鼓動するように光っているのが、眠気を妨げてきて鬱陶しかった。
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