3 / 109
序章 異世界創造
第3話 異世界トールキン
しおりを挟む我輩、皆本進児はフリーターである。
夢はなく、特にやりたいことは見つかっていない。
食べていく為にアルバイトをし、未来設計の無い惰性的な生活を続けている。
だから元クラスメイトの「結婚しました」報告に心を抉られているのである。
結婚って……早いなぁ。俺なんか高校を卒業してからずっとコンビニのアルバイトしかしてないんだぞ。
かたや新婚。かたやコンビニのアルバイト。
一人暮らし、貯金ほぼ無し、彼女いない歴二十年目更新……。
ハガキを握る手が、惨めなくらいに震えている。
べ、別にっ、う、羨ましくなんかないんだからね……っ。
そんな悲しい出来事を経験したその日、事件は起きた。
「うぅ……」
結婚報告に色々ネガティブな気分になってしまった俺は、初めてだった酒を鯨飲してしまった。
頭が痛い。これが二日酔いか。
酒には強くなかったのか、途中から記憶が全く無い。
あの後、俺は一体何をしでかしたのか。
鈍痛の残る頭を抱え身体を起こすと、一つの異変を見つけた。
それは卓袱台の上にあった。
白くて黒くて、灰色の……何か。
まるで闇鍋を一年間煮込んでパン生地と混ぜ合わせて練り込んで、叩き付けてそのまま放置したと言わんばかりにエグい見た目だ。
これが一体何なのか非常に判断し難い。
だけどその傍には、ドネルらしき残骸が散っている……。
「まさか……?」
一片の手がかりから何となく状況が推察できた。
これはドネルで創られたもの。
昨夜、酒に酔って部屋に置いてあったドネルを使ったらしい。
しかし肝心な事にその時の記憶がはっきり思い出せない。いくら思い出そうとしても手繰り寄せることはない。
……ただし一つ、わかることがある。
あの時、神様はこんな事を言っていた。
『――次にワシが来るまで決して何も創るではないぞ』
空気がさあっと冷たくなったような気がした。
あれれー? これってひっじょおぉぉぉにヤバいんじゃないだろうか?
「というか、もう来る時間じゃんっ!」
時刻を見れば神様が来る一分前を差していた。
マズいっ! これは非常にマズいぞおぉぉぉ。
これが見つかったら罰を受けることになる! 神様の罰ってとてもヤバそうな気がする! 早く何とかしないと!
「――進児よ。また来たぞい。この前の続きをやるぞ……い……?」
集まりゆく光の粒子。やがて一つとなった光点は、一瞬にして見覚えのある人型を形成した。
その神物は言わずもがな神様だ。
「「………………」」
無言の沈黙。
さっきまで慌ててたせいで、今の俺は変なポーズを取っていることだろう。
妙な異変を感じ、窪んだ眼窩から凝視が飛ぶ。
考えを読まれたらマズいので何も考えないようにする。無心無心っと……。
「お主、どうかしたかの?」
「い、いやー……二十になったんで初めて酒を飲んだけど、飲み過ぎちゃって気分が悪いんだ」
「ほほー、必要以上に飲んだのか。それは感心せぬのう。無理して飲むことはない。今後、お酒は嗜む程度にするがよい」
「はい……」
上手くやり過ごせた。せ、セーフぅ……。
「何がセーフなんじゃ?」
「いっ、いや、波が来ちゃって……」
「なんじゃ、吐き気を催したのか。本当に大丈夫かのう?」
「あ、あははは……」
「それにこの部屋の散らかり様は何じゃい。少しは掃除せんか」
アレの事を悟られまいと、苦笑いを演じる。
危ない危ない。バレてない、よな……?
「酒気が抜け切れていないところ悪いが、続きを始めるとしよう。お主の創った世界は……む?」
新しい創造を行う為、神様は先週創ったばかりの『異世界』を探し始める……が、『異世界』を見てまた訝しんだ。
「少し……濁っていないかのう?」
どきり、と胸が鳴り、緊張の稲妻が走る。
神様の視線の先、卓袱台の上に浮いていた『異世界』はさっきまでと色が違っていた。
何も混じり気のない湖のような色はまるで泥をかき混ぜたそれに変色し、表面を走る光の波も、少し黒ずんでいるようにも見える。
「そ、そうか? 俺にはよくわからないや。はは、はは……」
脂汗を滲ませながら、白々しく言葉を濁す。
なぜ『異世界』が変色しているのか、心当たりが大いにあるからだ。
それは、さっきのドネルで創ったらしい不定形のアレを『異世界』に突っ込んだからだ。
この方法しか思い付かなかった。
隠せるところは他にもあったはずなのに、木を隠すなら森の中という理屈で行動していた。
『異世界』に押し付けた不定形のそれは、不思議なことに水に沈むようにめり込んでいって、球体の中へと溶けるように消えていったのだ。
それ以来二度と姿を出すことはない。
だ、大丈夫だよな……? アレが何であれ、特に何も起きていないようだし。
「……ふむ。気のせいかのう」
長眉に隠れた双眸を光らせていた神様が何事もないのを認める。
その陰で俺は静かに安堵の息をついた。
よ、よかった。今度こそやり過ごせた……。
「そういえば、まだこれに名前をつけておらんかったの」
「な、名前?」
「そうじゃ。お主が創った『異世界』の名前に付けるんじゃよ。つい忘れておったわい」
「これに名前を付けるのかよ? 何の意味があるんだ?」
不意を突いた提案に疑問が生まれ、理由を尋ねる。
神様は腰を落とし、淡く光る球を見つめて口を開いた。
「名前とはすなわち『祝福』じゃ。万物は何であれ、名を持つものには全てそれが等しく与えられている。お前さんの『進児』という名にものう」
だからこの世界にもそれを与える必要がある、と神様は言った。
この世界の名前、か……。
「付けろと言われても急には思い付かんなあ……」
腰を置いて、うんうんと唸りながらこの淡く輝く光球に付ける名前を熟考する。
悩む俺に、神様は「まあそう難しく考えんでもいい。お主の好きなように付けるがよい」とアドバイスしてくれた。
「うーん……」
俺が創った『異世界』の名前……。
この世界に与える、俺からの祝福……。
「――『トールキン』にしよう」
脳裏をよぎった、この世界にふさわしい名前。
「この世界の名前は、『トールキン』だ」
「トールキン……お主らしい良い名前じゃの」
「へへっ、人の名前から取って付けてみたんだ」
「それも良かろう。ただいまを以てお主の祝福はここに成した」
聞き届けた神様が、公式に決定したと言わんばかりに両手を上げる。
名を与えられた事に反応しているのかわからないが、トールキンが少し強く輝いたような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる