異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

文字の大きさ
50 / 109
第一章 出立

第48話 いつもより蒼い空の下で

しおりを挟む

 あの戦いでネメオスライアーは跡形もなく消え去った。
 倒したが、シンジ達が倒した事実も共に消え、彼の迷妄と化してしまった。

 フィーリの訃報を知った人間の中にはこう疑う者もいる。
 シンジが殺したのではないか、と。

 根も葉もなく、だがフィーリを深く慕い喪失の痛みを紛らわそうと噂を信じようとする者がいる中、メアだけは頑なに否定した。

 世話になった家を離れ、シンジは街の中を歩きだす。
 時折冷ややかな視線を受けても、確かな意志をもとに進み続けていく。一歩一歩を刻むシンジの面差しはフィーリを喪ったとは思えないほど曇りが無かった。


 この日、彼は旅立つ。リージュを発とうと街の外を目指していた。

 
 街を出れば外の世界。そこは多くの危険が潜んでいる。一人では心許ない。
 だからシンジには仲間が必要だった

 その為に集めた仲間の人数はなんとゼロ。一人もいないのである。
 リージュにいる討伐者達を誘ってはみたものの、シンジに同行したいと言う者は出なかった。

 何という結果か。人望の無さにトホホである。

 メンバーを集められなかった現実に苦いものを呑み込みつつ、まあそれも仕方なしと気を改める。
 集まらないのならそれまで。単身で行くだけだ。
 先行きは不安もあるが、どのみちこの足を止めるつもりは無い。

 顔を上げれば、いつもより青い空がある。ある者の瞳のようだ。
 白鳩の届けた魂が染み付き息づいているようで、雲と共に痛みも苦しみも過去へと流してくれる。



 ――さあ行こう。君が望んだ時はもう始まってる。
 大丈夫。何があろうと確実に進めるよ。



 俯瞰する快天は孤独な旅立ちを応援してる気がした。 
 唯一見届けるものにシンジは気を引き締めるように笑み、見ていろよ、と意気込んだ。


「――あ」

 リージュを出た時、シンジは思いがけない出来事に遭遇する。
 街道の先に小さな影が一つ。それを見た彼の瞼が限界まで剥いた。

 足取りが少しずつ速くなる。
 近付く度にその姿は幻でも見間違いでもなかったことを認識させる。

「お前……」

 小さな影の正体は、まさかのレトだった。
 じっとお座りしている姿はシンジを待ちわびていたことを匂わせる。あの夜からずっと何処かに居たのか泥が付着したままだ。

 行方がわからず、もう諦めかけていた。
 意外と早かった再会の興奮が胸の内で騒ぐ。それをぐっと抑えながらレトの身体に付いた泥を払う。

「今までどこに行ってたんだ。メアさんが心配してたぞ」

 姿を消していたレトはうんともすんとも鳴かず、大人しくシンジを見上げるだけ。言い訳もする気が無いらしい。

「早く家に帰れよ。一人で寂しくしてるだろうから」

 フィーリが死に、シンジはリージュを去る。
 つまりメアの家には一人しか居ない事になる。メアは頑張ると言っていたがどうにも気掛かりだ。
 傍に誰かが居ないと。だからレトは家に帰るべきだとシンジは考えていた。

「……お前とは色々あったな」

 レトとの過去を掘り返す。
 まず初めにいきなり噛み、噛んだり噛んだり噛んだり……散々な方が多い気がするが、共に過ごした事もあってそれなりに親交はあった。

 可愛げのなく、でも嫌いでもなく。
 レトとの間で得なかったものなど無い。小なり大なりこの生き物とは築けたものがある。

「……俺な、リージュを出るんだ。だから、ここでお別れだ」

 こうしてレトと話すのも今日で終わり。これから先は長い事会わなくなる。
 到着点の見えない道程だ。だからなのかシンジはレトの頭上に手を置き、わしゃわしゃと撫でた。

 その手に、平穏と再会を込めて。

「じゃあな。また会おうな」

 立ち上がったシンジはそれだけを告げ、横を通り過ぎていく。
 淡白な形で終わらせたのは一旦の別れを惜しみたくなかったか。

「キュー……」

 背後で鳴き声が生まれる。離れていたはずなのに去る身を止めた声は近い。
 振り返ればレトが足元に居て、シンジの脚に身を寄せている。その仕草は何かを求めているようであった。

 何がしたいのか戸惑うシンジだったが、まさか――と、ある可能性を探る。

「俺と一緒に……行きたい、のか……?」

 自信の無さげで、弱々しさも感じられる声音。
 一人でも大丈夫だと割り切っていたシンジに期待と不安が入り混じる。

 そうだといい、そうであってほしい。
 彼らの間だけに訪れた静けさの中でそんな想いが強くなる。


 願望を込めた誘いに、レトは――頷くように鳴き声を溢した。




『――私が死んだら、シンジについて行ってほしい』

 生前、レトへ残した言葉はシンジへの心残りだった。

 あの時、ロギニの追跡を欺いた後にフィーリはそう言った。
 右腕を失い重傷を負った自分に死が近付いている事を悟ったからだ。

 迫り来る死。振り逃げられぬ誘い。
 主張し拡大する存在に直面した彼女はできる限りの事を尽くそうとした。


『どうしても心配なんだ、シンジのこと……だから頼めるかな?』


 己の行く先を見据えた友は後を託し、死力を尽くす戦いに赴いた……。

 どうするかこの数日間迷ったが、願いを聞き受けた以上は果たさねばなるまい。
 あのような状況で、あの表情で頼まれては断り難いではないか。

 本当にコイツは危なっかしい事をする。弱いクセに命を投げ出すような真似をやる。いくつあっても、、、、、、、足らぬ困難に遭ったとしてもだ。

 ならば少しは手を貸してやろう。コイツは無謀なところ含めて見どころがある。


 シンジ、お前は――。




 一滴の水が生んだ波紋のようだった。
 レトの返事は重く胸の内が揺らいでいる。

 一人と思っていた。
 寂しげな旅立ちに、たった一匹が一緒に付く。それだけでも彼は嬉しかった。
 小さくて、それでも大きな存在だ。

 ありがとう、ありがとう、と。
 照れ臭く、ちょっとだけ泣きそうになるのを堪える。

「じゃあ行こう。しっかりついて来い」

 いつもの調子に戻り、シンジは今度こそ晴れやかな旅立ちに向かった。

 これからが本当のスタート。小さな仲間を得た彼はプロローグ今までに別れを告げるように走り出す。
 オリジンじぶんが創りだした世界へ向かって。


 広い世界に身を投げた彼らを、蒼き瞳だけが見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...