異世界を創って神様になったけど実際は甘くないようです。

ヨルベス

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第二章 その魂、奮い立つ

第71話 長い一日の始まり

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 冷気が肌を撫でる夜が過去へ去り、新しい一日がやって来る。
 いつもとは違う、特別な一日が。

「へぇっくしょい!」

 ……だというのに、盛大なくしゃみがクエスト案内所に爆ぜた。
 大事な話を喋ろうって時にこれだ。

 何処かの誰かさんのせいで、テント無し寝具無しのソロキャンを楽しんできた。
 野宿は慣れたが、上着無しはさすがに寒い……ほらほらぁ、鼻水が少し出ちゃったじゃありませんか。自分は知らぬ存ぜぬって顔でお座りしても忘れんぞ、レトよぉ。

「風邪ですか? 少し休んだほうがいいですよ」
「だいじょーぶ大丈夫っ。大したもんじゃねえよ。この程度なら動ける」

 肝心なタイミングでくしゃみをしたんで、横に居たテレサが顔色を伺う。
 いやー、ありがたいね。可愛い女の子に心配されるってのは。気にしてくれるだけでも嬉しいもんだ。それだけで風邪が治っちゃいそうだね。

 ご厚意に甘えて休みたい気持ちもあるが、呑気に休んでいられないし、今日は……大事な仕事がある。


 シュヴェルタルを討つ――。そんな大仕事がな。


 テレサを救わんが為に始まった討伐。今までは準備してたりトラブルがあったりと、肝心な行動に取り掛かれずにいた。
 それも昨日まで。本日は脱線することのない討伐日和だ。

 作戦会議所となったテーブルには、テレサとレトが居る。カルドも来てくれた。
 全員の視線が全て一つに――俺に向けられる。

 視線が自分に集約すると、口に出すのが憚られる。プレッシャーも感じる。リーダーって立場は、やる事の重要度が高いと重いもんだ。

 でもその重さに意志を曲げてはやれない。これは自分が始めたことなのだから。
 テレサを助けてあげたいという決意は、自分の中でまだ鼓動を続けている。

 譲れない覚悟の熱を再確認し、圧し掛かる緊張に抗うように口火を切った。

「皆、集まっているな。今日は討伐に行く。俺達が討伐するのは勿論……シュヴェルタルだ」

 異彩な存在を放つ人型のモンスター、シュヴェルタル。
 ヤツがどういう経緯で出現したのか。それは知りようが無いし、意味の無いことではあるが……その強さ、恐ろしさは思いがけない形での遭遇で味わった。

 ヤツの手ごわい点は、シンプルながらも並外れた剣技。ミリアムの武器を破壊し重傷を負わせたのは思い出すだけでブルッちまう。
 長剣を使い、正確で速く……それで何人もの討伐者を屠ってきただろう。

 戦術も能力も優れていて、圧倒的という言葉が畏敬の意味も込めて似合っていると言える。そんな敵を下すことは到底難しい。
 悔しさはあるけど、敗けて当たり前だとも思えている。ミリアムを死なせずに連れて帰っただけ儲けものと考えるべきだ。
 
 一度目の遭遇はたった二人だけだったが、この場には仲間達がいる。共に討ち果たさんと集っている。 

「奴は手強い。まあ一名はそう思わんだろうが、油断はするな」

 テレサ、レト、カルド……それぞれの仲間の顔を見回しながら、念押しの一言を加えた。

 今回はこのメンツで倒す。絶対に討ち果たす。
 高額のクエスト報酬を手に入れ、ロザリーヌに渡して終わらせる。討伐が成功すれば一件落着だ。テレサ悩ませるものは無くなる。

 その結果へ至る為にも慎重に、無事に戻らなきゃだな。

「生きて帰ってこその討伐だ。そこんところ肝に命じてくれ」
「頑張りましょう。私達なら出来ますから」
「キュキュッ」
「……」

 各自で張り切って応じてくれたり、応じてくれなかったり。心ひとつ、とは行かなかったが、それでも気の引き締まった雰囲気だ。

 これがパーティというものか……。
 仲間の存在が頼もしさという安心をくれる。チームが居るというのは、強すぎる敵が相手でも希望の可能性を見出させてくれる。

 まっ、大丈夫だろ。こっちにゃあ【閃傑】と名高いカルドが仲間に居るんだ。

 周りを見れば、他の討伐者達がじろじろとカルドを見てヒソヒソと話を交わしている。「アイツはまさか【閃傑】じゃねーか?」とか「【閃傑】がパーティを……?」なーんて話してんだろうな。

 実力の程こそ知る者は知る。如何に強いかは客観的によく認められている。ついでに言えば、そんな奴を仲間にしてる事実に安心と優越を覚えた。

 不測の事態さえ起こらなければ倒せる。誰かが死ぬなんて無いはずだ。
 ツメが甘いことが無いよう、入念に準備をしておかないとな。

 そんじゃ……出発する前にステータスの育成を始めようか。

「テレサ、手を出してくれ。またアレ、、するから」
「あ、はい」

 どうぞ、と細くて綺麗な手が出される。テレサはアレ……つまりステータス育成を理解してくれていて、嫌がることなく応じてくれた。
 だがその反対に、それを知らないカルドはこのやり取りに何の意味も見出だせず、訝しんでさえいる。理解の範疇を越えた行為は、端から見れば胡乱に映ったはずだ。

「何を……している?」
「育成さ。テレサのステータスを開いてBボーナスPポイントを分配してる。そうすれば強くなれるんだよ」
「強くなれちゃうんですよ」
「??」

 当然ながらカルドの抱くハテナマークは崩せなかった。

 パラメーターの調整をしてる俺に対するその反応は、まともなリアクションだ。
 なにせステータス育成の能力は、他人には見えない。見える状態にする事はできないのだから証明は無理だ。

 だからか、カルドがずっと不審なものを見る目になっている。

(や、やりづらい……)

 睨まれながらのステータス育成。そんな奇妙な光景が、クエスト案内所の中で起こっていた。


 BボーナスPポイントを使って、スキルも使えそうなものは貼り付けてと……テレサはこれくらいで良いだろう。

「調子はどうだ?」
「はい、前より強くなれた気がしますっ」

 と、腕を構えて応じるテレサであった。

 その感覚は解らないけど、張り切ってるなあ。
 頑張ろうって空気も伝わってくる。彼女としても力になりたいって思ってることだろう。

 シュヴェルタルの討伐は、元を辿ればテレサに起因する。課された猶予も残り僅かなのだから張り切っちゃうわけだ。
 彼女は後方で前線にいるメンバーの回復を……と言いたいところだが、はてさて……。

 あとは、カルドも少し調整しておきたいところだが、コイツが許可してくれるかどうか。
 今のところはBボーナスPポイントを振り分ける必要の無い優秀なステータスだが、少しでもいいから調整をしておきたい。
 どうお声掛けしても断られる未来線が見えるが、ダメもとで訊いてみるか。

「あのー……」
「なんだ?」
「調整をしたいんで、ちょっと触りたいんだけど……すぐ終わるからいいかな?」
「断る。オレに触るな」

 うーん、これは一周して清々しい。

 知っているのは二つ名と腕前だけで素性がよく分からない奴だが、ここ数日で馴染めたとは思った。
 だけどガードの固さは筋金入りで、このザマである。

「そう言わずにな? ちょっとだけ、ちょっとだけなんで……がっ、ぅがあぁっ!」
「カルドさん⁉」

 そぉっと伸ばした腕を掴まれ、曲げてはならない方向へ。見事な手際で関節技を極められてしまいました。

 痛い痛い痛いぃぃぃぃ!
 あがっ! うああっ! ゴキッて音した! 絶対折れたあぁぁぁぁ!

「いってえよ! そこまでしなくてもいいじゃんか!」
「これくらい、お前にとっては些細だろう?」
「んなわけっ……ねえだろっ。痛いもんは痛いんだからさ。うっ、いってぇ……」

 やられた部分がズキズキ悲鳴を上げているが、これもそのうち治っていく。ただ痛いのは今だけだ。シュヴェルタルを見つけるまでには治まってほしいところだが。

「死んでも生き返り、傷が治る体質……俄かには信じられんな」

 オリジンおれの特性の一片は、ついにカルドにも気に留められるようになっていた。
 このように不信を表しつつも、ホラを吹いてるとも断じきれてないらしい。シュヴェルタルに遭っても生き残った事実が疑問を起こさせていた。

「信じられないも何も、その能力があったからミリアムを助けられたんだ。褒めてもいいんだぞ」
「シンジさんの言っている事は本当ですよ。この目で見た私が保証します」

 この身に宿る力は、テレサも認めてくれる。それが発揮された瞬間に立ち会っているからだろう。

 経験者の証言は信頼度が高く、偽りが無いと見抜いている。でもカルドは何かの間違いや嘘だと信じたかったようで、どうにも形容しがたい反応。

「死から甦る能力など聞いたことが無い……」
「そりゃそうだろうよ。前代未聞の蘇生を果たす人間……その正体はオリジンって神だからなっ」
「意味不明なことを言う。テレーゼ、コイツは普段からこうなのか?」
「いえ……」

 まるで奇人変人を前にしてる言動。そんな奴の問いにテレサは、か弱く否定する。
 まあオリジンおれの知名度なぞ、こんなもんよ……。

「だが……生き返りが本当なら、囮と殿しんがりに役立つな」
「犠牲前提だよね? それ冗談で言ってるんだよね? 作戦に使わないでね?」
「……」
「冗談と言えよ!?」

 無表情で非常に非情な事を、二つ名【閃傑】の剣士はさらっと言ってのけた。

 こっわあ。囮に役立つとか言ってさあ。俺の能力はそんな事をする為にあるんじゃないんだけど。
 戦っている間はカルドに近付かないように気をつけておくか。

「その必要はありませんよ。だってシンジさんが犠牲になるのは罰を受ける時だけです」
「そうそう。死ぬのは罰を受けるときだけって……え?」
「カルドさん、もしシンジさんが変なことをしたら私に伝えてください。その時は……メッ、、しますから」

 メッ、て。
 可愛らしく表現してるんだけど、この子何かおかしな事を言ってません?

「あの、それはどういう意味でぇ……?」

 真意を知りたくて、得体の知れない恐怖を抱えながら尋ねるも……テレサはこちらの意図が伝わったのか目を細めて、

「私、決めたんです。シンジさんが悪いことをしたらメッ、、するって」

 にっこりと笑った。

 その目はなんだ!? ぞくっと寒気が走って肌が粟立ったぞ!
 ウフフ、と微笑んでおきながら、なんで目が笑ってないんだ!? メッて何をするんだ!? なんだか怖いぃ!

 テレサに芽生えた恐ろしい片鱗。原因不明の新たな一面に戸惑いと戦慄を重奏をさせていると、カルドが「それで――」と介入する。

「肝心の敵は何処にいる? 手掛かりはあるのか?」
「あ、うっ……」

 そう前置きしたカルドの求めていたのは、討伐者としてごく当然のものであり、俺としては鋭く突かれて痛い質問であった。
 情けない声で反射し、テレサとカルドが眉の形が変わる理由を与えてしまった。

「あ、あの? もしかして……?」
「無いのか」
「はいぃ……」

 言いたくなかった答えを、カルドが代わりに放つ。
 そのとおりでございます。イグザクトリーソーでございます。

 先日の捜索で得たものは無く、クエスト案内所からの新しい目撃情報は出ていない。
 つまり進展が無いんですな。悲しいことに!

 目撃情報が無いのはシュヴェルタルがココル周辺を離れているか、単に潜伏しているだけか……または目撃してるものが全員殺されているか。
 可能性はいずれでも考えられる。最後のはあまり考えたくないが。

 肝心の情報を掴めてないことに周囲の空気が沈む。
 テレサは「そんな……」と軽いショック。レトはダメなものを見る目つき。カルドはすごーく短く嘆息を吐く。

 肌で分かる変わり様に、情けないリーダーは人差し指同士を突っつき合いたくなったのであった。

「無いことは無いんだけど……」
「本当ですか? 何処なんですか?」
「あながち間違いでもなさそうと言うか、今はどうなってると言うかぁ……」
「キュ?」

 確実にというレベルではなく、もしかしたらのレベル。微レ存とも言っていい。だから自信が無くて、そこに行くべきか煮え切らないでいる。
 と言っても他に手掛かりが無いのだから、そこに行くしかないのだが……。

 シュヴェルタルが居そうな場所。それは――
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