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第二章 その魂、奮い立つ
第82話 新しい旅立ちは君と
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主の消えた邸内に捜査が入り、【聖遺物】は無事に見つかった。
迂闊にも持って行かなかったとは相当慌てていたようだ。
ロザリーヌの身柄は逃げられたこともあり、確保は一旦お預けとなった。
ミーミルに逃げようが同じことだ。被疑が重なっては何処までも法は追いかけてくるだろう。
アイツらは誰の告発でロザリーヌ邸を訪れたのか。
村長や村人に尋ねても、全員誰もやっていないと答えるだけで告発者は判明しなかった。
村の者じゃないとなると、考えられる人物は限られる。はっきりとはしていないが、心当たりはある。きっとアイツなんだろうなと。
不法侵入を見逃してくれた代わりに探索を頼んできた少女の存在が濃くなる。
あのロリっ娘は何者なのか? 重要な【聖遺物】の不法所持の容疑が出てるにしても公訴に動いてもらうのは簡単じゃないと思うが……。
今は聞けないが、また会えたら訊こう。もしトゥール本人が告発してくれたなら、助かったと伝えよう。
……と、一つ問題が片付いたところで、問題がさてまた一つ。
「いねぇ────っ!!」
レトがいない。ロザリーヌ邸の何処を探しても探してもレトの姿は見つからなかった。
痕跡はあるが、呼びかけても出てこず、村人や同業者に尋ねてもレトの目撃情報は出なかった。
「ったく、どこに消えたっていうんだよ……」
見つからぬレトの行方に溜息をつく。ここまで姿を出さないということは、拐かされたって線もあり得る。
行方を知っているとすれば……ロザリーヌ! お嬢様しか考えられない。
ロザリーヌ邸を脱出した後、レトは追いかけられたはず。お嬢様ならレトをどうしたのか知ってるはず。というか彼女が……あっ。
「まさか……殺処分したって事は無いよな?」
嫌な可能性が頭を過ぎった。
妄想の中のロザリーヌがおほほと笑いながら、レトをオモチャ扱い又は毛皮にしてあげますわーと魔の手を伸ばしている。レト、絶体絶命の危機!
ラーダは貴重な生物。毛皮も希少な価値がある。ラーダという存在が現在どれだけの人が知っているかは不明だが、ロザリーヌの目にはただの生き物には映らまい。今頃はレトの毛皮が上着になっちゃったり……。
「早く助けに行かねーと……」
違うと信じたいけど、なんとなくあのお嬢様がやりそうだから焦りが拭いきれない。ロザリーヌが逃げたであろうミーミルへ行かなければレトの命が……。
ついでに報告すると、カルドもいなくなった。
シュヴェルタルの件が終わってから一度も姿を見かけていない。もうココルから離れて別の場所に行っているのかもしれん。
契約の内容じゃシュヴェルタル討伐まで俺達のパーティに所属する事になっている。
シュヴェルタルが消えては解約という事になろうが、あの頼りになるヤツを手放したくない。カルドにはいつまでも俺のパーティに所属してほしいものだ。
行かねばならない場所もやる事も重なっている。もうココルに滞在している理由を失ってはいつまでも留まってはいられん。
「テレサ……」
ココルの自然多い風景を見ながら、姿の見えない少女を考える。
あっという間だった。この二週間程の生活は大変であり、楽しくもあった。
素晴らしい仲間だった。もっと一緒にいたかった。
旅に連れていくのは難しい。パーティのメンバーと言ってもテレサはココルの住人だ。
シュヴェルタルも死ぬほど大変だったが、これからも危険な出来事が何度も立ちはだかろう。
モンスターとの遭遇に加えて、ロギニの存在……懸念となる障害がこの旅路には潜んでいる。測り難い困難が待ち構えてる気がしてならない。そんな旅に連れていくには、テレサは一切の因縁が繋がっていないのだ。
テレサと一緒に居れるのは今日まで。村を去れば自然に脱退という形になる。
ココルを出る前に挨拶していきたいところだが……いや、会うのはやめよう。
というのも、なんと言ったらいいのか言葉が出なかったりする。テレサも別れを告げられて悲しんでしまいそうだ。
辛気臭くなるのは好きじゃない。本当に名残惜しいことだが、黙って此処を出よう。
「じゃあな、また会う日まで……」
さようなら、テレサ。
これでお別れ……ってことになるか。長らくココルには行けなくなる。二度とこの地を踏めるのかも分からないな。
……もし旅を終えたなら、また会いに行こう。溜まった土産話をたくさん語って、楽しいひと時を過ごそう。
うん、それがいい。終わった後の楽しみが増えた。
踵を返した後の足取りが鈍い。潜在する拒絶の意思が前進を阻む。
未練の残っていることを認めつつも、振り切ろうと四肢を無理やりに動かして駆け出そうとする。
「きゃっ!?」
「おわぁっ!?」
ココルをバックにダッシュしかけた途端、目の前にいたテレサとぶつかる。
一緒に転倒。うっかりキスしてしまいそうになる距離に顔が見合う。歌は流れないけどさ。
「あっ、す、すまんっ、つい……!」
「いえ……謝ることはありませんよ」
またビンタされるんじゃないかと身構えたが、特に怒ってる節はなかった。
身を起こし、ぱたぱたと埃を叩き落とすテレサに違和感を得る。よく見ると、村で居過ごしている時とは異なる格好になってるのに気付いた。
「どうしたんだよ、その服は?」
外套を羽織り、杖を持って、荷物の入った小袋を身に着けている。
まるで遠出に行く身なり。旅に出ていかんばかりの装いに首を傾げる。今から遠出するのだろうか?
「これは村長さんが用意してくれたんです。事情をお話したら貰い受けまして……」
「へ?」
「それから長らくお家を空けることになるので鍵を預けておきました。準備もある程度いいかと」
「え? え? あ、あの、何の話?」
準備……?
全く意味が分からない。何の準備なのか、一体テレサは何を始めようとしているのか。
「決めたことがあるんです」
よく呑み込めていないうちに、真っすぐな瞳が俺を捉える。そこに宿していた光は、揺るぎのない意思を抱いていた。
「シンジさん──私は貴方について行きます」
言葉は強く、深く響く。
暖かく、撫でるような風のようだった。
先のテレサの言動、身に付けた装備の解はつまるところこういう事だった。
まさかついてくれるとは予想外で、すぐに快諾してもいいのに複数の感情が混ざる。
「ついていくって……本気で言ってんのかよ? ココルを離れて……村長や村の奴らが心配するだろ」
「パーティに入ったんですよ? だったら一緒にいるのが普通じゃないですか」
「気持ちは嬉しいけどさ、俺のパーティは他と違うんだ。モンスター狩りよりもきっとキツい目に遭うかもしれないんだぜ?」
「知っていますよ。だからついて行くんです」
意志は頑強で撤回はしなかった。
覚悟の表明だ。こうも言っては嘘も偽りも無いことがよく伝わってくる。
テレサの眉が少し儚げに傾いて、
「他にも理由があるんですけど……一緒に居たいのが一番なんです。これが理由じゃダメですか?」
「……」
ダメなわけ……ないじゃないか。
行きたいと頼まれて誰が断れるってんだ。テレサに、一緒にいてくれた仲間に頼まれるなんて嬉しいに決まってる。
顔の奥がツンとなる感覚。熱いものが溢れ出そうになって、何とかそれを内側に押し留める。
「シンジさん? どうしたんですか?」
「なんでもない。改めてよろしくな、テレサ!」
「あ……はいっ! 私のほうこそよろしくお願いします!」
その快い返事には、ある種の力が込められている。まるでこの先の未来を明るく照らすような力が。
「それで……レトさんはまだ見つかっていないんですか?」
「まあな。でもミーミルにいるはずなんだ」
「そうなのですか? じゃあ早く行きましょう。きっとシンジさんを待っていますから」
笑顔で手を取ってくれて、一緒にミーミルのある方角に伸びた道を進む。
新たな旅立ち。次は新たな仲間を伴に。
新しいいつかの日のように寂しく、それでも頼を横に、次なる地──未知なる世界への路を歩み始める。
目指すはミーミル、そしてオンディーヌ水鏡窟。
ソールの話を聞くに、そこはかつてアプスがいた。
音信の途絶えたアプスが一体どうなったのか。ロギニが彼をどうしてやったのか。
謎や問題はあるけど、道を進む足取りはちっとも重くなかった。
迂闊にも持って行かなかったとは相当慌てていたようだ。
ロザリーヌの身柄は逃げられたこともあり、確保は一旦お預けとなった。
ミーミルに逃げようが同じことだ。被疑が重なっては何処までも法は追いかけてくるだろう。
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村長や村人に尋ねても、全員誰もやっていないと答えるだけで告発者は判明しなかった。
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……と、一つ問題が片付いたところで、問題がさてまた一つ。
「いねぇ────っ!!」
レトがいない。ロザリーヌ邸の何処を探しても探してもレトの姿は見つからなかった。
痕跡はあるが、呼びかけても出てこず、村人や同業者に尋ねてもレトの目撃情報は出なかった。
「ったく、どこに消えたっていうんだよ……」
見つからぬレトの行方に溜息をつく。ここまで姿を出さないということは、拐かされたって線もあり得る。
行方を知っているとすれば……ロザリーヌ! お嬢様しか考えられない。
ロザリーヌ邸を脱出した後、レトは追いかけられたはず。お嬢様ならレトをどうしたのか知ってるはず。というか彼女が……あっ。
「まさか……殺処分したって事は無いよな?」
嫌な可能性が頭を過ぎった。
妄想の中のロザリーヌがおほほと笑いながら、レトをオモチャ扱い又は毛皮にしてあげますわーと魔の手を伸ばしている。レト、絶体絶命の危機!
ラーダは貴重な生物。毛皮も希少な価値がある。ラーダという存在が現在どれだけの人が知っているかは不明だが、ロザリーヌの目にはただの生き物には映らまい。今頃はレトの毛皮が上着になっちゃったり……。
「早く助けに行かねーと……」
違うと信じたいけど、なんとなくあのお嬢様がやりそうだから焦りが拭いきれない。ロザリーヌが逃げたであろうミーミルへ行かなければレトの命が……。
ついでに報告すると、カルドもいなくなった。
シュヴェルタルの件が終わってから一度も姿を見かけていない。もうココルから離れて別の場所に行っているのかもしれん。
契約の内容じゃシュヴェルタル討伐まで俺達のパーティに所属する事になっている。
シュヴェルタルが消えては解約という事になろうが、あの頼りになるヤツを手放したくない。カルドにはいつまでも俺のパーティに所属してほしいものだ。
行かねばならない場所もやる事も重なっている。もうココルに滞在している理由を失ってはいつまでも留まってはいられん。
「テレサ……」
ココルの自然多い風景を見ながら、姿の見えない少女を考える。
あっという間だった。この二週間程の生活は大変であり、楽しくもあった。
素晴らしい仲間だった。もっと一緒にいたかった。
旅に連れていくのは難しい。パーティのメンバーと言ってもテレサはココルの住人だ。
シュヴェルタルも死ぬほど大変だったが、これからも危険な出来事が何度も立ちはだかろう。
モンスターとの遭遇に加えて、ロギニの存在……懸念となる障害がこの旅路には潜んでいる。測り難い困難が待ち構えてる気がしてならない。そんな旅に連れていくには、テレサは一切の因縁が繋がっていないのだ。
テレサと一緒に居れるのは今日まで。村を去れば自然に脱退という形になる。
ココルを出る前に挨拶していきたいところだが……いや、会うのはやめよう。
というのも、なんと言ったらいいのか言葉が出なかったりする。テレサも別れを告げられて悲しんでしまいそうだ。
辛気臭くなるのは好きじゃない。本当に名残惜しいことだが、黙って此処を出よう。
「じゃあな、また会う日まで……」
さようなら、テレサ。
これでお別れ……ってことになるか。長らくココルには行けなくなる。二度とこの地を踏めるのかも分からないな。
……もし旅を終えたなら、また会いに行こう。溜まった土産話をたくさん語って、楽しいひと時を過ごそう。
うん、それがいい。終わった後の楽しみが増えた。
踵を返した後の足取りが鈍い。潜在する拒絶の意思が前進を阻む。
未練の残っていることを認めつつも、振り切ろうと四肢を無理やりに動かして駆け出そうとする。
「きゃっ!?」
「おわぁっ!?」
ココルをバックにダッシュしかけた途端、目の前にいたテレサとぶつかる。
一緒に転倒。うっかりキスしてしまいそうになる距離に顔が見合う。歌は流れないけどさ。
「あっ、す、すまんっ、つい……!」
「いえ……謝ることはありませんよ」
またビンタされるんじゃないかと身構えたが、特に怒ってる節はなかった。
身を起こし、ぱたぱたと埃を叩き落とすテレサに違和感を得る。よく見ると、村で居過ごしている時とは異なる格好になってるのに気付いた。
「どうしたんだよ、その服は?」
外套を羽織り、杖を持って、荷物の入った小袋を身に着けている。
まるで遠出に行く身なり。旅に出ていかんばかりの装いに首を傾げる。今から遠出するのだろうか?
「これは村長さんが用意してくれたんです。事情をお話したら貰い受けまして……」
「へ?」
「それから長らくお家を空けることになるので鍵を預けておきました。準備もある程度いいかと」
「え? え? あ、あの、何の話?」
準備……?
全く意味が分からない。何の準備なのか、一体テレサは何を始めようとしているのか。
「決めたことがあるんです」
よく呑み込めていないうちに、真っすぐな瞳が俺を捉える。そこに宿していた光は、揺るぎのない意思を抱いていた。
「シンジさん──私は貴方について行きます」
言葉は強く、深く響く。
暖かく、撫でるような風のようだった。
先のテレサの言動、身に付けた装備の解はつまるところこういう事だった。
まさかついてくれるとは予想外で、すぐに快諾してもいいのに複数の感情が混ざる。
「ついていくって……本気で言ってんのかよ? ココルを離れて……村長や村の奴らが心配するだろ」
「パーティに入ったんですよ? だったら一緒にいるのが普通じゃないですか」
「気持ちは嬉しいけどさ、俺のパーティは他と違うんだ。モンスター狩りよりもきっとキツい目に遭うかもしれないんだぜ?」
「知っていますよ。だからついて行くんです」
意志は頑強で撤回はしなかった。
覚悟の表明だ。こうも言っては嘘も偽りも無いことがよく伝わってくる。
テレサの眉が少し儚げに傾いて、
「他にも理由があるんですけど……一緒に居たいのが一番なんです。これが理由じゃダメですか?」
「……」
ダメなわけ……ないじゃないか。
行きたいと頼まれて誰が断れるってんだ。テレサに、一緒にいてくれた仲間に頼まれるなんて嬉しいに決まってる。
顔の奥がツンとなる感覚。熱いものが溢れ出そうになって、何とかそれを内側に押し留める。
「シンジさん? どうしたんですか?」
「なんでもない。改めてよろしくな、テレサ!」
「あ……はいっ! 私のほうこそよろしくお願いします!」
その快い返事には、ある種の力が込められている。まるでこの先の未来を明るく照らすような力が。
「それで……レトさんはまだ見つかっていないんですか?」
「まあな。でもミーミルにいるはずなんだ」
「そうなのですか? じゃあ早く行きましょう。きっとシンジさんを待っていますから」
笑顔で手を取ってくれて、一緒にミーミルのある方角に伸びた道を進む。
新たな旅立ち。次は新たな仲間を伴に。
新しいいつかの日のように寂しく、それでも頼を横に、次なる地──未知なる世界への路を歩み始める。
目指すはミーミル、そしてオンディーヌ水鏡窟。
ソールの話を聞くに、そこはかつてアプスがいた。
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