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全てを食らうもの編
単身赴任2
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リガの街
「お待たせしました」
「いえユーゴ殿。とんでもない」
(雰囲気も感じる強さも変わらない。だが、そんなことはないはずだ…)
屋敷から出て来たユーゴの様子を確認したドナートであったが、特に変わりはない様であった。しかし、今でも定期的に届くリリアーナからの手紙を読むに、かなりの子煩悩で愛妻家であるはずなのだ。そんな彼の様子が変わっていないという事は、この危機に何とも思っていないのか、もしくは…
(私では分からない程の力が渦巻いているかもしれん…)
元勇者であったドナートでも感知できない程に高まっているか、それすらも完璧にコントロールしているかであった。
「司祭。ご苦労でした。海の国へは予定通り私が」
「はっ」
いずれにしても、ユーゴの扱いは慎重に行うことに変わりは無かった。以前リリアーナ出産のお祝いに派遣され、この屋敷の座標を知っていた司祭を労い、後はドナート自身がユーゴを連れて、海の国に転移することになっていた。変な者に彼を任せる訳にはいかず、幸いにもドナートが勇者時代に各地に派遣された中に、海の国の王都もあり転移出来た。
「ご不快と思われるかもしれませんが、海の国の方々は、ユーゴ殿を国賓として招かれようとしていましたが、ユーゴ殿本人が望まれていないと、我々が止めさせていただきました。どうかお許しください」
「いえ。むしろ、心から感謝しています。本当に」
実は、ユーゴの扱いをめぐって一騒動あった。
海の国からすればユーゴは、神々から指名されて、正体不明の怪物から国を守ってくれる、まさしく神の使いなのだ。
そのため、軍が全面展開している緊急時ではあったが、なんとか国を挙げての国賓として招こうとしていた。
しかしそこで、勇者ビアジの通信魔具を経由して、どのような人物でどのような歓待をすればよいかと聞いて来た海の国の来賓担当者に、祈りの国のドナートとベルトルドが待ったをかけた。
リリアーナ護衛のため祈りの国に招いた際に、ユーゴが必要以上に目立つことを好まないことを知っていた彼等は、出来るだけ出迎えは抑えるようにと要請したのだ。しかし、来賓担当者としては当然頷くことが出来ず、最終的には海の国の国王までもが通信に出て、ユーゴが不快に思っても祈りの国が責任を持つという事で、彼の扱いが決着したのだ。
(流石にパレードとかそんなのは勘弁)
そういう経緯があった訳だが、産まれも根も小市民なユーゴにとって、祈りの国の気遣いはありがたいものであった。もし国民の歓声の中、馬に乗って大通りを移動することになっていたら、ユーゴは赤面して顔を上げられなかっただろう。
「それでは早速」
「ええ。お願いします」
(着いたと同時に結界の位置分からねえかなあ)
まだまだ、日帰りする事を諦めていないユーゴであった。
◆
海の国 玉座の間
「ユーゴ殿。我が国の危機に駆けつけてくれて感謝している」
「はっ。ありがとうございます」
(ダメだ緊張する!)
ユーゴのためにわざわざ王城の転移阻害を切っていたため、移動はすんなりと出来たが、ユーゴは王城に着くなり来賓担当官と女官に丁重に連れ去られ、気がつけば畏まった服を着て、玉座の間で国王から労いの言葉を掛けられていた。
「この国難に、どうか神々の使徒たる貴殿の力を貸してほしい」
「はっ。微力を尽くします」
(言葉使い間違ってねえよな!?)
いくら祈りの国から要請があったとしても、海の国にも面子がある。公式の客人として武官文官が集う玉座の間で、神の使いとして来ているユーゴに、国王自らが感謝の言葉を伝えるが、当のユーゴと言えばガチガチに緊張していた。
(早く終われ!)
単なる市民として暮らしていたユーゴに、このような場に出た経験が当然あるはずも無く、位にあった作法なども全く知らなかった。
そのため、竜と戦おうが闇組織と敵対しようが、剣の国の王城にこっそり忍び込んだ時にも緊張しなかったこの男は、今現在、生涯最大級の緊張を感じており、一刻も早く終わることを願っていた。
「堅苦しい挨拶も終えるとしよう。案内の者を付けるので、どうか部屋でゆっくりして欲しい」
「はっ。ありがとうございます」
(よかったすぐ終わった!)
内心すぐ終わったことに安堵していたユーゴであったが、実はこれ、海の国の国王が、どうもユーゴが緊張している様だと気を効かせて、速く打ち切ったのだ。
ユーゴも普段と同じく、内心を表に出すことは決してしていなかったが、人と面会をする事も仕事な国王は更に上手だった。
国王は、元勇者ドナートですら出来なかった、ユーゴの雰囲気を感じるという偉業を成し遂げたのだ。
なお彼の妻達は皆これができる。
◆
コンコン
「はいどうぞ」
客室に案内されて、中でぐったりしていたユーゴであったが、そう間を置かずに扉がノックされた。
「失礼しますぞユーゴ殿」
「おおこれは。大将軍になられたと聞いています。おめでとうございます」
(流石に歳を取ったな。以前はまだ武人らしい体つきだったが)
「こ、これはありがとうございます」
(あ、あの青年が落ち着いたものだ…)
入って来たのは海の国の大将軍であった。
ユーゴと大将軍は、それぞれ以前会った時のイメージとはかなり違うと驚く。特にユーゴの力を恐れている大将軍の驚きは、ユーゴの驚きよりも遥かに上だった。
「ご用件は何でしょうか?」
「そ、そうでした。これから祈りの国のベルトルド総長も交えての会議がありますので、是非ご出席いただければと思いまして」
「分かりました」
ユーゴよりも一足先にベルトルド総長も海の国に入っており、現地で勇者や守護騎士団の指揮を執っていた。祈りの国での支援は、帰国したドナートが代表を務める。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ。ご案内します」
(神々よ。どうか結界の位置を早く特定して下され。彼がこの国にいると、この老いぼれの心臓が…)
「お願いします」
(早く終わらせて帰りたい)
2人とも、この騒動が一刻も早く終わることを心から望んでいた。
◆
「このクソッタレの首長竜め!どうやったら死ぬんだよ!とっととくたばれや!」
ー"かつての暴風"ユーゴー
「うっ。頭痛が」
ー守護騎士団総長ベルトルドー
「うっ。心臓が」
ー海の国大将軍ー
「お待たせしました」
「いえユーゴ殿。とんでもない」
(雰囲気も感じる強さも変わらない。だが、そんなことはないはずだ…)
屋敷から出て来たユーゴの様子を確認したドナートであったが、特に変わりはない様であった。しかし、今でも定期的に届くリリアーナからの手紙を読むに、かなりの子煩悩で愛妻家であるはずなのだ。そんな彼の様子が変わっていないという事は、この危機に何とも思っていないのか、もしくは…
(私では分からない程の力が渦巻いているかもしれん…)
元勇者であったドナートでも感知できない程に高まっているか、それすらも完璧にコントロールしているかであった。
「司祭。ご苦労でした。海の国へは予定通り私が」
「はっ」
いずれにしても、ユーゴの扱いは慎重に行うことに変わりは無かった。以前リリアーナ出産のお祝いに派遣され、この屋敷の座標を知っていた司祭を労い、後はドナート自身がユーゴを連れて、海の国に転移することになっていた。変な者に彼を任せる訳にはいかず、幸いにもドナートが勇者時代に各地に派遣された中に、海の国の王都もあり転移出来た。
「ご不快と思われるかもしれませんが、海の国の方々は、ユーゴ殿を国賓として招かれようとしていましたが、ユーゴ殿本人が望まれていないと、我々が止めさせていただきました。どうかお許しください」
「いえ。むしろ、心から感謝しています。本当に」
実は、ユーゴの扱いをめぐって一騒動あった。
海の国からすればユーゴは、神々から指名されて、正体不明の怪物から国を守ってくれる、まさしく神の使いなのだ。
そのため、軍が全面展開している緊急時ではあったが、なんとか国を挙げての国賓として招こうとしていた。
しかしそこで、勇者ビアジの通信魔具を経由して、どのような人物でどのような歓待をすればよいかと聞いて来た海の国の来賓担当者に、祈りの国のドナートとベルトルドが待ったをかけた。
リリアーナ護衛のため祈りの国に招いた際に、ユーゴが必要以上に目立つことを好まないことを知っていた彼等は、出来るだけ出迎えは抑えるようにと要請したのだ。しかし、来賓担当者としては当然頷くことが出来ず、最終的には海の国の国王までもが通信に出て、ユーゴが不快に思っても祈りの国が責任を持つという事で、彼の扱いが決着したのだ。
(流石にパレードとかそんなのは勘弁)
そういう経緯があった訳だが、産まれも根も小市民なユーゴにとって、祈りの国の気遣いはありがたいものであった。もし国民の歓声の中、馬に乗って大通りを移動することになっていたら、ユーゴは赤面して顔を上げられなかっただろう。
「それでは早速」
「ええ。お願いします」
(着いたと同時に結界の位置分からねえかなあ)
まだまだ、日帰りする事を諦めていないユーゴであった。
◆
海の国 玉座の間
「ユーゴ殿。我が国の危機に駆けつけてくれて感謝している」
「はっ。ありがとうございます」
(ダメだ緊張する!)
ユーゴのためにわざわざ王城の転移阻害を切っていたため、移動はすんなりと出来たが、ユーゴは王城に着くなり来賓担当官と女官に丁重に連れ去られ、気がつけば畏まった服を着て、玉座の間で国王から労いの言葉を掛けられていた。
「この国難に、どうか神々の使徒たる貴殿の力を貸してほしい」
「はっ。微力を尽くします」
(言葉使い間違ってねえよな!?)
いくら祈りの国から要請があったとしても、海の国にも面子がある。公式の客人として武官文官が集う玉座の間で、神の使いとして来ているユーゴに、国王自らが感謝の言葉を伝えるが、当のユーゴと言えばガチガチに緊張していた。
(早く終われ!)
単なる市民として暮らしていたユーゴに、このような場に出た経験が当然あるはずも無く、位にあった作法なども全く知らなかった。
そのため、竜と戦おうが闇組織と敵対しようが、剣の国の王城にこっそり忍び込んだ時にも緊張しなかったこの男は、今現在、生涯最大級の緊張を感じており、一刻も早く終わることを願っていた。
「堅苦しい挨拶も終えるとしよう。案内の者を付けるので、どうか部屋でゆっくりして欲しい」
「はっ。ありがとうございます」
(よかったすぐ終わった!)
内心すぐ終わったことに安堵していたユーゴであったが、実はこれ、海の国の国王が、どうもユーゴが緊張している様だと気を効かせて、速く打ち切ったのだ。
ユーゴも普段と同じく、内心を表に出すことは決してしていなかったが、人と面会をする事も仕事な国王は更に上手だった。
国王は、元勇者ドナートですら出来なかった、ユーゴの雰囲気を感じるという偉業を成し遂げたのだ。
なお彼の妻達は皆これができる。
◆
コンコン
「はいどうぞ」
客室に案内されて、中でぐったりしていたユーゴであったが、そう間を置かずに扉がノックされた。
「失礼しますぞユーゴ殿」
「おおこれは。大将軍になられたと聞いています。おめでとうございます」
(流石に歳を取ったな。以前はまだ武人らしい体つきだったが)
「こ、これはありがとうございます」
(あ、あの青年が落ち着いたものだ…)
入って来たのは海の国の大将軍であった。
ユーゴと大将軍は、それぞれ以前会った時のイメージとはかなり違うと驚く。特にユーゴの力を恐れている大将軍の驚きは、ユーゴの驚きよりも遥かに上だった。
「ご用件は何でしょうか?」
「そ、そうでした。これから祈りの国のベルトルド総長も交えての会議がありますので、是非ご出席いただければと思いまして」
「分かりました」
ユーゴよりも一足先にベルトルド総長も海の国に入っており、現地で勇者や守護騎士団の指揮を執っていた。祈りの国での支援は、帰国したドナートが代表を務める。
「ありがとうございます。どうぞこちらへ。ご案内します」
(神々よ。どうか結界の位置を早く特定して下され。彼がこの国にいると、この老いぼれの心臓が…)
「お願いします」
(早く終わらせて帰りたい)
2人とも、この騒動が一刻も早く終わることを心から望んでいた。
◆
「このクソッタレの首長竜め!どうやったら死ぬんだよ!とっととくたばれや!」
ー"かつての暴風"ユーゴー
「うっ。頭痛が」
ー守護騎士団総長ベルトルドー
「うっ。心臓が」
ー海の国大将軍ー
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そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
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