その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

文字の大きさ
118 / 172
小大陸編

母親

しおりを挟む
海の国 船着き場

「どんどん進んでるけど、場所分かるのかい?」

「ああ。エルフの気配ならね。古い生まれは、魔法が飛び交う中でも連携出来るようになってたんだ」

最初の会議が終わると、すぐにドロテアとユーゴは、大船団が停泊している街の港へと訪れていた。
会議自体はやはり最初という事もあり、現状の確認で終始していた。

「それにしても、やっぱり俺が行った方がいいのかね?」

「まあ、案の一つではあるがね。普通なら、根絶やしにするなんて無理だから諦めた方がいいんだが…」

「統制してるっぽい奴を、仕留めればひょっとすると?」

「話しを聞く限りではね。まあ、その計画も荒れた土地の復旧って問題があるけど、こっちでいきなり開墾するよりは現実的かもね。きちんと支援があるならだけど」

この大陸は広大であるも、土地が余っているわけでは無いのだ。人種達が魔物を減らしながら徐々に広げていったため、いきなり大勢の難民たちを受け入れる基盤は無かった。

それよりかは、小大陸の話を聞く限り存在しているとみられる、人種を攻撃するために魔物達を統制している個体を倒して、ある程度残っているであろうインフラを利用するのも手であった。

「ああ…やっぱりこの船だ」

「一番デカい奴か。ダンプカーよりデカいじゃん」

どこか懐かしそうな、寂しそうに見るドロテアの視線の先は、大船団の中で最も大ききな白亜の船であった。

「こいつが船神の遺骸から出来た奴だ。他の一回り小さいのは、これが生み出したコピーだね。魔力と魔石をかなり使うが、それでも普通に作るよりもずっと楽だ」

「ほほう。こんなもんを量産できるなら、船の国は覇権国家だったのかね?」

「いや、多分人種同士の軍事目的には使えんだろうさ。船神の意志は、あくまで人種の生存圏を広げる事だったからね。使おうとしても言う事を聞かんだろう」

「なるほどね」

そう言いながら近付く2人であったが、近付くとさらに船の威容が窺えた。上を見るのに首を上げるどころか、体も反らさねばならない程であったのだ。

「ああ、丁度いい。そこのエルフの坊や。すまないが、この手紙の宛先がやって来たと伝えて欲しい。ソフィアを頼むと、ユギから送られてきてね」

「ユ、ユギ様の手紙!?しょ、少々お待ちください!」

ドロテアは、偶々船の近くにいたエルフの青年に、手紙を出して用件を伝える。すると青年は驚いた表情を浮かべ、慌てて船の中へ入って行った。

「妹さん結構有名人?」

「こっちを発った時に、この船のリーダーの1人だったからね。最近まで生きてたんなら有名だろう」

「ははあ」
(だから幾つだよ…)

それから待つこと少々。

「お、お待たせしました。サンドラ様の下へご案内します」

先程の青年が息を切らせながら帰って来た。船の大きさを考えると、素晴らしい速さである。

「ありがとよ。ついでに教えて欲しんだが、サンドラってのは?」

「この船の船長を務めている方で、ソフィア様の御母上になります」

「つまりユギの血を?」

「いえ、サンドラ様の夫君であったアンバー様が、ユギ様の御一族でした」

「…そのアンバーってのは?」

「魔物達の戦いでお亡くなりに…」

「はあ…」

切なそうなため息をつくドロテアを、ユーゴが心配そうに見ながらも、船の中をどんどんと上がっていく。

「こちらが船長室になります」

「ありがとよ」

かなり長い階段を昇りながら、巨大な船で最も高い艦橋の様な場所に案内された。

「失礼します。お客様をお連れしました」

「どうぞ」

「邪魔するよ」

中にいたのは話の通り女性のエルフであったが、その美しさは強い疲労の色を浮かべて、陰りを見せていた。

「あなたがユギ様が手紙を送られた…?」

「ドロテアっていう。あいつの姉さ」

「姉!?姉君がおられたのですか!?」

ドロテアに視線を向けて話をする女性のエルフ、サンドラは姉という言葉に驚愕の表情を浮かべていた。

「あいつは何も言ってないのかい?」

「いえ、頼りになる人にソフィアの事を頼むとだけ…」

「全く…」

どうやらかなり説明を省いていたらしく、サンドラもどうしていいのか分からないらしい。

「その…。失礼ですが、ユギ様から確認のための質問を受け取っていまして…」

「なんだい?」

どうやら一応の確認のため、サンドラはユギから何か言われているらしい。

「『私の番号は?』と」

「はあ…。無い。あの子はイレギュラーだった」

「ありがとうございます」

何処か苦々し気な、よりによってその質問は無いだろうといったドロテアの反応であったが、正解であったらしくサンドラは頷いていた。

「それでユギは?」

「それが…。防衛線が破られた時に、時間を稼ぐために全力の結界を張られて…」

「馬鹿め…」

ユーゴが聞いて来た中で、最も悲しそうな声であった。

「…墓はあるかい?」

「我々が出港した港に簡素ながら…」

サンドラにとっても無念極まりないのだろう。俯いて声を震わせていた。

「そうかい。まあそっちは後で行くとして、ソフィアってのは?」

「え?は、はい。ユギ様の血を引いていた夫との子でして…」

「幾つだい?」

「3つになります…」

「ユギめ。本当に丸投げしたね」

(3つか…)

ユーゴはドロテアの調子が戻り、呆れたような声を出しているのを聞きながら、そのソフィアを自分の子達と重ね合わせていた。
父親を亡くし、顔色を見るに母親ともそう会える時間があるとも思えず、不安渦巻く船という閉鎖空間にいるのだ。決していい環境では無いだろう。

「今はどうしてるんだい?」

「子供を持っている者が、交代で見てくれてはいますが…」

「あんたもそいつらも、そう時間が取れない?」

「はい…」

代表の1人であるサンドラは、昼も夜も船の人員の調整や指示と決定をする立場にあり、まさに寝る暇もない有様で、殆ど自分の子供に会えていなかった。

「分かった。落ち着くまでウチで預かっておくよ」

「え?ドロテア様?」

「婆さんとこも人居らんだろう…」

「ここよりはマシさ。店も休む」

現在ドロテアの薬屋には玄孫が1人いるだけで、余裕がある分けでも無かった。

「それに婆さん自体は向こうに行くつもりだろ?」

「単なる魔物の襲撃ならとにかく、原因があったらお礼参りをしないといけないからね」

「あ、あの?」

話についていけないサンドラは困惑するが、彼女を置いて話はどんどん進んでいく。

「それならいっそウチに預けたらいい。リリアーナも喜ぶ。というかそうしろ。あんな怪しげな薬を置いてあるトコに、3つの子を置けれんよ」

「む…。それはだね…」

「いいから。な?迷惑とも思ってない」

珍しく言い淀むドロテアを、ユーゴが説得する。
どうやら迷惑を掛け過ぎていると思っているらしいが、ユーゴが押し切る。

「はあ…。お願いしていいかい?」

「お任せあれ」

「あの…」

「ああ、ほったらかしにして悪かったね」

ドロテアの結論が出たところで、サンドラに向き直る。

「この坊やの所にソフィアを預かってもらう事になった。母親と別れるのは酷だろうが、元々ほとんど会えていないんなら、その方がいい。仕方ないんだが、ここは少し澱んでるからね」

「必ず守り通します。ご安心ください」

「え、あの?」

全くサンドラの意見が入ることなく決められた事案であったが、ドロテアは、命からがら逃げてきたため仕方ないが、この船の澱みを感じており、元々母と会えないなら、リガの街のユーゴ邸に預けたほうがいいと判断した。

ドロテアにとっても、リリアーナなら任せられるし、ユーゴの屋敷は彼が人知れず集めていた遺物による防備や、ほぼ人種では打倒不可能なポチとタマがいるため、安全面でも文句なかった。

「あんまり娘を、この船に置いておきたくないんだろう?」

「それは…そうです…」

サンドラにとっても、先の見えない不安から、徐々に争いが起き始めている船の中に、娘を置いておくのは不安であった。
万が一でも、娘に危害が加えられるとも限らないのだ。

「決まりだね。そのソフィアって子を呼んでおくれ」

「はい」

サンドラも決断した。今生の分かれではないのだ。安全な場所に居るに越した事はない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...