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小大陸編
怪物の道
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リガの街 ユーゴ邸
「ふうむ…」
「どうしましたドロテア様?」
リビングの、ユーゴお気に入りのソファで、目を瞑りながらため息をつくドロテアに、リリアーナが質問する。
「どうも思ったより、小大陸の魔物が多いらしい。たまに坊やの力の波動が届いて来る」
「それは…」
「ああ。大穴がいくつか出来上がってるかもね。それか、山の一つか二つが無くなってるかだ」
「まあ」
夫がひょっとして苦戦しているのではないかと、心配になってしまったリリアーナであったが、ドロテアからの返事は、斜め上なものであった。
「フェッフェッ。まあ誰も文句は言わんだろう。元は失った土地だ。それに、若い頃ならともかく、今の坊やなら必要以上に壊す事はないさ」
自分の力の制御の甘かった、若い頃のユーゴならともかく、今の完成したと言っていい彼なら、大穴が出来ていても必要だったのだろうと思うドロテア。
「あらあら。お若い頃の旦那様はどういった方でしたの?」
愛している夫の若い頃と聞いて、つい食いついてしまうリリアーナ。
「フェッフェッ。会ったばかりの頃は、かなりびくついてたね。どうも見知らぬ土地で、一人でいるのが不安だったらしい。ま、そのせいで、力の抑制自体は出来てたから、あんなとんでもない坊やだったとは思わなかったけどね。一見すれば、育ちがいい子が、急に街に出た様な気弱そうな子だったよ」
「まあまあ。そんな事が」
頼もしい夫の意外な昔話を聞きながら、今度甘やかしてあげようと決心するリリアーナ。
「まあ力の抑えが出来てたのはよかった。じゃないと人里に近づいただけで、えらい事になってた」
「うふふ。そうですね」
そうでないと、若い頃の彼はどこにも行けなかっただろう。当時の彼が人里に出れば、その力に当てられて、泡を吹いて倒れる者が続出する事になっていた。
「くりすくんだめだよ。おねえちゃんのかみをたべちゃ」
「ぱー?」
「ぱーぱ」
「ああそうさ。お前さん達の親父さ」
ソファの足元でソフィアと遊んでいたコレットとクリスは、首を傾げながらドロテアを見つめる。
「1人寂しくいた時間が多いせいか、その分家族に対する愛着が大きい。そのせいで、ダメ親父一直線だから、必要とあれば尻を蹴飛ばしてあげな」
「うふふ」
子供達を抱き上げて、笑み崩れている夫の姿を思い出して、思わず笑ってしまうリリアーナであった。
◆
小大陸
(いくら何でも多すぎる。昔、魔物を生み続けてた、女王蟻みたいな奴と会ったが、こいつらは比じゃないぞ)
一旦気絶したマイクを海の国に戻したユーゴは、再び小大陸に赴き魔物の間引きを行っていたが、減らしても減らしても、尽きる事が無いのではと思わせるほどに、魔物達は現れていた。
小大陸を陥落せしめた魔物の群れたちは、まさに天地を埋め尽くしていたのだ。
が。
ユーゴから一定の距離を詰めれない。
ある程度接近すると、まるでいなかったの様に消失していた。
(港町から奥へ行くほど多くなるな。このまま真っ直ぐ行ったら原因に会えないかな…)
見えざる怪物の腕が、魔物達を木っ端微塵に吹き飛ばし、ほんの僅かな塵のみが先程まで魔物達がいた証となる。
しかし、それでも魔物達は止まらない。ある次元のレミングという生物は、自分達の数が増えると崖から飛び降り、集団自殺を行うと誤解されていたが、まさに彼等は集団自殺の様に歩みを止めない。ただひたすら前進するのみである。
(帰ったら子供達用に知育ブロック作ろう。きっと気に入ってくれるはずだ。子供達…。コレットオオオオ!クリスウウウウ!パパは頑張ってるからねえええ!)
だがそんな物は、この怪物に何の脅威ではなかった。腕を振れば消え去る塵に、誰が危険を感じるというのだ。
怪物の単なる一歩を、地響きを立てながら突進する魔物達が止められない。
もし空から小大陸を見ている者がいれば、蠢く黒が少しづつ減っていき、元の大地の色が戻っていることに気がつくだろう。
前へ、前へ、前へ、前へ。
消失消失消失消失消失消失消失消失
(いい加減にしろ!一体どんだけいるんだよ!)
明らかに消え去る方が早かったが、それでもユーゴは慎重に、この小大陸に大きな傷跡を残さないようにしていた。
まさに、全ての生物が襲い掛かって来ている事態にも関わらずである。
彼らを単に絶滅させるだけなら、そう難しい事では無い。少しだけユーゴが力を込めて、小大陸中を移動するだけで終わる。しかし、それをすれば、魔物達だけではない。ちっぽけな虫や草木がそれに耐えられる筈がないのだ。
本当の意味で小大陸の生きとし生けるもの全ての命が失われるだろう。
この騒動後、小大陸に人が戻るなら、それは避けなければならない。
そのため、ベルトルド辺りなら自分の耳を疑うだろうが、ユーゴは慎重に事を進めていた。
例え、大穴が出来ようが、山が消し飛ぼうがである。
(はあ…。今週中には終わらせたい…。最悪でも半月以内…)
見る者が見れば、震えあがりながら誰が通ったか分かる、一目瞭然の痕跡を残しながら、怪物は進撃する。
後年、敬意と畏怖と、恐ろしさと感謝、良き意味と悪き意味を込めて呼ばれるようになる、"偉大なる道"を作り上げながら。
「ふうむ…」
「どうしましたドロテア様?」
リビングの、ユーゴお気に入りのソファで、目を瞑りながらため息をつくドロテアに、リリアーナが質問する。
「どうも思ったより、小大陸の魔物が多いらしい。たまに坊やの力の波動が届いて来る」
「それは…」
「ああ。大穴がいくつか出来上がってるかもね。それか、山の一つか二つが無くなってるかだ」
「まあ」
夫がひょっとして苦戦しているのではないかと、心配になってしまったリリアーナであったが、ドロテアからの返事は、斜め上なものであった。
「フェッフェッ。まあ誰も文句は言わんだろう。元は失った土地だ。それに、若い頃ならともかく、今の坊やなら必要以上に壊す事はないさ」
自分の力の制御の甘かった、若い頃のユーゴならともかく、今の完成したと言っていい彼なら、大穴が出来ていても必要だったのだろうと思うドロテア。
「あらあら。お若い頃の旦那様はどういった方でしたの?」
愛している夫の若い頃と聞いて、つい食いついてしまうリリアーナ。
「フェッフェッ。会ったばかりの頃は、かなりびくついてたね。どうも見知らぬ土地で、一人でいるのが不安だったらしい。ま、そのせいで、力の抑制自体は出来てたから、あんなとんでもない坊やだったとは思わなかったけどね。一見すれば、育ちがいい子が、急に街に出た様な気弱そうな子だったよ」
「まあまあ。そんな事が」
頼もしい夫の意外な昔話を聞きながら、今度甘やかしてあげようと決心するリリアーナ。
「まあ力の抑えが出来てたのはよかった。じゃないと人里に近づいただけで、えらい事になってた」
「うふふ。そうですね」
そうでないと、若い頃の彼はどこにも行けなかっただろう。当時の彼が人里に出れば、その力に当てられて、泡を吹いて倒れる者が続出する事になっていた。
「くりすくんだめだよ。おねえちゃんのかみをたべちゃ」
「ぱー?」
「ぱーぱ」
「ああそうさ。お前さん達の親父さ」
ソファの足元でソフィアと遊んでいたコレットとクリスは、首を傾げながらドロテアを見つめる。
「1人寂しくいた時間が多いせいか、その分家族に対する愛着が大きい。そのせいで、ダメ親父一直線だから、必要とあれば尻を蹴飛ばしてあげな」
「うふふ」
子供達を抱き上げて、笑み崩れている夫の姿を思い出して、思わず笑ってしまうリリアーナであった。
◆
小大陸
(いくら何でも多すぎる。昔、魔物を生み続けてた、女王蟻みたいな奴と会ったが、こいつらは比じゃないぞ)
一旦気絶したマイクを海の国に戻したユーゴは、再び小大陸に赴き魔物の間引きを行っていたが、減らしても減らしても、尽きる事が無いのではと思わせるほどに、魔物達は現れていた。
小大陸を陥落せしめた魔物の群れたちは、まさに天地を埋め尽くしていたのだ。
が。
ユーゴから一定の距離を詰めれない。
ある程度接近すると、まるでいなかったの様に消失していた。
(港町から奥へ行くほど多くなるな。このまま真っ直ぐ行ったら原因に会えないかな…)
見えざる怪物の腕が、魔物達を木っ端微塵に吹き飛ばし、ほんの僅かな塵のみが先程まで魔物達がいた証となる。
しかし、それでも魔物達は止まらない。ある次元のレミングという生物は、自分達の数が増えると崖から飛び降り、集団自殺を行うと誤解されていたが、まさに彼等は集団自殺の様に歩みを止めない。ただひたすら前進するのみである。
(帰ったら子供達用に知育ブロック作ろう。きっと気に入ってくれるはずだ。子供達…。コレットオオオオ!クリスウウウウ!パパは頑張ってるからねえええ!)
だがそんな物は、この怪物に何の脅威ではなかった。腕を振れば消え去る塵に、誰が危険を感じるというのだ。
怪物の単なる一歩を、地響きを立てながら突進する魔物達が止められない。
もし空から小大陸を見ている者がいれば、蠢く黒が少しづつ減っていき、元の大地の色が戻っていることに気がつくだろう。
前へ、前へ、前へ、前へ。
消失消失消失消失消失消失消失消失
(いい加減にしろ!一体どんだけいるんだよ!)
明らかに消え去る方が早かったが、それでもユーゴは慎重に、この小大陸に大きな傷跡を残さないようにしていた。
まさに、全ての生物が襲い掛かって来ている事態にも関わらずである。
彼らを単に絶滅させるだけなら、そう難しい事では無い。少しだけユーゴが力を込めて、小大陸中を移動するだけで終わる。しかし、それをすれば、魔物達だけではない。ちっぽけな虫や草木がそれに耐えられる筈がないのだ。
本当の意味で小大陸の生きとし生けるもの全ての命が失われるだろう。
この騒動後、小大陸に人が戻るなら、それは避けなければならない。
そのため、ベルトルド辺りなら自分の耳を疑うだろうが、ユーゴは慎重に事を進めていた。
例え、大穴が出来ようが、山が消し飛ぼうがである。
(はあ…。今週中には終わらせたい…。最悪でも半月以内…)
見る者が見れば、震えあがりながら誰が通ったか分かる、一目瞭然の痕跡を残しながら、怪物は進撃する。
後年、敬意と畏怖と、恐ろしさと感謝、良き意味と悪き意味を込めて呼ばれるようになる、"偉大なる道"を作り上げながら。
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