その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎

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はじまり

エルフの森

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(婆さんから魔法を取ったら、ただのヨボヨボババアの出来上がりじゃねえか。世界樹も破壊されるわけにはいかないし、しゃあない、また出張するか…)

 ドロテアから聞かされた、イライジャという男の能力が、目の前の老婆を本当にただの老婆にしてしまうと、その身を案じたユーゴが、世界樹の存続が人種の生存に直結していることもあって、エルフの森への同行を決めた。
 しかし世界の危機は思わぬところから始まっていた。
 それは……。

 ◆

「やだああああ!いっちゃやだああああ!うえええええん!」

「パパもバーバもいっちゃやだああああ!びええええええ!」

 クリスとコレットが、それはもう大泣きしていたのだ。
 最近、一緒に遊んでくれた、グレンとジェナの双子と別れたばかりだったこともあり、自分の父親とお婆ちゃんが、どうやら遠くに出かけようとしている事を察した2人は、ユーゴにしがみ付いて、泣きながらなんとか引き留めようとしていた。

 一方、世界の危機に対処しなければけない、彼等の父親と言えば……

「ぐすっ。ごめんよコレットぉぉ、クリスぅぅ……。ぐすっ。パパは、パパは行かないと行けないんだ。ごめんよおお……」

 しゃがんで自分の子供達をぎゅっと抱きしめながら、マジ泣きしていた。

 遂に子供達に引き留めて貰えた嬉し泣きなのか、本当に離れ離れになってしまって泣いているのか、どちらかは分からないが、あるいは両方、とにかく泣きながらコレットとクリスに謝り続けていた。

「コレット、ほら。パパを離してあげて」

「クリス、ママの所へ来て」

「やだああああああ!」

「うえええええええ!」

「もう…」

「どうしましょうか…」

 頼りの母親、ジネットとリリアーナも、父親と離れたくないと泣く我が子を叱る訳にもいかず、なんとかユーゴから引き剥がそうとするも、子供達は必死に服にしがみ付いて抵抗を続ける。

「あはは。困っちゃいましたねえ……」

「じゃのう……」

「ほら、凛お姉ちゃんのクマさん人形だぞー」

「クリス坊ちゃま、コレットお嬢様。さあこちらへ……」

「ひっぐひっぐ」

「うえええええ」

 他の家族もどうしたものかと、必死にあやしながら、最終兵器アレクシアが投入されたことで、何とか子供達の回収に成功する。

 そしてもう片方の、世界の危機に対処しなければならない、ドロテアの方はというと……

「お婆ちゃん。気を付けてね…。ぐす」

「ああ、出来るだけ早く帰って来るからね」

 涙ぐみながら自分を送り出そうとしている、ソフィアの頭を撫でながら、出来るだけ早く帰って来ると約束していた。
 どれだけ時間がかかるか分からないにも関わらずだったため、かなりの罪悪感を感じながらであったが。

 こうして世界を救うために出発しようとしている2人であったが、まさかの最大の障害、自分の身内に対して、完全に打ち負かされていたのであった。

 ◆

「ごめんよ…。ごめんよ…。ぐすっ。ちーん!」

「ふう…」

 遂に屋敷を出たユーゴは、涙ぐんでティッシュで鼻をかみ。ドロテアは、ああ言ったが長引いたらどうするかと、両者既に疲労困憊と言った様子で、どう見たって今の2人は姿通りの、草臥れた中年とヨボヨボの老婆であった。
 しかし、大陸の人種の運命が、この2人に懸かっているのは間違いなかった。

「そんでどうやってエルフの森へ行くんだ?あそこは直接転移出来んだろ?」

「いんや、私なら問題ないよ。まあ、飛ぶ先はエルフの森じゃなくて世界樹だけど、どっちも変わらんさ」

「ほほう」

 古代から存在する世界樹を有するエルフの森は、神々や古代エルフが施した守りが未だに機能しており、転移ももちろん不可能なはずであった。

「そんじゃ行くよ」

「ほいさ」

 しかし、ドロテアは何でも無いかのようにそう言い放つと、ユーゴの腕に触り、世界樹へと転移するのであった。
 転移の魔道具ではなく、もう片方の手に持った、白い長杖を起動させて…。

 ◆

 エルフの森 世界樹の下

「おおお!遠目では見た事あるけど、下から見るとすげえな!」

「写真を撮っといておくれ。ソフィアの土産にしないといけないからね。坊やも、クリスとコレットの分を撮るといい」

「おお!ナイスだ婆さん!あ、なんかお菓子とか売ってない?ここだけで売ってる」

「甘い樹液を混ぜ込んだ、クッキーみたいなのがある。子供用にはそれでいいだろう。大人連中には…茶葉かね」

「後でちゃんと買わないと」

 大きな大きな、途方もなく巨大な一本の木。
 世界の名を冠するだけはある巨木のすぐ下の、祭壇のような場所に転移して来たユーゴとドロテアであったが、その言動はどう考えたって観光客そのものであった。

「ん?でも人の気配が少ない様な…」

「ああ、ビムに言って第二都市みたいなとこに避難させてる。下手すりゃここら一帯が戦場だからね」

「そんなに面倒な奴らかい」

「5人目っていう、向こうの隠し玉しだいだけどね」

「さよけ」

 さてどこで土産を買うべきかと、世界樹に背を向けて、下に広がる街並みを見たユーゴは、街からの気配が妙に少ないと感じたが、それはドロテアが"はじまり"の襲来に備えて避難をさせていたためで、竜の襲来を常に想定していたエルフの森は、こういった避難計画を未だに維持していた。

「あ、下から長老が上がって来てるぞ」

「ド、ドロテア様ぁ!言って下さったらお迎えしましたのに!」

「全く。もうちょっと落ち着けんものかね」

「前から思ってたけど、婆さん結構偉い人?」

「フェッフェッフェッ」

 息を切らしながら、階段を上がっているビムの姿を見たドロテアの言葉と、転移した先が、いかにも立派で世界樹に最も近い祭壇だったこともあり、ユーゴは彼女に、前々から感じていた疑問を口にをするが、返って来たのは、これぞ魔女と言った笑い声であった。
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