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はじまり
怪物の死に目
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「それでどうすんだ?」
「あいつらがいつ来るか分からない以上、待つしかないね」
「ああ…。ごめんよクリス、コレット…。ダメなパパで本当にごめん…」
「情けない声出すんじゃないよ…。私だってソフィアの事があるんだ」
エルフの長老ビムの案内によって、客室に腰を下ろしたユーゴとドロテアであったが、世界樹防衛の為に"はじまり"の襲撃を待つ以上、どうしても待機する時間が長くなるため、自分と離れ離れになりたくないと泣いていた子供達に、彼は心の底から謝罪していた。
「仕方ない。その"はじまり"の面子と能力は?」
「そうさね。ドワーフが圧縮、巨人が怪力、魚人族が物理的衝撃と魔法を跳ね返す鏡、まあいった通り、この3人はどうとでもなる。特にドワーフと巨人は、坊やの超劣化した程度でしかないし、魚人族の女の鏡も、一方向でしか出せない」
「となるとやっぱり、言ってた人種の男と、よく分からん隠し玉か」
「ああ。まあ、イライジャの方も…関係ないか。イライジャも、坊やからしたらなんてことはない」
「なんだ、じゃあ5人目だけか。婆さんは座ってなよ。いきなりヨボヨボになられても困るからさ」
「それなんだがね…」
"はじまり"の面々の能力を知ったユーゴは、それならドロテアは待機して、自分が相手取ってくると提案したが、彼女は少し言いにくそうにしていた。
「どしたの?」
「イライジャの相手だけど、私がするよ」
「はん?婆さんが一番苦手な相手だよね?」
「まあそうなんだけど、少し因縁があってね」
「さよけ。じゃあ他4人は俺が相手するよ」
「頼めるかい?」
「何を水臭い。普段散々世話になってるんだから、どうってことないさ」
「ありがとよ」
自分をただの老婆に出来る相手をすると言ったドロテアに、まあ何か方法があるんだろうと、ある意味彼女を信頼して、ユーゴは他の4人の相手をすることを決める。
「じゃ私は準備しに行くよ」
「どこへ?」
「世界樹さ」
◆
夜 エルフの森郊外
「うーん困りましたねえ」
「困りました」
「そうじゃのう」
「ふん」
「そこまで頭が回らなかったわね…」
エルフの森の郊外にて、"はじまり"の面々は立ち尽くしていた。それはなぜか?
「我々の記憶より、ずっと森が広がってますね」
「ここら辺、普通に荒野じゃったのにの」
「どうすんのよ!」
「勢い込んで来て、迷子になったでは物笑いの種だ」
「いっそ吹き飛ばしますか?」
それは、自分達の記憶よりも遥かに広がっている森のせいで、土地勘が全く当てにならなくなっていただめだ。
「吹き飛ばすのも手ではあるんですが、我々が眠る前からすでに、森はとんでもなく広大でしたからねえ。それがさらに広がっているとなると…」
「やる前から徒労感を覚えるんじゃが…」
「ですよねえ」
妖精族の少女、ミリイの提案に、イライジャも否定はしなかったが、国が3つか4つはすっぽり収まるほどの広大な森を相手をするとなると、その徒労感にうんざりするのは目に見えていた。
しかもこの森は、古代のエルフや神々によって施された守りにより、森の中の魔力を感知する事が出来ず、世界樹も付近に近づかなくては現れないため、何か目印になる様な物も無かった。
「うーん…。仕方ありません、そう」
「こんばんわ皆さん」
しかし、他に妙案は浮かばず、仕方なくそうしようかと、イライジャが口を開いたときであった。
確かに先程までは誰もいなかったはずの自分たちの目の前に、森を背に1人の男が立ち、話しかけてきたのだ。
「…どなたです?」
「いつの間に…」
「…おいデカ物」
「…俺が気が付かんとは」
「ちょっと誰よ…」
話しかけられるまで、誰も目の前の男に気が付かなかった"はじまり"は、一気に警戒度を上げて身構える。
「故あって世界樹を守ろうとしていましてね。ですが、争いたいわけではないのです。少しお話をしませんか?」
「これはこれはご丁寧に。では死んでください」
正しかったことが1つ。間違っていたことが1つ。
正しかったことは、ミリイを除く全員が彼女の視界から下がり、正体不明の男を初手で殺せと意思表示し、ミリイもそれを理解して、自分の瞼を持ち上げた事ことである。
大陸最強の権能の一つ、"死に目"が男の姿をはっきりと捉えた。
その御力に例外はない。
生あるもの全てがその死因を叩きつけられる。
(心停止。老衰ですかね?)
男の心臓が止まるのをはっきりと感じたミリイは、そう呟こうとしたが。
バラバラになった体でそんな事が出来るはずがなかった。
間違っていたことは一つ。
怪物は殺せないと知らなかったこと。
7つの首を切られた蛇や、100の蛇の頭を雷霆で焼かれたまがい物達とは違う。
打倒された、殺されたものなど、怪物と呼ぶに値しないのだ。
「ミ!?」
「な!?」
「う!?」
ドワーフ、巨人、魚人が話せたのは一言だけ。
怪物が仲間の死に対する感傷を許すはずもない。
ただ殺すのみ。
「な!?な!?バカな!?なぜ死んでいない!?」
イライジャが喚くが、何を甘っちょろい事を言っているのだろうか。
いや、もっと未来の話、怪物の死因は心停止によるものである。それは間違いない。
心臓も確かに止まっていた。
少し付け足すのであれば、子に孫、ひ孫たちに囲まれながら、自分のすべき役割を全うしたと確信した怪物が、子供達を親不孝にさせないため、ゆっくりと眠った事である。
高々心臓を止めたくらいでこの怪物が止まるはずが無い。
「いやはや、心臓を止めるとは、とんでもない能力だったな。まあ、普通にまた動かせるが」
だから
決して怪物は殺せないのだ。
「あいつらがいつ来るか分からない以上、待つしかないね」
「ああ…。ごめんよクリス、コレット…。ダメなパパで本当にごめん…」
「情けない声出すんじゃないよ…。私だってソフィアの事があるんだ」
エルフの長老ビムの案内によって、客室に腰を下ろしたユーゴとドロテアであったが、世界樹防衛の為に"はじまり"の襲撃を待つ以上、どうしても待機する時間が長くなるため、自分と離れ離れになりたくないと泣いていた子供達に、彼は心の底から謝罪していた。
「仕方ない。その"はじまり"の面子と能力は?」
「そうさね。ドワーフが圧縮、巨人が怪力、魚人族が物理的衝撃と魔法を跳ね返す鏡、まあいった通り、この3人はどうとでもなる。特にドワーフと巨人は、坊やの超劣化した程度でしかないし、魚人族の女の鏡も、一方向でしか出せない」
「となるとやっぱり、言ってた人種の男と、よく分からん隠し玉か」
「ああ。まあ、イライジャの方も…関係ないか。イライジャも、坊やからしたらなんてことはない」
「なんだ、じゃあ5人目だけか。婆さんは座ってなよ。いきなりヨボヨボになられても困るからさ」
「それなんだがね…」
"はじまり"の面々の能力を知ったユーゴは、それならドロテアは待機して、自分が相手取ってくると提案したが、彼女は少し言いにくそうにしていた。
「どしたの?」
「イライジャの相手だけど、私がするよ」
「はん?婆さんが一番苦手な相手だよね?」
「まあそうなんだけど、少し因縁があってね」
「さよけ。じゃあ他4人は俺が相手するよ」
「頼めるかい?」
「何を水臭い。普段散々世話になってるんだから、どうってことないさ」
「ありがとよ」
自分をただの老婆に出来る相手をすると言ったドロテアに、まあ何か方法があるんだろうと、ある意味彼女を信頼して、ユーゴは他の4人の相手をすることを決める。
「じゃ私は準備しに行くよ」
「どこへ?」
「世界樹さ」
◆
夜 エルフの森郊外
「うーん困りましたねえ」
「困りました」
「そうじゃのう」
「ふん」
「そこまで頭が回らなかったわね…」
エルフの森の郊外にて、"はじまり"の面々は立ち尽くしていた。それはなぜか?
「我々の記憶より、ずっと森が広がってますね」
「ここら辺、普通に荒野じゃったのにの」
「どうすんのよ!」
「勢い込んで来て、迷子になったでは物笑いの種だ」
「いっそ吹き飛ばしますか?」
それは、自分達の記憶よりも遥かに広がっている森のせいで、土地勘が全く当てにならなくなっていただめだ。
「吹き飛ばすのも手ではあるんですが、我々が眠る前からすでに、森はとんでもなく広大でしたからねえ。それがさらに広がっているとなると…」
「やる前から徒労感を覚えるんじゃが…」
「ですよねえ」
妖精族の少女、ミリイの提案に、イライジャも否定はしなかったが、国が3つか4つはすっぽり収まるほどの広大な森を相手をするとなると、その徒労感にうんざりするのは目に見えていた。
しかもこの森は、古代のエルフや神々によって施された守りにより、森の中の魔力を感知する事が出来ず、世界樹も付近に近づかなくては現れないため、何か目印になる様な物も無かった。
「うーん…。仕方ありません、そう」
「こんばんわ皆さん」
しかし、他に妙案は浮かばず、仕方なくそうしようかと、イライジャが口を開いたときであった。
確かに先程までは誰もいなかったはずの自分たちの目の前に、森を背に1人の男が立ち、話しかけてきたのだ。
「…どなたです?」
「いつの間に…」
「…おいデカ物」
「…俺が気が付かんとは」
「ちょっと誰よ…」
話しかけられるまで、誰も目の前の男に気が付かなかった"はじまり"は、一気に警戒度を上げて身構える。
「故あって世界樹を守ろうとしていましてね。ですが、争いたいわけではないのです。少しお話をしませんか?」
「これはこれはご丁寧に。では死んでください」
正しかったことが1つ。間違っていたことが1つ。
正しかったことは、ミリイを除く全員が彼女の視界から下がり、正体不明の男を初手で殺せと意思表示し、ミリイもそれを理解して、自分の瞼を持ち上げた事ことである。
大陸最強の権能の一つ、"死に目"が男の姿をはっきりと捉えた。
その御力に例外はない。
生あるもの全てがその死因を叩きつけられる。
(心停止。老衰ですかね?)
男の心臓が止まるのをはっきりと感じたミリイは、そう呟こうとしたが。
バラバラになった体でそんな事が出来るはずがなかった。
間違っていたことは一つ。
怪物は殺せないと知らなかったこと。
7つの首を切られた蛇や、100の蛇の頭を雷霆で焼かれたまがい物達とは違う。
打倒された、殺されたものなど、怪物と呼ぶに値しないのだ。
「ミ!?」
「な!?」
「う!?」
ドワーフ、巨人、魚人が話せたのは一言だけ。
怪物が仲間の死に対する感傷を許すはずもない。
ただ殺すのみ。
「な!?な!?バカな!?なぜ死んでいない!?」
イライジャが喚くが、何を甘っちょろい事を言っているのだろうか。
いや、もっと未来の話、怪物の死因は心停止によるものである。それは間違いない。
心臓も確かに止まっていた。
少し付け足すのであれば、子に孫、ひ孫たちに囲まれながら、自分のすべき役割を全うしたと確信した怪物が、子供達を親不孝にさせないため、ゆっくりと眠った事である。
高々心臓を止めたくらいでこの怪物が止まるはずが無い。
「いやはや、心臓を止めるとは、とんでもない能力だったな。まあ、普通にまた動かせるが」
だから
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