推し活するため、平民にならせていただきますわ!

ミルクラウン

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第一章

15話

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 「それにしても家具、かぁ。やっぱフィリアも成長しようとしてるんだな。喜ばしいような、寂しいような」





 しみじみ、と言った様子で兄様が笑う。



 私は、カーテンに使うための布を手に取りながらむぅ、と顔をしかめた。子供扱いされた気がしたのだ。実際子供なのだが、生きていた年数は彼より上なのだ。……総合したら。





 「おぉ、むくれた。はいはいかわいいかわいい。それより、こっちの布とかどうだ?」





 少し高い位置にある布を指して兄様が言う。その様子はどこまでも楽しそうだ。







◇ ◇ ◇







 あの後。部屋の模様替えがしたいと言った私に、兄様はきょとんとして、それからすぐに笑顔になった。





 『丁度いい!じゃあ、これから兄様とデートに行こう!』





 その一言から始まって、今、私は街にある家具屋さんを見に来ている。時刻は丁度お昼を少し過ぎた頃で、店内に他の客は見当たらなかった。店の店長は、いきなり現れた侯爵家の人間に腰を抜かすほど驚いていたが、相手が兄様と私だったからか、すぐに落ち着きを取り戻してくれた。私は(最近特に)メイドさんたちにくっついて街まで来ているし、兄もその辺は結構ルーズだ。一応、護衛の人もいるし、執事長のエドウィンさんにも許可は(半ば呆れられたが)もらっている。



 それに、この家具屋さんで扱っている品物は、お手頃なものから王侯貴族が使うようなものまで幅広い。店長さんが驚いたのは、一重に私たちが直接店に行ったからだと思われる。





 「いやはや……驚きました。クラネリア侯爵家の方々が直々にお見えになるとは……いえ、失礼いたしました。何か入りようですかな?」

 「今すぐに、というわけではないのですが、少し家具を見させてもらってもいいですか?」





 流石、兄様はこういう時には頼りになる。貴族なのにも関わらず、決して嫌味でもなく無礼でもなく、慇懃でもない。ぜひ見習いたいものだ。この前は何も知らない状況だったからノア君とも話せたけど、もし学園に入って話す機会があったら絶対に貴族として見られてしまうだろう。



 違うの!そうじゃないのよ!私はむしろ、貴族に相応しくない振る舞いをして、殿下にフられたいの!!



 そんな心の叫びは間違っても兄様たち家の人の前では言えないから、秘めてるけど……。



 とほほ、とマンガのようなリアクションを(頭の中で)している私の横で、兄様は楽しそうにしている。2ヶ月ぶりの地元が嬉しいのか、買い物が楽しいのかはわからないが……





 「あっ、フィリア、これは?」

 「はい?」





 これ!と兄様が差し出してきたのは1枚の綺麗な布だった。淡い緑色で、艶のある生地で出来ている。





 「わぁ……!」





 ええ、めちゃくちゃ好みでした、ハイ。





 「気に入ったか?」

 「……それはもう」

 「ほっほーう。それはそれは。自分で選ぶ!って豪語してたのになぁ?」

 「うっ……かっ、からかわないでください!」





 確かに、「どっちがフィリア好みのカーテンを選べるか競争するか?」「私がいるのだから勝負にならないでしょう……」「わからないぞー?」なんて会話をしていたが……正直、脱帽だ。





 「あはっ、悪い悪い。お詫びにこれはお兄様がフィリアに献上しよう」





 値段を確認しようとした私から、ひょいと手の届かない位置に布を上げ、兄様は店員さんを呼ぶ。





 「献上、って……兄様!私が自分でお父様に頼むという話だったのでは!?」





 そう。模様替えの話をして買い物に行こうと誘ってもらった時、兄は私にただし、と付け加えたのだ。



 『今回は下見をするだけ!あの部屋全部をそっくり変えるつもりなら、父上や母上にも相談しないといけないからな!』



 元より兄様にねだるつもりなどなかった私は、素直に頷いてここまで来たのだが……そうか、だからか、あんなに楽しそうにしてたのは!!



 ゲームの中でも、レオンはとにかく人を喜ばせたり驚かせることが大好きで、よくサプライズを仕掛けたりしていた。それも、決してKYなサプライズではなく、しっかりと相手に配慮したサプライズばかり。……なるほど、あの性格は小さい頃からのものか……。



 既に私の部屋の窓のサイズを測らせていたらしい兄様は、店員さんに布のサイズを言って、後日届けてもらう約束までしてから私を振り返って、





 「いーよいーよ。2ヶ月も寂しい思いをさせただろうし、成長しようとしてるフィリアに贈り物だ。その代わり、すぐに飽きて変えたりしたら駄目だぞ?」

 「兄様……その、えーと……ありがとうございます」





 ここまできたら何を言っても無駄なので、素直に甘えることにした。お礼を言うと、うん、と嬉しそうに笑って頭を撫でてくれる。本当に、まるでゲームの再現みたいだ。



 多分、兄様は自分のお小遣いの中からお金を出してくれたに違いない。お小遣いと言っても両親からのものではなく、兄様自身が働いた報酬としてのお金だ。申し訳なさもあるが、同時に決して安くはないであろう布をあっさり買えるって、兄様スゲー、という感想も出てきた。





 「お待たせ!来週には届けてくれるってさ」

 「兄様、本当にありがとうございます」

 「いいってこと!……で、なんだけど」





 そこで、兄様がふと気まずそうに頰をかいた。なんだろう?と思っていると、兄様は少し言いにくそうに、かつこちらを伺うように、





 「フィリア……ちょっと、付き合ってほしいところがあるんだけど……」





 と言った。





 「な、なんですの……?」





 いつになく緊張した兄の様子にこちらもかしこまる。やがて、「実は……」と、意を決したように兄が言った場所は____







◇ ◇ ◇







 「レオンお兄ちゃーん!!」

 「わぁ、レオン兄ちゃんだ!久しぶりー!やったー!!」

 「こっちの女の子、誰ー?レオン兄ちゃんのカノジョー?」





 その門をくぐった瞬間、私たちは瞬く間に子供たちに囲まれてしまった。





 「に、兄様、ここは……」

 「はい、えーと、はい。孤児院です。はい」





 元気な子供達にもみくちゃにされながら会話を交わす。ここから先は歩きで行こう!と言った兄と、馬車から降りてたどり着いた先は、孤児院だった。



 なるほど、だから兄様は頑なに伝えたがらなかったのね……と納得する。何故なら、孤児院は昔フィリアが絶対に行かない!と宣言した場所だったからだ。



 クラネリア家も奉仕活動の一環として多大な寄付金を払っているのが、この『天使の家』という名前の孤児院。幼き日のフィリアは、その話を聞いた時、あろうことかこう叫んだのだ。『どうしてお父様が頑張った分のお金をそんな貧民に渡さなくちゃいけないの!?』と。



 当時は子供の純粋な疑問として流されたが、それ以降その話が我が家で出ることはなかった。が、しかし、このタイミングで兄は私をここに連れてきた。それは何故か?理由は色々と考えられるが、おそらく、1番の理由は私が王子の婚約者となったからだろう。



 ちなみに、婚約云々の話はまだまだ内輪の話で、我が家と王家、そして他のごく一部の貴族しか知らないことだ。この前出会ったラルフやルカが知っていたのは、恐らく彼らの生家が王家と密接に関わっているからだろう。……単なるゲーム上の使用の可能性もあるが。



 とにかく、本当に王妃になるのであれば、慈善活動は必須のスキルだ。幼いうちから慣れていけば、少しずつでも偏見や差別がなくなるかもしれない……という兄心がここにはふくまれているのだろう。だとすれば甘んじて受け入れたい。受け入れたい、のだが……!!





 「うわー、なんだよコイツ!頭悪そー!!」

 「ちんちくりんー!!」

 「な、なんですってーー!?」





 何故初対面の悪ガキにここまで言われにゃならんのだ!と私はこらー!とアリクイのポーズをする。





 「なーんだそれ、だっせー!」

 「なっ、なんてことを!?伝家の宝刀、アリクイの威嚇のポーズをバカにするなんてぇー!もー怒った!追いかけてやるー!!」

 「うおー、ちんちくりんが怒ったー!皆逃げろー!!」





 「「キャーー!!」」





 楽しそうに叫びながら逃げていく子供達と、追いかける私を見て、





 「そのままちょっと遊んでてー!」





 と言い残して、兄は孤児院の建物の中へと入っていった。い、妹の心兄知らずか……。







◇ ◇ ◇







 「はぁ、はぁ"……」





 つ、疲れた……私のライフはもう0よ……



 あの後、怒涛の鬼ごっこ6連戦を繰り広げた私は、すっかり体力を失って木陰で休んでいた。行儀が悪いとは思いながらも、ぺたんと地べたに座り込む。だ、だめだ、体力間違いなく落ちてる……貴族ってあんまり動かないのよね……前世でも動かなかったけど……。



 相変わらず他の子たちは元気に遊んでいる。すごいなー、体力もたないよーと(たいした年が変わらないくせに)思いながら見ていると、





 「あの、これ……よかったら、どうぞ」





 と、私に声が降りかかった。男の声だったので、兄様だな、と思って差し出されていたコップを受け取り、中に入った水を一気に煽る。ぷはー、助かったぁ、と言って顔を上げると、













 「大丈夫ですか?皆、とっても元気ですよね」













 日の光の下、ふわりと透けるような水色の髪。楽しそうなアメジストの瞳。聖母の如き笑み。



















 「のっ、ののののの」

















 「はい、ノアです。……また、会えましたね」





















 そろそろ私、死ぬのかもしれない。
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